【指導参考事項】
成績概要書                    (作成3年1月)
1.課題の分類  総合農業 営農 経営−3-7-4
          北海道 経営
2.研究課題名  畑作経営の所得形成のコスト要因分析
         −国際化に対応した畑作経営の展開条件−
3.予算区分  道費
4.研究期間  (昭63年〜平2年)
5.担当  十勝農試経営科
6.協力・分担関係  中央農試経営部
             根釧農試経営科

7.目的
本道の農業経営は、農産物の内外価格差に起因する輸入圧力や食料需要の停滞から計画生産を余儀なくされ、最近の農産物行政か価格は低下傾向を示している。このため、国際的な商品生産を主体とする畑作経営においては、国際競争力を想定した営農を進める必要があり、畑作物生産コストの一層の低減が求められている。
そこで、低コスト生産の可能性とその限界、及びそれに到達する経営条件とそのあり方を明らかにし、畑作経営展開方向の指針を得る。

8.試験研究方法
(1)畑作経営の実態調査による主要畑作物の生産費の把握
(2)畑作物のコスト水準と格差の実態解析、コスト低減の要因分析
(3)低コスト化経営モデルのシミュレーション分析
(4)畑作物のコスト低減の可能性と限界、低コスト達成のための経営条件と誘導手順

9.結果の概要・要約
(1)十勝中央部の畑作経営を対象に主要畑作物コスト水準とコスト規定要因を分析した。主要畑作物生産費の規定要因としては、てん菜の生産費は機械費など物財費、食用・加工用馬鈴しょは収量と物財費との関係が示される。秋まき小麦は費用の経営間差が僅かである。畑作経営は複数の基幹作物を組み合わせた輪作をとるため、個々の畑作物生産費を基礎に経営全体のコスト評価が可能な指標を計測した。この結果、経営の総合コストは、畑作物作付面積が20ha以下の小規模階層経営間差異が大きく示され、この要因としては労働見積の費用差が反映している。
(2)調査対象農家において低コスト生産を展開している経営群では、畑作物の収量向上の他に10a当たり生産費の低減率が4〜12%あり、収量を加味した単位生産物当り生産費の低減率は10〜20%となっている。この低コスト化の要因としては、肥料等の低価格資材の利用、機械施設費では使用年数の延長と専用作業機の共同所有、及び労働効率を高め労働費の節減があげられる。
(3)この低コスト経営の生産費水準では、畑作物価格10%低下に対して農業所得の形成と家計費の充足が可能となる。しかし、労働効率を高めた低コストの実現は農業所得を構成する家族労働費など費用見積を減少することになり、低コストと所得形成の両者が併進する畑作経営の下限規模は拡大することになる。
(4)次に、畑作物価格が20%低下する条件においては、農業所得の確保が容易ではない。大規模畑作経営は家族労働費と地代の費用見積を犠牲とすることで家計費を充足することが可能となるが、健全な経営運営を欠き持続性を持ち得ない。しかし、この費用削減の取り組みに10a当たり収量の向上が加われば農業所得の増加が可能となる。
(5)農業団体などでは、国際化の対応として畑作物の低コスト経営では35〜45%、低コスト経営では25〜35%の節減が必要になり、低コストの実現を機械費や肥料費など物財費の節減のみでは限界がある。費用節減とあわせて増収技術の実践による収量向上の技術革新が必要となる。

10.成果の具体的数字


図 畑作物の総合コストと作付面積
注1)対象とした畑作物はてん菜、馬鈴しょ、小麦、小豆。
  従って、作付面積は4作物の累計であり耕地面積の一部。
 2)総合コスト指標はΣCiHi/ΣHiで算出した。
  Ci:対象作物の(単位当たり生産費/単位当たり生産物価格)×100
  Hi:対象作物の作付面積

表 低コスト生産と農業所得   単位:千円
畑作物
価格
収量
増加率
耕地規模
20ha 25ha 30ha 35ha
10%低下 標準 6,663 8,708 10,434 11,565
20%低下 標準 4,824 6,408 7,690 8,410
5%増 5,557 7,326 8,788 9,658
10%増 6,298      
30%低下 5%増     5,909 6,384
10%増 4,274 5,722 6,876 7,485
所得の源泉額 5,518 7,053 8,385 9,321
注1)前掲表の経営条件に低コスト経営の収量と
  費用実績をもとに試算した。
 2)低コスト経営の生産費は以下に示した(低コス
  トの要因は、流動物財費、機械減価償却費、労働
  費の節減と収量の向上要因)。
                                単位:トン、俵、円
  てん菜 馬鈴しょ 秋まき
小麦
小豆 スィートコーン
加工用
食用 加工用
10a当収量
(農家平均費:%)
5.755
(99.8)
3.243
(112.6)
3.452
(109.2)
8.58
(104.6)
4.4
(100)
1.37
(116.9)
10a当り生産費
(農家平均比:%)
81,473
(88.1)
84,769
(89.0)
90,319
(96.1)
57,611
(99.4)
64,392
(89.9)
50,988
(76.9)
生産物当り生産費
(農家平均比:%)
14,157
(88.3)
261
(78.9)
262
(88.2)
6,715
(90.5)
14,635
(89.9)
37.2
(65.7)

11.成果の活用面と留意点
十勝中央部の比較的生産力が高く根菜作(てん菜、食用・加工用馬鈴しょ)と小麦作主体の畑作経営を対象にコスト分析を試みている。従って、畑作物の収量水準が低い畑作地帯の適用に当たっては補正が必要となる。

12.残された問題とその対応
この分析で調査対象としたのは耕地規模が20〜40haの畑作経営であり、畑作物のコスト評価と経営規模との関連については明確な傾向がみられなかった。しかし、コスト低減方策の一つに規模の経済性が指摘されており、農地拡大(取得、借入)を考慮した低コスト生産の追求は今後の課題として残された。