1.課題の分類 総合農業 営農 経営−2-2-9 北海道 経営 2.研究課題名 大規模酪農経営の低コスト・高生産性経営の展開条件 (国際化に対応した低コスト・高生産性経営の展開条件) 3.予算区分 道費 4.研究期間 (昭和63〜平成2年) 5.担当 根釧農試 経営科 6.協力・分担関係 中央農試経営科、十勝農試経営科 |
7.目的
国際化・農畜産物輸入の自由化が新たな段階に入り、農畜産物のコスト低減要請が一段と強くなってきている。そのため、国際競争に対応しうる牛乳生産コスト低減の可能性とそれを実現し得る酪農技術や経営展開の方向並びに展開の条件を明らかにする。
8.試験研究方法
1)国際化、農畜産物輸入自由化などの酪農の環境条件変化の見通しと対応の方向を中期と長期に区分して整理する。
2)今後の酪農を担う先進的な酪農経営の精査によって、国際化時代に対応した経営、技術展開の方向と生産性向上、コスト低減の中長期的な見通しを明らかにする。
3)先進的酪農経営の普及と経営展開の支援条件を明らかにする。
9.結果の概要・要約
1)今後(国際化時代)の酪農の環境条件変化の見通しと対応の方向
①為替レートの影響もあって、欧米、豪州等との生産者乳価の格差がここ数年で大幅に拡大している。欧米、豪州並の生産者乳価(20〜40円代/kg)の早急な実現は難しいが、当面、焦点となっている価格支持=補給金の削減に対応しえる60円/kg水準へのコスト低減が急がれる。
②長期的には欧州なみの40円代が目標となるが、この水準の実現は農業内部の努力だけでは不可能であり、飲用乳価とのプールによって加工原料乳価をこの水準に近づけながら、生産資材価格差の縮少や乳製品加工コストの低減を図る必要がある。
2)国際化に対応した経営、技術展開の方向と生産性向上、コスト低減の見通し
①農外産業の労働時間の短縮する傾向にあり、今後の酪農経営はコスト低減や所得確保と同時に、労働時間の短縮や休日の確保を可能にする省力化や作業の標準化が必要になる。
農林水産省牛乳生産費調査から推計すると、現在一般的なスタンチョン飼育方式では家族労力2人強で経産牛50頭が限度となっており(表1)、今後の多頭化による生産性の向上やコスト低減には乳牛飼育方式の転換が必要になっている。
②今後の多頭化と担うフリーストール飼育方式は飼料給与や搾乳作業の省力化によって、家族労力2人で100〜120頭の経産牛飼育が可能になり(表2)、作業や管理の標準化が進むため代休要員による休日の確保が容易になる。
③フリーストール牛舎、施設、機械装備の新設費用は、搾乳牛100頭(経産牛120)規模では8千万円強が必要になっている。多頭化の進行過程にあって牛舎機械装備の利用度が低く、新しい乳牛管理方式が未熟なこと等から、新設のフリーストール多頭経営のコスト水準は、スタンチョン方式や改築、一部自家造作あるいは旧来のフリーストール経営に向上や管理の成熟が進めば、ほぼ55円/kg前後のコスト水準が可能になる。また、多頭化とあいまって搾乳部門の所得額が極めて大きくなり、農家経済面(家計費充足)では多頭化が制約される中小経営群よりも優位になる(表3)。
3)先進的経営の普及と経営展開の支援条件
①フリーストール経営は生産性は高いが建物、機械装備費が極めて多額であり、一部自家造作も組合せ得る柔軟な補助制度が必要である。
②フリーストール化により乳牛飼育面の省力化は進むが、粗飼料生産との競合やスタンチョン経営の労働過重を緩和する支援体制が必要である。
10.主要成果の具体的数字
表1 飼育労働時間からみたスタン
チョン方式の飼育限度頭数
(1人1日8時間前提)
指 標 |
労働 力数 |
経産牛 飼育限度 頭数 |
粗飼料生産 ピーク期1人1日 当り労働時間 |
推 計 値 |
2.0 | 36.9 | 12.7 |
2.5 | 51.4 | 12.3 | |
3.0 | 66.0 | 12.1 | |
3.5 | 80.5 | 11.9 | |
回 帰 式 |
経産牛頭数(x)と1日当り 乳牛飼育時間(y) y=0.275x+5.85(r=0.7956,n=49) |
||
経産牛頭数(x)と粗飼料ピーク 期1日当り総労働時間 y=0.375x+11.5(r=0.7212,n=49) |
