成績概要書【指導参考事項】(平成6年1月)
1.課題の分類 総合農業 生産環境 土壌肥料 4-2-2
         農業環境 環境資源 土壌 土壌保全 2-2-2
         北海道 土肥・環保 環境保全 土壌
2.研究課題名 優良耕地保全のための重金属(亜鉛)管理指標
        (優良耕地保全のための重金属管理指標の確立)
3.予算区分 道単
4.研究期間 昭和62年〜平成4年
5.担当 中央農試環境化学部環境保全科
6.協力・分担 なし

7.目的
土壌管理基準値が設定されている亜鉛(Zn)について、北海道の農地における土壌含量の 実態およびその営農活動の影響を明らかにするために、道内各地の未耕地と耕地の土壌中のZn含量を調査した。

8.試験研究方法
1)土壌採取:地力保全基本調査の土壌分類に基づき、未耕地は14土壌群585点を、耕地は 7土壌群164点の農家ほ場を選定し、それぞれ0〜15㎝層の土壌を採取した。
2)調査項目:「土壌および作物栄養の診断基準−分析法(改訂版)」(1992年)によりZnおよび一般化学性分析を行った。Znは全濃度を過塩素酸分解法、可溶性濃度をO.1N塩酸抽出法、交換性濃度をpH7−酢酸アンモニウム液抽出法で分析した。また、耕地土壌についてはほ場管理の聞き取り調査を行った。
3)解析手法:有意差検定等の統計解析は北海道立農業試験場試験研究情報システム(HARIS)上のRS/1およびRS/Exploreを、Znの分布図作成にはHARIS上の農耕地マッピングシステム(平成3年度指導参考事項)を使用した。

9.結果の概要・要約
1)未耕地土壌、耕地土壌とも全Zn濃度は正規分布、可溶性Znは対数正規分布を示したが、交換性Znは検出限界未満の土壌が多く正規分布が得られなかった(図1)。
2)各Zn濃度間の相関係数は、全Znと可溶性および交換性Znとの間が0.320〜0.544と小さく、可溶性と交換性Znとの間が0.749〜O.827と大きかった(表1)。
3)未耕地土壌の全Znの土壌群別平均値は、有意差のある2グルーブに分けられた。すなわ ち、38〜45㎎/㎏の黒ボク土・多湿黒ボク土・泥炭土および58〜68mg/㎏の褐色森林土・灰色台地土・褐色低地土・灰色低地土・グライ土の2グルーブである。これに対して、可溶 性Znは3.0〜9.3㎎/㎏の範囲にあり、土壌群間に有意差の認められる場合が少なかった。 一方、支庁別の全Zn平均値は渡島・石狩・日高・十勝・釧路・根室が50㎎/㎏未満と低か った。これらは全Znの低い黒ボク土・多湿黒ボク土・泥炭土の分布面積が広い支庁であったもこのように、未耕地では土壌の種類の影響が全Znで示されたが、可溶性Znでは判然としなかった(図2、表2)。
4)耕地土壌の全Znおよび可溶性Zn濃度の平均値は地目別で差が認められ、特に樹園地は最も高く、それぞれ93、18.8㎎/㎏であった。さらに、土壌群別にみると、未耕地で認めら れた全Znの土壌群間の差は、耕地では明瞭でなかった。これは、耕地では土壌の種類に加えて営農の影響も受けている可能性を示唆するものと考えられた(図3、図4)。
5)耕地土壌のZnに対する営農の影響を検討するため、同一土壌統内の耕地と未耕地とを比較した。全Zn・可溶性Znとも耕地で高い例が多く認められ、特に野菜畑・樹園地では両濃度とも50%以上の出現割合であった(表3)。
6)土壌群毎の全Znおよび可溶性Zn濃度に施用資材のZn含有率・施用量等を考慮し、Zn管理指標のための全Znと可溶性Znの分布図を作成した(本成績書の地図1、地図2)。
7)以上から、道内の農耕地土壌のZn濃度は平均値でみる限り、全Znが汚泥施用基準の120 ㎎/㎏以下、可溶性Znが環境基準の50㎎/㎏以下であることが明らかとなった。また、Zn濃度は土壌の種類で異なるとともに、耕地が未耕地より高い傾向であった。

10. 成果の具体的数字

表1 未耕地および耕地土壌の全・可
   溶性・交換性Zn濃度間の相関係数
  全濃度 可溶性 交換性
全濃度   0.320 0.347
可溶性 0.544   0.827
交換性 0.506 0.749  
黄色枠》は耕地

表2 未耕地土壌の土壌群・支庁別Zn濃度と採取点数
支庁別
点数
土壌群別点数 支庁別平均値
黒ボク
多湿黒
ボク土
褐色
森林土
灰色
台地土
褐色
低地土
灰色
低地土
グライ
泥炭土 その他 (mg/kg)
全濃度 可溶性
渡島 13       5 1 3 1   23 48 6.2
檜山 9 1 5 1 3 4       23 57 4.3
後志 7 2 11 1 5 3 1   3 33 73 5.6
胆振 17 1 6     3 2   1 30 56 4
石狩 8 1 3 5 3 4 4 7 1 36 46 3.5
日高 10 1     1 4 1 1   18 44 2.2
空知 2 1 5 8 7 2 6 8 1 40 68 8.6
上川 3   19 8 7 4 3 2 4 50 63 4.4
留萌     3 1 2 5 4 2 1 18 68 6.2
十勝 39 13 10   23 6   3   94 39 3.5
釧路 31 1     10 3   1   46 49 8.4
根室 18 8     1 1       28 45 12
宗谷 2   7 8 2 4 4 4 4 35 68 6.8
網走 17   39 15 21 8 2 7 2 111 61 6.9
174 31 108 47 90 52 30 36 17 585 56 6
土壌群別平均値(mg/kg)      
全濃度 45 38 67 60 62 58 68 45        
可溶性 6 6.6 5.3 4 6.4 4.8 7 9.3        


図1.未耕地土壌の可溶性Znヒストグラム(右は対数変換後)


図2.未耕地土壌の土壌群別全Zn・可溶性Zn濃度


図3.耕地土壌の地目的全Zn・可溶性Zn濃度(数字は平均値)


図4.耕地土壌の土壌群別全Zn濃度(数字は平均値)

表3 未耕地土壌よりZn濃度が高いほ場の出現割合
地目 ほ場数 出現割合(%)
全濃度 可溶性
水田 37 38 41
普通畑 46 83 33
野菜畑 40 88 60
樹園地 16 56 94
草地 25 60 12

11.成果の活用面と留意点
1)Zn濃度は平均値でみる限り汚泥施用基準の120㎎/㎏以下であるが、これを上回るほ場が過去に農業が多量に施用されていた樹目地では認められた。このため、母材そのもののZn含量が高い台地や低地上壌に立地する樹園地地やその跡地を利用する場合は特に注意を要する。
2)全Zn・可溶性Zn濃度分布図は汚泥等亜鉛含有資材の施用にあたっての目安とする(全Znは環境庁の汚泥施用基準120㎎/㎏以下、可溶性Znは北海道の環境基準50㎎/㎏以下)。両図とも亜鉛欠乏発生予測には活用できない。

12.残された問題点とその対応
Cu,Ni等の重金属含量の把握と、それらとZn含量との関係。