成績概要書(平成6年1月)
1.課題の分類
2.研究課題名 暗渠排水の機能不良要因の解明とその改善対策
3.予算区分 土地改良事業費・試験研究費
4.研究期間 昭和63年度〜平成5年度
5.担  当 開発土木研究所土壌保全研究室
6.協力・分担関係 帯広開発建設部農業開発第2課

7.目的

 暗渠排水施工地での排水不良現象のひとつとして、暗渠排水の渠間部(暗渠と暗渠の間の区域)だけでなく直上部でも、降雨後しばらく湛水することがある。このような暗渠排水では,暗渠管の通水不良や埋戻し土の透水不良など、暗渠排水自体にその不良要因が存在する可能性が大きい。
 そこで、鉱質土圃場でのこのような排水不良要因を明かにし、その解析結果に基づき、渠間部の排水促進を含めた対策を立案する。さらに、その対策を排水不良な鉱質土圃場で試験施工し、その効果を確認する。

8.試験研究方法

1)暗渠排水の機能不良要因の解明調査

ア)暗渠排水の埋戻し土の性状調査(旭川市、東川町、上湧別町)
  暗渠排水の直上部に降雨後湛水し易い8圃場(水田、転換畑、普通畑、いずれも細粒質土)で、作土から暗渠管までの水みちとして機能すべき埋戻し部の土の性状を、それに隣接する未攪乱部を対照として調査。

イ)暗渠管内の堆泥土の成因調査(身頃町)
  暗渠管内の堆泥土の全分析を、埋戻し土を対照として行い,堆泥土の成因を調査。
2)改良暗渠排水の施工地での効果確認調査(豊頃町)
 1)の解明調査での解析結果に基づき、灰色低地土(下層にヨシが混入)の畑圃場で、掘削下部に砂利を埋戻し、掘削上部に掘削土を埋戻した後、次の3処理の試教区を設けた。
 A区:埋戻し上部の深さに、暗渠の施工方向と直角に、山砂を用いた有材心土破砕を施工。B区:埋戻し上部の深さに、暗渠の施工方向と直角に、通常の心土破砕(無材心土破砕)を施工。C区:心土破砕を無施工。有材および無材の心士破砕は埋戻し上部での透水性の確保と渠間部の排水を促進することを目的とした。
 各試験区の暗渠直上部の土壌の物理性および渠間部中央での地下水位の変化を調査。

9.結果の概要・要約

1)暗渠排水の機能不良要因の解明調査
ア)暗渠排水の埋戻し土の性状調査(図−1,2)
 暗渠排水の埋戻し部は上部と下部に2分された。下部は膨軟な埋戻しがなされ、理戻し直後には埋戻し土塊間に、水はけに寄与する粗孔隙(pF値1.8以下)がかなり存在したと考えられる。しかし、多水分状態のため、土塊が崩壊し、粗孔隙が水はけに関係しない細孔隙(pF4.2以上)に変化した。このため、埋戻し下部の透水性は排水不良な未攪乱部とほぼ同等に不良になった。
 埋戻し上部では、暗渠排水の施工作業(掘削した土塊をすべて埋戻すため、かなり、圧縮(鎮圧)を伴った埋戻しがなされる)やその後の営農機械の走行により、排水不良な未攪乱部とほぼ同等に緻密化していた。このため、埋戻し上部でも粗孔隙量が少なく、透水不良となっていた。したがって、暗渠の埋戻し部が水みちとしての機能を保持するため、掘削部は掘削土ではなく、次の条件を具備するもので埋戻すことが望ましい。
埋戻し上部:外力を受けても圧縮され難く、かなりの粗乱隙が保持されること。
埋戻し下部:多水分条件になっても、構造が保持され、かなりの粗孔隙が確保されること。

イ)暗渠管内の堆泥土の成因調査(表−1)
 暗渠管内の堆泥土は一般に赤褐色を呈するが、これは、理戻し土の土粒子自体が流れ込んだものではなく、埋戻し土が還元されて鉄分が溶出し、暗渠管内で再沈澱したものであった。したがって・暗渠管内での堆泥を防止する観点からも、暗渠の掘削土を埋戻さないことが望ましい。

2)改良暗渠排水の施工地での効果確認調査
ア)施工3年後の土壌の物理性(表−2)
 3試験区の埋戻し上部(土層)の粗孔隙量は1%以下、透水係数は10-6㎝/s以下であった。有材心土破砕部(砂)の粗孔隙量は約20%、透水係数は1O-3㎝/sであり、砂の部分は埋戻し上部(土層)や無材心土破砕部より明かに透水性に優っていた。埋戻し下部の砂利の透水性は当然のことであるが良好である。

イ)渠間部での地下水位の変化(図−3)
 施工1年後の降雨後の地下水位の推移はA区で最も低く、C区で最も高かった。施工3年後では、A区は最も低いが、B区とC区の差はほとんど無くなり、無材心土破砕の効果は逓減した。

10.成果の具体的数字


図−1 暗渠埋戻し部近傍の模式図


図−2 排水不良な暗渠の埋戻し土と未攪乱土の物理性の模式図


図−3降雨後と地下水位の変化

表-1埋戻し土と堆泥土の組成(%)
項目 Si02 Al203 Fe0
埋戻し土 69.8 12.1 6.5
堆泥土 7.8 3.1 53.4

表-2埋戻し上部および心土破砕部の性状
項目 粗孔隙量
(vol%)
透水係数
(cm/s)
pF値
A区 埋戻部 1 8x10-8 2.9
心破部* 19 6x10-3 1.3
B区 埋戻部 1 1x10-7 2.1
心破部 4 未測定 1.3
C区 埋戻部 1 9x10-7 2.7
埋戻部 :埋戻し上部の土層
心破部*:有材心土破砕跡の砂の部分
心破部 :心土破砕のチゼル等の通過跡

11.成果の活用と留意点
1)砂、砂利、軽石粒や貝殻など粗間隙を多量に有し、かつ安価に入手できる埋戻し材が、暗渠施工地の近傍に多量に賦存する場合は、それらを活用した埋戻しを行うことにより、暗渠排水の効果を高め、長期間にわたってその効果を持続することができる。

2)上記のような理戻し材は、繰返されることがないので、土壌が湿潤時にも埋戻すことができ,暗渠排水の施工時期の拡大も図れる。ただし、工事により圃場が繰返されてはならない。

3)試験施工した暗渠排水では、有材心土破砕の砂が埋戻し下部の砂利の間隙に落下しないようにする。

4)埋戻さない掘削土を圃場表面に散布するため、礫の多い場合や化学性不良な場合は検討を要する。

5)本改善対策は鉱質湿性土壌に適用されるが、土壌の種類(排水不良の度合)、作物の種類、耕種管理により、便用する埋戻し材の種類及ぴ施工法を、施工費用も含め検討する必要がある。
ア)掘削下部だけでなく、掘削部全体に軽石や砂などを埋戻すことは埋戻し部の透水性をさらに高める。
イ)トレンチャーによる掘削では、バックホーによる逆台形の掘削断面よりも断面積が小さくなり、埋戻し材の使用量を大幅に節減できる。

12.残きれた問題点とその対応
1)排水不良な土壌では、作土の物理性(通気・通水性や砕土性)も不良なことが多いため,別途、その対策も必要である。