成績概要書【指導参考事例】                  (作成平成6年2月)
1.課題の分類 総合農業 土壌肥料 2-2-1
         北海道  土肥環保
2.研究課題名 木炭粉の農業資材としての特性
         (低コスト木炭粉製造技術の開発とその農産物に与える有効効果の研究)
         (木質系炭化物の農・水産業への利用)
3.予算区分 道単(共同研究、道立相互)
4.研究実施年度 (平成元年〜5年)
5.担当 中央農試 環境化学部 土壌生態科
     十勝農試 研究部    土壌肥料科
     北見農試 研究部    作物科
     道南農試 研究部    土壌肥料科
6.協力・分担 林産試 利用部 物性利用科

7.目的
カラマツを原料とした各種木炭粉の特性を明らかにし、木炭紛の特性を生かした農業利用の方法を検討する。

8.試験研究方法
1)木炭粉の特性(中央農試、林産試)
木炭粉の物性及ぴ化学性と炭化温度との関係。市販木炭粉の炭化炉及び原料と、物性及び化学性との関係(流動層炉鋸屑炭粉、平炉樹皮炭粉、平炉鋸屑炭粉、角型ブロック炉間伐材炭粉、レンガブロック炉間伐材炭粉)。重金属に対する市販木炭粉の吸着能。
2)木炭粉の施用が土壌の理化学性に及ぼす影響(中央農試、道南農試)
供試土壌:細粒質褐色低地土,淡色黒ボク土,未熟火山性土 試験規模:圃場及び無底ホット
3)木炭粉の施用が土壌の微生物性に及ぼす影響(十勝農試、北見農試、道南農試)
供試土壌:褐色低地土,淡色黒ボク土,多腐植質黒ボク土 供試作物:菜豆,大豆二てんさい,ホウレンソウ
調査項目:一般微生物数,根粒重,菌根菌数,
4)木炭粉の施用が塩類(N)集積土壌に及ぼす影響(道南農試)
供試土壌:褐色低地土(無処理土壌。N集積土壌)供試作物:トマト

9.結果の篠要・要約
1)炭化温度の上昇に伴う木炭粉の理化学的数値の変化(表省略)
①上昇:固定炭素,pH,トルオーグリン酸②低下:炭化収率,揮発分。CEC
③比表面積,保水量(pF1.5).交換性塩基含量は500〜600℃で最大値を示した。
2)5種類の市販木炭粉の理化学的特徴(表1)
①全て交換性カリ含量が多い②流動層炉製木炭粉:孔隙性小,容積重小,最大容水量大
③平炉製木炭粉:化学性測定値やや大④ブロック炉製木炭粉:孔隙性大
3)重金属に対する木炭粉の吸着能
木炭粉の施用による作物の重金属吸収の抑制効果は、5t/10a施用以上でみられた(表省略)。
4)木炭粉の施用による土壌の理化学性の変化(表2)
①容積重の低下、気相率・有効水分・透水性の向上(細粒質低地土)。
②物理性改善効果は2t/10a以上の施用でみられ、化学性改善効果は5t/10a以上の施用でわずかにみられた。
5)木炭粉の施用による土壌微生物性への影響
①菜豆及び大豆の根粒重は多少増加した(表3)。②VA菌根菌感染率は菜豆の生育初期でやや高まるようであったが、生育中期では判然としなかった(表4)。③ホウレンソウの株数が確保された(表5)。
6)作物収量に対する木炭粉の施用効果
①淡色黒ボク土では菜豆、大豆ともにやや増収の傾向がみられた(表6)。
②多腐植質黒ボク土では菜豆、大豆及びてんさいとも増収効果判然としなかった(表7)。
7)塩類(N)集積土壌に対する木炭粉の施用効果として、木炭粉は土壌中のNを1t当り約1㎏ 吸着したと推定された(表8)。
8)以上より、木炭粉は土壌に2t/10a以上施用した場合、物理性改善効果を示したが、化学性の改善並びに作物の重金属吸収の抑制は、木炭粉5t/10a以上の施用でわずかに認められた。また、根粒重,VA菌根菌感染率は木炭粉施用によりやや高まる傾向がみられた。一方、作物収量に対する木炭粉施用効果は土壌により異なった。

10.主要成果の具体的数字

表1 供試木炭粉の理化学性(林産試、中央農試)



炭化
温度






(%)




(%)
孔隙性 容積

(乾物)
(g/ml)
最大
容水量
(ml/
100g)
保水

pF1.5
(ml/
100g)
pH
(H2O)
EC
(μS/
cm)
CEC
(me/
100g)
交換性塩基
(mg/100g)
可給態
リン酸
トル
オーグ
P2O5
(mg/
100g)




(㎡/g)






