【指導参考事項】
成績概要書                      (作成:平成3年I月)
1.課題の分類  総合農業 総合研究
          草地 飼料生産・利用 舎飼飼養
          畜産 肉用牛 栄養飼料
          北海道 家畜・草地合同
2.研究課題名  近赤外分析法によるアンモニア処理麦稈の栄養価推定
          (低・未利用資源の活用による肉用牛生産システムの確立
          ①低消化性繊維質飼料の高度利用技術の開発)
3.予算区分  経常・受託
4.研究期間  (平成2年)
5.担当  北農試・企画連絡室・総研3チーム
6.協力・分担関係  十勝農協連農産化学研究所

7.目的
アンモニア処理麦稈の栄養価の近赤外分析法による非破壊迅速推定法を確立する。

8.試験研究方法
無処理麦稈3種類、アンモニア処理麦稈6種類、合計9種類の小麦稈についてめん羊による消化試験を実施し、TDN含量を測定した。また、得られた各成分消化率から代謝エネルギー量を求めた。TDN含量を推定するための成分としてCP、NDF、ADF、と酵素分析法における細胞内容物(OCC)、セルラーゼ可溶性繊維(CSNDF,Oa)、セルラーゼ不溶性繊維(Ob)を採用した。近赤外分析はネオラック6500(モノクロメータ型)を用いた。アンモニア処理麦稈(無処理麦稈を含む)84点より48点を選抜、各成分についてスキャン範囲1100〜2500nmでキャリブレーションを行い、残りの36点を未知試料としてキャリブレーション精度の評価を行った。

9.結果の概要・要約
TDN含量推定に供試した麦稈のTDN含量は最低が42.2%、最高が61.2%の範囲に分析しており代表的な試料を見なされた。TDN含量と成分含量との間の回帰式、相関係数、回帰推定の標準誤差をみると、OCC+OaおよびCPからの一次式が標準誤差が小さく最も優れていた。ADF,NDFはTDN含量との相関係数が低く、標準誤差も大きかった。
未知試料を用いたキャリブレーションの推定精度は、CPが最も高く、NDF,ADF,Obについても実用に充分な精度が得られた。灰分はやや精度が落ちるが標準誤差は1%以下であった。EEは標準誤差は低いものの、レンジが狭いためEIで評価した場合の推定精度は低くなった以上の結果から近赤外分析法によりアンモニア処理麦稈及び無処理麦稈の化学組成及び栄養価推定が実用上、可能であると判断した。

11.成果の活用面と留意点
①アンモニア処理によりCP含量が2-3倍に高まるが、その多くがアンモニア態N及びアマイド態Nである。この吸着Nはルーメン微生物により利用されるが、その利用率は供給されるエネルギー量やタンパク質量によって異なり、過剰のアンモニアは尿素として体外に排出されることになり、通常の飼料のCPよりもその栄養価は劣っている。TDNの算出にはCPが含まれているためアンモニア処理麦稈のTDN量は実際より、高く評価される。
②麦稈のCP量は生材科について分析すべきであるが乾燥材料について分析した。したがって、①で説明したTDN量の過剰評価は相殺されていると見なされる。なお、生材料中のCP量は次式により推定出来る。Y=1.183X1-0.150X2+15,612 R2=0.843
(Y:生材料中CP%、X1:通風乾燥サンプルの乾物中CP%、X2:乾物%)

表1 TDN含量推定式の作成のために供試した
   無処理麦稈およびアンモニア処理麦稈の
   試料成分、栄養価         (DM%)
麦稈 Ash CP ADF NDF Oa Ob TDN ME
無処理1 8.9 3.4 47.1 73.7 6.0 67.7 42.2 6.50
無処理2 7.0 3.7 51.3 81.3 9.8 71.6 42.8 6.45
無処理3 6.4 3.3 51.0 82.9 11.9 71.0 42.6 6.57
NH3 1% 6.5 6.6 50.5 80.6 17.2 63.4 50.0 7.59
NH3 2% 6.8 10.0 51.4 73.9 23.4 50.6 61.2 9.34
NH3 3% 7.1 8.1 49.9 75.5 18.8 56.7 59.1 9.01
NH3 3% 7.9 7.5 48.9 68.1 20.5 47.5 55.7 8.35
NH3 3% 7.9 7.8 60.7 71.8 21.9 49.9 55.7 8.53
NH3 3% 6.8 8.5 51.5 77.3 17.3 59.9 54.0 8.24

表2 各成分よりTDN及びMEを求める回帰式と相関
説明変数 回帰式 r Se
<ADF> TDN=1.242×ADF-10.97 .24 7.7
<NDF> TDN=-0.872×NDF+117.87 -.57 6.5
<Ob> TDN=-0.713×Ob+94.12 -.89 3.4
<OCC+Oa> TDN=0.743×(OCC+Oa)+26.99 .91 3.2
TDN=-729.91/(OCC+Oa)+75.31 .94 2.6
ME=0.115×(OCC+Oa)+4.04 .91 0.5
ME=-112.69/(OCC+Oa)+11.49 .94 0.4
<CP> TDN=2.890×CP+32.55 .97 1.9
ME=0.449×CP+4.88 .97 0.3

表3 キャリブレーションの相関と標準誤差
成分名 Range r Se 使用
波長数
DM 93.2-98.8 0.81 0.79 3
Ash 4.5-10.9 0.64 0.91 2
CP 1.8-11.0 0.96 0.68 2
ADF 43.0-54.9 0.73 2.12 3
NDF 68.2-82.9 0.83 1.65 3
Ob 47.5-72.7 0.89 2.83 3
EE 0.6-2.9 0.69 0.41 2

表4 未知試料による推定精度の評価
成分名 Range(差) SDP EI 評価 実用性
DM 94.0-98.5(4.5) 1.02 45.1 D ×
Ash 5.8-10.9(5.1) 0.88 34.8 C
CP 2.0-9.2(7.2) 0.70 19.4 B
ADF 43.5-54.2(10.7) 1.20 22.6 B
NDF 68.1-81.5(13.4) 1.41 21.6 B
Ob 47.5-71.6(24.1) 2.83 23.6 B
EE 0.9-2.5(1.6) 0.47 57.0 E ×
SDP:推定誤差の標準偏差
EI:推定精度の評価指数 EI=(2×SDP/Range)×100
A:極めて高い B:高い C:僅かに高い D:低い
E:極めて低い


図1 アンモニア処理麦稈の飼料成分とTDN含量との関係

12.残された問題点とその対応
①えん麦稈、大麦稈、稲わらについても同様な手法の開発が必要である。次年度の研究で対応。
②アンモニア処理麦稈のTDN評価におけるCPの過剰評価の問題は専門場所での検討が必要。