新品種候補(作成 平成5年1月)
1.課題の分類
2.場所名  北海道立中央/十勝/北見/根釧農業試験場、農林水産省北海道農業試験場
3.新品種候補系統名  ばれいしょ輸入品種「S892」

4.来歴および試験経過
1)来歴
 ばれいしょ輸入品種「S892」は、耐病虫性、多収性およぴでん粉特性に優れた品種の育成を目標に、オランダアベベ社において「RR62-5-43」を母、「VT562-69-5」を父として交配し、以降選抜を加え育成したものである。昭和50年にオランダで「Astarte」の名で公開された。
2)系譜

3)導入と試験経過
 昭和61年に、ホクレン農業協同組合連合会と北海道澱粉工業協会が共同でオランダアグリコから同品種の塊茎を取り寄せ検疫輸入した。昭和62年に、ホクレン農総研において試験用種いもの増殖を開始した。昭和63年に、ホクレン農総研においてばれいしよ輸入品種検定予備試験を行った。平成元年から平成4年にかけて、同品種に「S892」の名を付し、十勝、北見および根釧農試においてばれいしょ輸入品種等選定試験、北農試において生産力検定試験を行った。さらに平成3年と平成4年に、北海道内のでん粉原料用地域におけるぱれいしょ輸入品種現地試験に供試するとともに、中央農試においてジャガイモシストセンチュウ抵抗性検定およびウイルス病抵抗性検定試験、十勝農試において塊茎腐敗抵抗性検定試験並びに栽植密度および施肥量適応性検定試験、根釧農試においてそうか病抵抗性検定試験およぴでん粉特性検定試験、北農試において疫病抵抗性検定試験、ホクレン農総研においてでん粉特性検定試験などを実施した。

5.特性
【1.形態的特性】
 そう性は中間で、茎の長さは「紅丸」および「コナフプキ」より長い。茎の太さは中で、分枝数は「紅丸」並の中である。頂小葉は「コナフブキ」並の大きさであるが、小葉は「紅丸」よりやや小さい。生育後半に葉基部が退緑化し、葉縁が巻くことがある。小葉着生の疎密は「紅丸」並の密である。花の数は「紅丸」並の多である。花の大きさは「紅丸」および「コナフブキ」より小さい。花の色は赤紫で、花弁の先が白である。花粉の多少は中で、結果数は「コナフブキ」より少なく稀である。塊茎は卵形で、皮色は白黄で、表皮は「紅丸」と同じくやや粗である。目の数は中で、目の深浅は「紅丸」並のやや浅で、肉色は黄白である。
【2.生態的特性】
 休眠期間は「コナフブキ」並である。枯凋期は「紅丸」および「コナフブキ」より遅い晩生に属する。初期生育は「紅丸」より劣り、「コナフブキ」並のやや遅である。早期肥大性は「紅丸」より遅い。上いも重はやや多に属する。上いも数は「紅丸」および「コナフブキ」並の多である。上いも平均一個重は軽くやや小に属する。粒揃いは中である。でん粉価は「紅丸」より高く、「コナフプキ」よりやや低いやや高に属する。10a当りでん粉重は「紅丸」よりやや多く「コナフブキ」並の多に属する。褐色心腐の発生は「紅丸」より少なく「コナフブキ」並である。中心空洞の発生は「コナフブキ」並の微である。二次生長は「紅丸」並の中である。疫病については抵抗性主働遺伝子R3を持つ。疫病による塊茎腐敗抵抗性は「農林1号」並である。ジャガイモシストセンチュウのパソタイプRo1に対する抵抗性主働遺伝子H1を持つ。
【3.でん粉特性】
 灰分含量は「コナフプキ」より少なく「紅丸」並である。りん含量は「コナフブキ」より少なく「紅丸」並である。平均粒径は「コナフブキ」よりやや大きく「紅丸」並である。糊化開始温度は「コナフプキ」よりやや低く「紅丸」並である。最高粘度は「コナフブキ」より低く「紅丸」並である。最高粘度時の温度は「紅丸」よりやや低く「コナフブキ」並である。ブレークダウンは「コナフブキ」よりやや小さく「紅丸」並である。

6.試験成績
1)農業試験場
試験場 品種名 枯凋期(月.日) 上いも重
(kg/10a)
でん粉価(%) でん粉重
(kg/10a)
対標準化(%)
十勝 S892 9.29 4,394 19.4 810 114
紅丸 9.24 4,798 15.6 709 100
コナフブキ 9.21 4,165 21.3 846 119
北見 S892 [10.5] 4,044 18.4 705 128
紅丸 10.2 4,412 13.4 550 100
コナフプキ [9.25] 4,055 20.0 769 140
根釧 S892 (10.14) 4,025 20.7 795 114
紅丸 (10.12) 4,490 16.5 695 100
コナフブキ (10.6) 3,729 22.0 781 112
北農試 S892 [10.3] 4,587 18.6 805 105
紅丸 [10.1] 5,292 15.5 764 100
コナフプキ [10.1] 3,919 21.7 808 106
注1)試験年次は平成元年〜4年。ただし十勝農試の平成3年は未供試である。
  2)枯凋期欄の( )は霜による枯凋を含む。
  同様に[ ]は収穫時に枯凋期に達していない年を含む。
  3)上いも重は20g以上を示す。

2)現地
試験場 品種名 上いも重
(kg/10a)
でん粉価(%) でん粉重
(kg/10a)
対標準化(%)
士幌 S892 4,250 20.7 829 116
紅丸 4,490 16.9 714 100
コナフブキ 3,781 22.7 817 116
更別 S892 4,067 20.7 801 109
紅丸 4,101 18.7 736 100
コナフブキ 3,774 22.7 817 113
浦幌 S892 4,016 17.8 696 133
紅丸 4,422 12.9 525 100
コナフブキ 4,236 19.0 768 146
網走 S892 5,740 18.9 1,027 115
紅丸 6,237 15.4 895 100
コナフブキ 5,398 17.7 900 101
小清水 紅丸 5,405 19.5 1,000 97
コナフブキ 6,370 17.1 1,026 100
S892 4,160 19.3 760 74
斜里 紅丸 5,315 20.2 1,021 116
コナフブキ 5,654 16.6 882 100
S892 4,516 20.6 885 100
注)試験年次は平成3〜4年。ただし試験地変更のため小清水は平成3年、斜里は平成4年のみの成績である。

7.配付しうる種苗量‥原々種120kg(農林水産省種苗管理センター北海道中央農場)

8.適地および普及見込み面積‥十勝/網走/根釧地域 5,000ha

9.栽培上の注意
①塊茎の肥大およぴでん粉価の上昇は遅いので、浴光催芽によって生育の促進を図る。
②疫病の発生過程は「紅丸」に類似するので、疫病の防除は「紅丸」に準ずる。
③小いもが多いので、掘り残しのないように収穫時に注意する。