(Å)
CaO MgO K2O



400
30
30.6 66.6 1.6 99 0.11 494 273 4.2 280 10.6 176 23 126 20


370

400
6

23.5 57.9 36.6 21.8 0.19 191 145 8.5 549 16.6 605 58 526 107


370

400
6

24.8 64.9 54.4 20.6 0.13 283 202 8.2 123 11.7 202 25 223 73

ブロ
ック


550
14

16 78.7 184.5 11.8 0.16 261 244 8.3 139 13.2 146 32 215 126
レン
ガブ
ロック


750

800
3

13.9 84 205.6 12.5 0.14 364 314 8.6 172 3.2 131 14 159 13
*樹種:カラマツ

表2 木炭粉の施用が土壌の物理性に及ぼす影響(中央農試)
供試
土壌
施用量
(乾物重比)
(kg/10a)
容積重
(100ml)
粗孔隙
(%)
有効水分
pF1.5〜2.7
(v%)
透水係数
(cm/sec)
細粒質
低地土
無施用 126.4 11.7 3.2 8.2*10-6
500 122.5 11.9 4.3 5.6*10-6
1000 118.9 13.3 4.6 1.6*10-4
2000 111.7 16 5.1 7.4*10-4
5000 98.1 19.6 6.6 1.9*10-3
淡色
黒ボク土
無施用 81.2 21.2 11.4 1.4*10-3
500 79.7 21.6 11.9 2.3*10-3
1000 78.5 21.9 12.5 3.0*10-3
2000 75.8 23 13.3 3.8*10-3
5000 71.5 24.9 14.1 6.0*10-3
*施用木炭粉:流動層炉鋸屑炭粉

表3 木炭粉施用が大豆の根粒重に
   及ぼす影響(十勝農試)
炭化炉 原料 施用法 根粒重(乾物g/株)
菜豆
(元年)
大豆
(2年)
無施用 2.96 1.74
平炉 樹皮 作条 4.3 1.83
平炉 樹皮 全層 4.24 1.83
平炉 鋸屑 作条 - 1.95

表4 木炭粉施用が菜豆の根のVA菌根菌感染率に
   及ぼす影響(十勝農試)
炭化炉 原料 施用法 VA菌根菌感染率(%)
7月4日 8月7日
無施用 10 28
流動層 鋸屑 作条 20 -
平炉 樹皮 作条 18 44
平炉 樹皮 全層 10 24
平炉 鋸屑 作条 8 28
角型ブロック 間伐材 作条 22 -
*木炭粉施用量は100kg/10a
*木炭粉施用量は100kg/10a

表5 木炭粉施用によるホウレンソウ株数
   の変化(道南農試現地調査・C農家)
木炭粉の
種類
施用量
(kg/10a)
株数(本/m)
H4年 H5年
無施用区 13.8 12.3
角型ブロック 250 20.8 16.1
500 16.8 15
間伐材炭粉 1000 17 15.3
*土壌:黒ボク土
**発芽株数の測定値

表6 淡色黒ボク土での菜豆及び大豆収量に対する
   木炭粉の施用効果(十勝農試)
炭化炉 原料 施用法 菜豆
子実重比
(%)
大豆
子実重比
(%)
無施用 (239) (310)
流動層炉 鋸屑 作条 107 -
平炉 樹皮 作条 109 105
平炉 樹皮 全層 107 102
平炉 鋸屑 作条 108 104
角型ブロック 間伐材 作条 100 -
*( )内は収量kg/10a
*木炭粉施用量は100kg/10a

表7 多腐植質黒ボク土での菜豆、大豆及びてんさい収量に対する
   木炭粉の施用効果 (北見農試)
炭化炉 原科 施用量
(kg/10a)
菜豆
子実重比
(%)
大豆
子実重比
(%)
施用量
(kg/10a)
てんさい
根重比
(t/10a)
流動層炉 鋸屑 0 (236) (299) 0 (5.93)
50 109 101 100 103
平炉 樹皮 0 (277) - 0 (6.21)
50 104 - 100 97
平炉 鋸屑 0 (266) (307) 0 (6.42)
50 103 93 100 99
角型ブロック 間伐材 0 - - 0 (6.02)
50 - - 100 101
*( )内は収量kg/10a

表8 木炭粉施用による土壌中のN吸着(道南農試)
土壌の
処理
炭化炉 原料 施用量
t/10a
N吸着量
kg/10a
無処理
土壌
角型ブロック 間伐材 2 +3.2
5 +4.0
10 +6.5
平炉 鋸屑 2 +3.0
5 -0.9
N集積
土壌
角型ブロック 間伐材 2 -1.9
5 +14.2
10 +16.4
平炉 鋸屑 2 +5.7
5 +2.7

11.成果の活用面と留意点
本試験で用いた原料の樹種はカラマツのみであり他樹種については未検討である。

12.残された間題点とその対応
1)作物別,土壌タイフ別施用効果の実証
2)土壌の理化学性及び微生物性を高める施用量の検討
3)微生物の住み処としての作用と細孔の持続性
4)病原菌に対する静菌作用の検討
5)農薬吸着除去,蓄舎の除臭等への利用の検討
6)カラマツ以外(他の針葉樹、広葉樹、ラワン材など)を原料とした木炭粉の特性把握