【指導参考事項】
成績概要書                  (作成 平成6年1月)
1.課題の分類     総合農業 生産環境 病害虫 虫害  Ⅳ-8-1
             野菜    野菜    病害虫 虫害
             北海道   病理昆虫  虫害  野菜  園芸
2.研究課題名
北海道の施設果菜類に発生したサツマイモネコブセンチュウの防除対策
  (施設野菜の線虫防除対策試験)
3.予算区分 道費
4.研究期間 平成2年〜平成5年
5.担当 道南農試 研究部 病虫科
6.協力・分担

7.目的
北海道の施設に発生したサツマイモネコブセンチュウについて、被害の大きい果菜類で被害解析を行い、簡易検出法および防除対策を確立する。

8.試験研究方法
発生実態調査、被害解析試験、簡易検診法の検討、防除対策(抵抗性品種の検索、対抗植物の検索と効果確認、有効な殺線虫剤)

9.結果の概要・要約
1)発生実態
a.サツマイモネコブセンチュウは昭和48年(1973)に道内で初めて確認され、昭和50年代に道内の果菜類加温栽培施設に広く蔓延した。
b.トマト、キュウリ栽培施設における発生面積率は約50%、被害面積率は約33%であった。
c.ハウスでの栽培体系とネコブセンチュウの発生状況については、果菜類1作型または他作物や花卉栽培ハウスに比べ、果菜類の交互作ハウスで約80%の高い発生率が示された。
d.地域別の線虫密度による発生ハウス数頻度分布から、サツマイモネコブセンチュウの施設間での伝搬性がキタネコブセンチュウに比べてきわめて高いことが示された。
2)被害解析
a.本種の被害解析としてキュウリ6品種での収量への影響を自根栽培条件で検討した。定植時線虫密度と収穫果数との関係では、収量が50%減となる定植時の2期幼虫密度は生土25gあたり約2頭と算出され、本密度がキュウリ(自根)での要防除密度として設定された。
b.要防除密度でのキュウリの生育への影響を6品種で検討した。要防除密度における定植27日後の茎長では、茎長の伸びの早い「長日落合2号」では5,5%短縮し、他の5品種は約2.5%短縮した。
3)簡易検診法
(1)ネコブセンチュウ2種の判別法
a.道内の施設では現在2種のネコブセンチュウが発生する可能性があるが、発生種はねこぷの形状とラッカセイ(ナカテユタカ)でのねこぷの着生の有無で判別できる。
キタネコブセンチュウが寄生したラッカセイでは球形のねごぷが着生するが、サツマイモネコブセンチュウではねこぷが着生しない。
(2)検定植物による密度推定および存否確認
a.検定値物による本種の存否の確認および線虫密度の簡易推定法を検討した。ホウセンカ(椿咲八重混合)は感受性が高く、存否確認のための検出植物として利用に適する。ニンジン(品種;US春蒔き5寸)は、線虫密度とねこぷ指数の間に回帰式(栽培期間90日;Y=-0.441X^2+1,964X+0.873)が得られ、ねこぶ指数から線虫密度の推定が可能である。
b.要防除密度でのキュウリのねこぶ指数は1.6(ねこぶ程度;40)と算出され、本値がねこぶ指数からみた要防除水準として設定された。
4)防除対策
(1)抵抗性品種の利用
a.本種の発生密度の増殖率をトマトおよびキュウリ各6品種、キュウリ台木2品種で検討した。収穫後根圏域での2期幼虫の増殖率は、トマトでは品種の感受性程度により差がみられ、感受性の高い3品種で約11倍であった。キュウリでは「北極2号」で増殖率が低かったが、他の品種では増殖率が高く、台木も含めて約30倍であった。
b.トマト6品種の抵抗性程度を検定した。「強力米寿」「ファーストカスタム502」「ミニキャロル」は感受性が高く、キュウリでの被害解析結果を参考とした要防除密度は約1.5頭となり、トマトでも生土25gあたり2期幼虫数2頭を要防除密度として設定できると考えられた。
「マルチファースト」は中度の抵抗性を示し、要防除密度は同じく2期幼虫数22.2頭と算出された。「桃太郎」「ハウス桃太郎」は強度の抵抗性を示し、本種の発生ハウスでの栽培品種として有効である。
c.キタネコブセンチュウに対してトマト6品種ともに線虫増殖率およびねこぷ程度に品種間差は認められず、抵抗性を示す品種はなかった。
(2)有機物施用による線虫密度抑制効果
①乾燥鶏ふん
a.乾燥鶏ふんについて施用量の違いによる線虫密度低減効果を調査した。施用後の2期幼虫密度の推移では600㎏/10a以上で密度低減効果がみられはじめ、1000㎏/1Oaでは施用後50日まで効果が認められた。
b.乾燥鶏ふん1000㎏/10a施用の場合の効果的な施用法をトマトで検討した。施用後10日以内の定植ではねこぶ抑制効果はみられず、定植まで30-40日間あけた場合にもっとも効果が高く、それ以上の間隔では再びねこぷ程度が高くなった。本施用量での作物の生育への影響については、トマトの茎長による解析で、約20日以上で影響はなくなると判断された。
以上の結果から、乾燥鶏ふんを大量施用する場合は、施用から定植までの期間を1か月あける必要があるが、実用上の施用量では線虫抑制効果はない。
②ぼかし肥料
a.ぼかし肥料の線虫密度およびねこぶ抑制程度について検討した。線虫密度については、施用量500㎏/10a以上で処理後1か月間は線虫密度を抑制する傾向がみられたが、ねこぶ程度では施用量間に差はなかった。作物の生育への影響については、トマトの茎長での解析で、1t/10a施用した直後に定植した場合でも影響はないと判断された。
③パーク堆肥
a.バーク堆肥では、10t/10a施用した場合でも施用後の線虫密度の推移に差はみられず、密度低減効果はなかった。
(3)対抗植物の検索と利用
a.対抗植物6種についてサツマイモネコブセンチュウに対する線虫密度およびねこぷ抑制効果を検討した。マリーゴールド(セントール)、クロタラリア、ギニアグラス、ステビアが有効であった。
えん麦(ヘイオーツ)は、密度抑制効果は高かったが、跡地に栽培したトマトでねこぶ程度がやや高かった。ギニアグラスでは跡地に栽培したトマトで有意差はないものの、やや茎長が抑制した。ステビアは作物として換金性をもつため、本種の対抗植物として最も有効である。
b.ステビアの生育調査の結果から、密植で増収すること、施設内の栽培ではオンシツコナジラミに対する対策が必要であることが示された。
(4)高温耐性と高湿処理による防除試験
a.本種の高温耐性について検討した。高温6時間処理(高温時以外は30℃)では40℃までは死滅せず、45℃以上で死滅した。
死滅温度の必要保持時間については、2時間以内では死滅せず、3時間以上で死滅した。本種に対する防除法として太陽熟消毒を行う場合、地温45℃が3時間以上保持される必要がある。
b.温泉熱水を直接湛水した場合、処理後の土壌から2期幼虫は検出されず、高い防除効果を示した。
(5)低温耐性と低湿利用による防除試験
a.本種の低温域での温度反応を検討した。地温15℃以上では密度が増加した。0℃〜10℃の範囲では処理後20日まで2期幼虫の遊出がみられた。氷点下5℃では3日後に少数の幼虫が遊出したが、6日後以後では遊出がみられなくなった。
b.0℃では土壌の水分条件にかかわらず2期幼虫は生存した。氷点下5℃では2期幼虫は遊出せず、跡地に栽培したトマトでねこぷも着生しなかったことから、氷点下5℃で2期幼虫は死滅すると判断された。
C.卵の低温耐性について、被害残さの低温処理試験から検討した。低温処理11日間の場合、氷点下5℃でも跡地のトマトにねこぷが着生し、卵の低温耐性が2期幼虫より高いことが判明した。
d.冬季間のビニール解放による低温利用の防除効果を検討した。無加温ハウスでは十分に越冬が可能であった。冬季間ビニールを解放した場合でも翌春線虫が検出され、土壌凍結深度などの問題から本方法による根絶は困難であった。
(6)殺線虫剤の効果
a.サツマイモネコブセンチュウに対して、トマトではホスチアゼート粒剤の30㎏/10a処理で効果が高く、薬害も認められず有効である。
b.キュウリでは同じくホスチアゼート粒剤の20,30㎏/10a処理の効果が高く、有効である。ただし、現地試験の深耕ロータリー栽培で収量に差は認められないものの、定植時の活着が多少劣る傾向がみられた。