表2-1 搾乳機械施設と搾乳可能頭数
ミルカー ユニット数 |
機種 | 作業 者数 |
初回装 着時間 |
列当滞 留+出 入時間 |
1回2時間 内の搾乳 可能頭数 |
搾乳機械施設と搾乳作業 時間との関係式 |
4D | ヘリンボーン | 1 | 3.0 | 12.0 | 76 | y=h1+n÷u×h2 |
ヘリンボーン | 2 | 2.0 | 10.0 | 92 | y:搾乳時間 | |
6D | ヘリンボーン | 2 | 4.0 | 12.0 | 114 | h1:初回装着時間 |
8D | ヘリンボーン | 2 | 4.5 | 15.0 | 120 | n:搾乳頭数 |
ライトアング | 2 | 4.0 | 12.0 | 152 | h2:列平均滞留+出入時間 |
表2-2 飼料給与方式の類型別労働時間
類型 | 飼料給与方式 | 標準的労働時間(経産50〜120頭) | ||||
粗飼料 | 配合,濃厚 | 標準時間 | 頭数増に伴う傾向 | |||
スタンチョン | A | 給餌車 | 給餌車 | 3.3〜7.3 | 0.0564×(頭数)+0.525 | |
フリー ストール |
単 群 |
B | 自由採食 | パーラー | 0.7〜1.0 | 給餌場の給与量増で微増 |
C | オートフィーダ | パーラー | 0.7〜1.0 | フィーダ看視、調整増で微増 | ||
D | ミキサ,オートフィーダ | コンピュータフィーダ | 1.0〜1.5 | ミキシング量増で微増 | ||
E | ミキサ | コンピュータフィーダ | 1.0〜2.0 | ミキシング量増で微増 | ||
F | トラクタ,ミキサー | 給餌車 | 1.5〜3.0 | 濃飼給餌の時間増 | ||
2群 | G | オートフィーダ,トラクタ | パーラー | 1.5〜3.5 | ||
3群 | H | ミキサー | ミキサー | 1.5〜3.5 | ミキシング量増で増加 |
表3 牛舎利用率向上及び頭当り乳量向上後のコスト低減試算(平成1年)
(金額単位:コスト,円、所得,万円)
類型 | 農家 番号 |
経営概況とコスト(現況) | 牛舎利用率 頭乳量向上試算 |
|||||
通年経 産牛数 |
経産頭 当乳量 |
第2次 生産費 |
搾乳部 門税引 所得(万 |
第2次 生産費 |
搾乳部門 税引所得 |
|||
フ リ ー ス ト ー ル |
新型 新設 |
1 | 84.3 | 7531 | 6046 | 1378 | 5109 | 2350 |
2 | 66.7 | 5656 | 7612 | 38 | 5104 | 2508 | ||
3 | 64.6 | 8982 | 6903 | 619 | 5791 | 1582 | ||
4 | 71.9 | 5794 | 4470 | 1484 | 4522 | 1872 | ||
5 | 59.6 | 7326 | 6108 | 809 | 6293 | 588 | ||
新型 改築 |
6 | 86.8 | 7604 | 5569 | 1282 | 4652 | 2797 | |
7 | 50.6 | 7296 | 6857 | 494 | 5648 | 1146 | ||
8 | 46.8 | 8168 | 5223 | 819 | 4814 | 1502 | ||
旧型 | 79.5 | 6979 | 6142 | 966 | ||||
部分 | 51.1 | 8168 | 6761 | 527 | ||||
スタンチョン | 62.9 | 7874 | 6204 | 1009 |
11.成果の活用面と留意点
スタンチョン飼育方式の多頭化限界と、急増しているフリーストール飼育方式の多頭化、コスト水準の見通しを立て得るが、牧草サイレージ主体の検討のため草地型酪農以外には適用できない。
12.残された問題とその対応
1)フリーストール経営の普及に伴う粗飼料基盤の拡大、整備の見通し
2)フリーストール経営の粗飼料生産繁忙期やスタンチョン経営の労働過重を緩和する支援体制
3)多頭化の制約から農家経済から厳しくなるスタンチョン経営の集団化による展開の方向