成績概要書【研究参考】(作成平成6年1月)
1.課題の分類    総合農業 生産環境 土壌肥料 2-1-1
            北海道  土肥・環
            総合農業 作物生産 夏作物 稲(育種)
2.研究課題名 北海道米の加工適性評価(もち米、酒造用かけ米)
        (高度利用品種の開発と用途別特性の究明に関する試験)
3.予算区分 道費
4.研究期間 昭和62〜平成5年
5.担当 中央農試 農産化学部
     穀物利用科
6.協力・分担関係    なし

7.目的
北海道米の用途をより広く捉え積極的に拡大してゆくため、各用途別分野で求められる 適性を解明し、それに関連する成分とその構造を明らかにすることが必要である。本試験では、北海道米の酒造原料としての利用と、加工原料用のもち米をとりあげ、これらに関わる利用適性を明らかにして、現段階での北海道米の評価と今後の方向性について指針を示すことを目的とした。

8.試験研究方法
1)もち米
(1)多数の府県産、北海道もち米について一般理化学性、米菓製造試験などを実施し、比較検討した。
(2)加工適性に関する検定法を開発し、その妥当性を検討した。
2)酒米
(1)多数の府県、北海道品種について原料米の特性、小仕込試験、官能評価を実施し、これらの関連性を検討した。
(2)北海道米について酒造適性評価をした。

9.結果の概要・要約
原材料用もち米の加工適性解析と品種選抜のための検定法の開発を行った。
1)北海道もち米の加工適性上の最大の問題点はもち生地の硬化性が低いことであった。 この違いは澱粉のアミロペクチン末端鎖長の違いによることが推察された(表1)。
2)北海道もち米は白度、膨化性の点でも府県産もち米に劣るため、硬化性にくわえこれ らの特性を改善する必要があると考えられた。
3)硬化性測定のためにレオメーターを用いた方法を開発した。この測定値は試料間の差 を反映しており、既成の方法との適合性も確認された(図1)。
4)硬化性の測定を初期世代の育成材料に応用ナるためにオートアナライザーを用いる方法、RVAを用いる方法を開発した。この結果、1点約5分、4gの試料で精度良く硬化性を推定できると考えられた(図2)。
酒造用かけ米の適性要因解析と北海道米の適性評価を行った。
5)かけ米適性に関わる要因を解析したところ、千粒重が大きく、カリウム、蛋白含量が低い米がかけ米として優れていると考えられた(表2)。
6)清酒に溶出するアミノ酸は、主にPB-Ⅱに由来すると推察されることから、同程度の蛋白含量であればPB-Ⅱ比率が低い米がかけ米として優れていると考えられた(図3)。
7)北海道米は原料米の特性からみると千粒重がやや小さく、蛋白含量がやや高く変動が大きいことが問題であるが、PB-Ⅱ比率およびカリウム含量が低い点は府県産米より優れていた(表3)。
8)北海道米で作った清酒は、成分的に府県産と大きな違いはなく、辛口、濃厚できれいな酒となりやすかった。総合的に判断すると東北産酒造品種とほぼ同等の酒造適性があると考えられた。

10.主要成果の具体的数字

表1 府県、北海道もち米の比較(食味特性)
年次 生産地域 ブルーバ
リュー
蛋白含量
(%)
蒸米の
硬さ(H)
白度
60 北海道もち 14.1 8.6 3.06 -
府県産もち 18.2 7.8 3.44 -
61 北海道もち 14.6 7.3 3.36 -
府県産もち 18.7 7.3 3.84 -
63 北海道もち 11.7 8.7 2.84 51.9
府県産もち 14.8 8.9 3.12 53
平均 北海道もち 13.5 8.2 3.09 51.9
府県産もち 17.2 8 3.47 53


図1 レオメーターによる硬化性の測定手順


図2 RVAピーク温度と硬化性の関係

表2 かけ米適性に関係する原料米の特性
大←  千粒重  →小
短い 精米時間 長い
速い 吸水速度 遅い
 
低い←  アミロース含量  →高い
低い 粕歩合 高い
 
低い←  蛋白含量PB-Ⅱ比率  →高い
低い アミノ酸度 高い
低い 紫外部吸収 高い
 
低い←  カリ含量  →高い
普通 発酵速度 急進
低い 粗脂肪含量 高い


   図3 酒粕中蛋白質組成の推移

表3 府県産酒造品種と北海道品種の比較*
品種区分 玄米
千粒重
(g)
吸水性(%) タンパク
含有率
(%)
PB-Ⅱ
比準
(%)
カリウム
含有率
(ppm)
アミロース
含有率
(%)
20分 120分 吸水
準比
府県
一般
品種
平均 22 23.9 29.2 1.22 5.6 72.3 436 18.8
最低 19.5 20.6 27 1.2 4.4 69 323 17.8
最高 25.2 26.5 31.8 1.31 7 76.5 546 21.7
CV% 8.3 7.3 3.5 6.8 8.9 - 11.1 -
北海道
品種
平均 21.4 21.9 29.3 1.35 6 69.4 378 19.7
最低 19.4 17.2 26.1 1.15 5 60.6 270 11.3
最高 23 29.7 35.2 1.62 7.6 79.5 509 26.7
CV% 4.5 13.6 6.7 9.7 10.6 - 14.7 -
酒造
好適
品種
平均 27 27.8 29.2 1.05 5.6 74.8 490 23.7
最低 23.1 22 25.8 0.95 4.8 70.1 319 22.3
最高 30 33.7 32.1 1.17 6.4 80.8 584 24.9
CV% 8.6 7.8 4.7 4.6 8.1 - 14 -
(*酒米研究会、全国統一分析結果より引用)

11.成果の活用面と留意点
もち米について
1)本試験の成果は、加工適性の高いもち米品種の選抜検定法として活用できる。
2)検定は、試料の量,点数に合わせて分析法を選択し、育種世代に合わせて使用できる。
酒米について
3)本試験の成果は、北海道米を用いた清酒製造を行う際の評価の目安となる。
4)本試験の成果は酒造用品種の開発および栽培法の検討をする際の基礎資料となる。

12.残された問題とその対応
1)生食用もち米の適性評価および検定法の開発
2)新たな品種系統の酒造適性評価