10.成果の具体的数字(総括)   省略

11.成果の活用面と留意点
1)サツマイモネコブセンチュウは発生場所から他の施設への伝搬性がきわりて高いので、施設への侵入防止に最大限の注意を払う必要がある。
2)施設内に発生するネコブセンチュウの種類は、ねこぶの形状とラッカセイでのねこぷの着生の有無で判別できる。
3)キュウリにおける要防除密度は生土25gあたり2期幼虫数2頭、ねこぶ程度40である。トマトの感受性品種についてもキュウリに準ずる。
4)サツマイモネコブセンチュウに対して、トマトでは「桃太郎」、「ハウス桃太郎」が高い抵抗性を示し、発生ハウスでの栽培品種として有効である。ただし、本品種はキタネコブセンチュウに対しては抵抗性をもたないので注意する。キュウリでは抵抗性品種はない。
5)対抗植物では、ステビアが線虫抑制効果が高く、また作物として換金性をもつことから、有効である。ただし、ステビアについては「用途特許」が設定されているので、栽培にあたっては事前の確認を必要とする。また、ステビアはキタネグサレセンチュウに対する密度低減効果はないので注意する。
6)有効薬剤
ト マ ト;ホスチアゼート粒剤(商品名;ネマトリン粒剤1%) 30㎏/10a。
 登録あり、毒性;普通物、魚毒性;A類 定植時土壌混和 平成5年度農業試験会議提出
キュウリ;ホスチアゼート粒剤(商品名;ネマトリン粒剤1%) 20㎏、30㎏/10a。
 登録あり、毒性;普通物、魚毒性;A類 定植時土壌混和 平成5年度農業試験会議提出

12.残された問題とその対応
1)抵抗性品種の検索
2)対抗植物の導入方法の検討
3)ステビアの栽培法の確立