【普及奨励事項】          平成6年1月作成

1.課題の分類

2.場所名 北海道農業試験場

3.系統名 たまねぎ「月交16号」

4.育成経過
米国U.S.D.A.より昭和59年に導入した細胞質雄性不稔系統「2935A」を種子親とし,「札幌黄」の富良野市在来系統「久保系」より選抜育成した「K83211」を花粉親とした交配組合せで優良性が認められたので,平成2年より「月交16号」として生産力検定試験及び系統適応性検定試験を行った.

5.特性の概要
1)「月交16号」の長所及び短所
長所 短所
(1)生育が旺盛で,収量性が高い.
(2)従来の品種よりも貯蔵性に優れる,
(1)倒伏期がやや遅い.
(2)球皮色がやや薄い.
2)「月交16号」の特性
(1)生育特性:苗床及び定植後の生育は旺盛で,標準品種「ツキヒカリ」及び対照品種「北
もみじ」より勝り,参考品種「北もみじ86」と同等の草勢を示す.
(2)早晩性:肥大開始期は「ツキヒカリ」よりも1〜2日早く,「北もみじ」とほぼ同時期でである.倒伏期は「ツキヒカリ」より4〜5日遅く,「北もみじ86」とほぼ同時期か僅かに遅い.
枯葉期は,「ツキヒカリ」より僅かに遅い程度であり,「北もみじ86」と同時期である.(3)耐抽苔性:比較3品種と同等と認められ,通常の栽培で多発した事例はない.
(4)病害抵抗性:乾腐病に対する抵抗性は,抵抗性強の「ツキヒカリ」と同程度と推察され
る.その他の病害についても発生は少なく,比較3品種と同等である.ただし,中央農試において生育が遅延した年に「北もみじ86」と共に肌腐れの多発した事例がある.
(5)収量性:球肥大が良好で大球となり,規格内収量は「ツキヒカリ」を1O〜30%程度,「北もみじ」を約10%上回り,「北もみじ86」とほぼ同等である.但し,中央農試では低収となる年が多かった.規格内率は「ツキヒカリ」及ぴ「北もみじ」よりやや低いが,「北もみじ86」よりも高い.
(6)球特性:球の硬度は「ツキヒカリ」及び「北もみじ86」と同程度に硬く,「北もみじ」 よりもやや硬い.皮張り性は「ツキヒカリ」と同等で,「北もみじ」及び「北もみじ86」よりも優れる.球形は比較3品種よりやや偏平である.球形の揃いは「ツキヒカリ」及び「北もみじ」よりやや劣るが,「北もみじ86」よりは優れる.皮色は「ツキヒカリ」及び「北もみじ86」よりもやや薄いが,「北もみじ」と同等である.
(7)貯蔵性:貯蔵中の腐敗によるロスは,比較3品種と同等に少ない.また,発根及び基盤突出が「ツキヒカリ」及び「北もみじ」よりもかなり遅いため,貯蔵末期の健全率は両品種を大きく上回り,「北もみじ86」をも上回る.茎盤突出が少ないため,貯蔵末期における球の変形及ぴ変形に伴う皮むけは,比較3品種よりも少ない.
(8):採種性:花粉親系統「K83211」の採種性は良好である.種子親系統「2935A・B」は,B
系統の花粉量が少ないので,採種性は劣る.「月交16号」は,花粉親の開花がやや早いため,採種性は「ツキヒカリ」よりもやや劣るが,実用上問題はない.

6.試験成績概要
第1表 「月交16号」の生産力検定試験及び系統適応性検定試験成績(全年度平均値a)
場所 系統・品種 規格内
収量
(kg/a)
同左
対標
準比
(%)
平均
1球重
(g)
規格
内率
(%)
倒伏期
(月日)
枯葉期
(月日)
貯蔵前
腐敗率
(%)
貯蔵後
発根率
(%)
茎盤
突出率
(%)
健全率
(%)
北海道
農試
月交16号 575 137 198 90.2 8.9 8.27 1.8 3 2.7 92.9
ツキヒカリ
(標準)
435 100 158 85.6 8.5 8.27 2.1 7.8 24.8 61.4
北もみじ
(対照)
521 125 174 93.6 8.3 8.27 1.9 8.4 12.1 69.2
北もみじ86
(参考)
583 145 212 87 8.9 8.29 2.1 2.9 10.6 85.8
北見
農試
月交16号 636 121 259 86.5 8.18 9.9 8.5 36.9 32.3 26.7
ツキヒカリ 528 100 212 85.4 8.15 9.8 5.1 46.3 44.2 1.6
北もみじ 590 113 219 91.9 8.12 9.5 5.7 68.6 27.9 0.2
北もみじ86 609 117 252 85.7 8.16 9.7 8.1 43.5 40.2 12.9
中央
農試
月交16号 312 93 177 70.9 8.18 - 20.2 18.3b 30.3b 40.0b
ツキヒカリ 337 100 169 75.9 8.17 - 12.7 20.9b 58.2b 9.0b
北もみじ 417 124 172 86.3 8.14 - 9.5 42.5b 36.4b 11.1b
北もみじ86 377 112 202 76.9 8.16   17.3 39.5b 39.5b 9.9b
富良野
市現地
月交16号 935 110 317 92.2 - - 2.1 1.5 0.2 97.7
ツキヒカリ 857 100 283 95.5 - - 1.4 17.7 4.7 5.9
北もみじ 856 101 281 96.4 - - 2.1 1.4 5.4 92
北もみじ86 929 109 324 90.7 - - 3 2.9 3.4 90.8
a北海道農試・富良野市現地;平成2〜5年度,北見農試・中央農試;平成2,4,5年度.
b平成5年度のみの調査結果

第2表 「月交16号」の現地試験成績(平成5年度)
系統・品種 岩見沢市 留辺蘂町 札幌市
規格内
収量
(kg/a)
同左対
標準比
(%)
規格
内率
(%)
貯蔵前
腐敗率
(%)
規格内
収量
(kg/a)
同左対
標準比
(%)
規格
内率
(%)
貯蔵前
腐敗率
(%)
規格内
収量
(kg/a)
同左対
標準比
(%)
規格
内率
(%)
貯蔵前
腐敗率
(%)
月交16号 466 106 89 1.8 713 121 89.8 2 527 104 80.7 3.5
ツキヒカリ 439 100 88.4 1.4 589 100 89.3 6.3 506 100 80.8 3
北もみじ 417 95 92.7 0.9 621 105 94.1 5.3 579 114 90.9 2.5
北もみじ86 392 89 76.3 0 618 105 84.2 6.7 435 86 62.4 3.5

7.用途,普及対象地域及び普及見込み面積
秋期から春期にわたる長期出荷の青果用に適する,普及対象地域は,全道のタマネギ栽培地帯である.普及面積は,1000haが見込まれる.

8.保有種子及び母球量
「月交16号」の保有種子量は200gであるが,各親系統について,種子1㎏,母球500球を保有している.

9.栽培上の留意点
「月交16号」は,倒伏期が遅く,肥大期以降の直立期間が長いので,生育後期の病害防除に注意する必要がある.また,初期生育の遅れる場合には,大きく減収することがあるので,適正な苗質確保と定植条件の整備に努める.