1.課題の分類 総合農業 生産環境 土壌肥料 - 5-2 北海道 土肥・環 2.研究課題名 リモートセンシングによる有効水分区分図作成手法 (リモートセンシングによる畑地の保水・排水能地図作成手法の確立) 3.予算区分 補助(土壌保全) 4.研究期間 (平成3年〜5年) 5.担当 中央農試環境化学部土壌資源科 6.協力・分担関係 なし |
7.目的
地力保全基本調査によってほぼ全道農耕地の土壌の理化学性が明らかとなった。しかし調査終了後すでに十数年を経過し、この間の農耕地の改廃・造成等によってデータの更新が必要な場面が生じている。こうした土壌データの更新・収集には、広域を一時に観測し反復が可能な衛星リモートセンシングの利用が有望である。道内での農業分野へのリモートセンシング技術の適用は、いくつかの事例があるが、畠中ら(1990)によって報告された土壌水分特性の推定は有用な手法である。しかしながらこの手法は通用地域が現在まで十勝地方のみであるので、今後技術の汎用化が望まれる。
本試験では、リモートセンシングによる有効水分推定手法を、土地利用形態の異なる地域で適用し、その条件等について検討した。
8.試識研究方法
1)対象地域・使用データ:道内の主要水田地帯であり、現在転換畑利用がすすんでいる空
知地方と、主要畑作地帯であり、リモートセンシングによる有効水分推定の適用事例がすでに報告されている十勝地方の2地域を対象地域とした。衛星データには、両地域が同時に観測されている、1985年・1990年5月下旬のランドサットTMセンサ(パス107-ロウ30)画像を使用した。地上データとして現地調査50地点・定点調査64地点、計114地点の表層10㎝の易有効水分(pF1.5〜2.7)を供した。
2)解析手法:衛星データで両年とも裸地と判別された地点について、両年の分光反射値の
差を算出し地上データの易有効水分との関連を解析した。衛星データからの裸地の抽出手法、分光反射値の平均化処理等について、最適条件を検討した。得られた衛星データと易有効水分との関係から、対象地域全域の有効水分区分図を作成した。
9.結果の概要・要約
1)土地利用形態の異なる空知・十勝両地域について、1985・1990両年の衛星画像から裸地を抽出したところ、水田地帯である空知地方は畑作地帯である十勝地方に比べ抽出された裸地面積が少なかった(表1)。
2)抽出された裸地について、畠中ら(1990)の手法を適用して、両年の分光反射値の差と表層10㎝の易有効水分(pF1.5〜2.7)との関連を検討したところ、中間赤外域であるバンド5で高い相関が認められた(表2)。
3)衛星画像からの裸地の判別に際しては、他の分類項目との境界領域・微小区画の除去処理を行うことによって、精度の高い抽出が行われた。
4)抽出された裸地について、易有効水分との相関を検討するときには、原画像に3x3画素の平均化処理を行うことによって、より高い相関が得られた(図2)。
5)1985・1990両年の衛星データから、空知・十勝両地方について、以下の推定式により表層の有効水分が推定された(図3)。
推定式 易有効水分(㎜/10㎝)=0.25xDTM5+4.93 r2=0.67
DTM:バンド5の分光反射値の差(1985-1990)
6)得られた推定式を対象地域全域に適用し、有効水分区分図を作成した(図4)。
7)作成した有効水分区分図を、対象地域・堆積様式・土性別に比較すると、それぞれ異なる特性を示した(表3)。
8)以上の結果から、畠中ら(1990)のリモートセシシングによる土壌有効水分の推定手法が異なる衛星データ・対象地域についても通用可能であった。
10.主要成果の具体的数字
図1 解析手法
図2 平均化処理の大きさと易有効水分の相関」(DTM5)
表1 対象地域の農耕地面積及裸地判別面積
地域 | 農耕地面積 | 裸地判別面積 | ||
1985 | 1990 | 両地とも裸地 | ||
空知地方 | 194,911ha | 25,755ha(13%) | 25,579ha(13%) | 9,188ha(5%) |
十勝地方 | 238,569 | 85,123(36%) | 68,746(29%) | 35,000(15%) |
表2 両年の差と易有効水分の相関
波長帯 | 相関係数 |
DTM1 | -0.17 |
2 | 0.04 |
3 | 0.26 |
4 | 0.19 |
5 | 0.82** |
6 | 0.23 |
7 | 0.64** |
表3 平均易有効水分の比較
堆積様式・土性 | 空知 | 十勝 |
火山灰土 | 7.7mm(982ha) | 8.6mm(8,729ha) |
洪積土 | 8.8(231) | 9.4(352) |
沖積土 | 7.9(854) | 8.7(3,387) |
泥炭土 | 8.1(426) | 8.4(107) |
砂質 | 6.5mm(586ha) | 8.2mm(1,388ha) |
壌質 | 9.7(453) | 8.6(6,186) |
粘質 | 8.2(678) | 8.8(4,721) |
強粘質 | 8.1(706) | 7.9(277) |
図3 バンド5分光反射値の差と易有効水分の関係
図4 有効水分区分図表示例
1l.成果の活用面と留意点
1)衛星リモートセンシング技術を利用した、土壌の有効水分の推定が可能となる。
12.残された問題とその対応
1)本試験で易有効水分が推定された面積は、対象地域の全農耕地面積の10%程度であるの
で、今後多年次の衛星データを組み合わせて利用することによって、多面積の推定を行う必要がある。
2)下層の水分特性の推定手法は、十勝地方については畠中ら(1990)によって報告されているが、空知地方については今後の検討が必要である。