1.課題の分類 畜産 肉用牛 繁殖 新得畜試 北海道 家畜 2.研究課題名 双胎妊娠牛の妊娠末期の飼料給与と産子の人工哺育 (双子の生産率・連続性向上等による肥育素牛の低コスト生産技術の確立) 3.予算区分 緊急開発 4.研究期間 平成元〜5年 5.担当 新得畜試肉牛飼養科・肉牛育種科・酪農科・ 生物工学科 6.協力・分担関係 畜試・東北農試・青森・宮崎・秋田 鹿児島各畜試・家畜改良事業団 |
7.目的
胚移植による双胎妊娠牛の妊娠末期の適正な飼料給与と生産された肉用牛子牛の人工哺育技術を検討し双子生産技術の安定化を目指す。
8.試験研究方法
1.双胎妊娠牛の妊娠末期の飼料給与指標 (平元〜5年)
2.双子産子の人工哺育技術の検討 (平元〜5年)
3.黒毛和種産子の人工哺育技術の検討 (平元〜5年)
9.結果の概要・要約
1.双胎妊娠牛の妊娠末期の飼料給与指標
(1)受精卵を移植したアンガスおよびヘレフォードの双胎妊娠牛26頭,単胎妊娠牛25頭を用いた。妊娠末期90日間の飼料給与量は,双胎妊娠牛ではTDNで,維持量+胎児1頭の発育に要
する量の1倍量,2倍量,2.5倍量および3倍量を給与する区の4処理(それぞれTM+P区,TM+2P区,TM+2.5P区およびTM+3P区)とし,単胎妊娠牛ではTM+P区と同一給与水準とした(SM+P区)。また,双胎妊娠牛の妊娠末期に要した代謝エネルギー量を推定した。
(2)母牛の分娩前後の体重変化(表1)および妊娠に要した代謝エネルギーからみて,双胎妊
娠牛の妊娠末期の飼料給与量は維持量に胎児1頭の発育に要する量の2.5倍を加えた量,すなわちTDN量で2.0〜2.2㎏を増給するのが適当と考えられた。
2.双子産子の人工哺育技術の検討
(1)試験は哺育方法を変えて3回行った。試験1は双子を両方とも母牛に付けたまま不足する母乳を代用乳で補う補給哺育(哺乳量:代用乳160g1L〜320g2L),試験2は双子の1頭は母牛から分離し全乳を給与する人工哺育(哺乳量:全乳5〜6L,体重の10%以上),試験3は試験2と同様に双子の1頭は母牛から分離し代用乳を給与する人工哺育(哺乳量:代用乳600g3.6L,体重10%以下)である。なお,試験2,試験3の双子の残り1頭および単子はそれぞれ母牛に付けて自然哺乳した。
(2〕双子子牛の人工哺育法としては,人工哺育期間の増体量は自然哺乳の子牛より劣るが,哺乳量を液状量で体重の1O%以内とすることにより人工乳の摂取量の増加を早め,離乳後の発育を促進させる飼養法が適当であると考えられた。また,双子であっても単子として母乳を自然哺乳させた場合は十分な発育が期待できるものと思われた(表2)。
3.黒毛和種産子人工哺育技術の検討
(1)試験は哺乳方法を変えて3回行った。すなわち,試験1:哺乳量増減法の検討(哺乳量:全乳4〜6㎏),試験2:1日全乳4㎏哺乳法の検討および試験3:1日全乳3㎏哺乳法の検討である。また,試験2では,離乳時期(6週齢,8週齢)についても併せて検討した。
(2)黒毛和種子牛の1日2回の全乳による人工哺育としては,哺乳量を1日3㎏とし,6週齢で離乳すると,哺育期間の増体は低いが,下痢の発生は少なく離乳後の増体も良好であることが示唆された。一方,哺乳量を1日4㎏定量とし,6週齢で離乳した場合,哺育期間の増体は1日3㎏定量より高かったものの,下痢の発生が多く,人工乳の摂取量が少なく,離乳後の発育も低かった。また,哺育期間の人工乳の給与法に注意し下痢を極力防止することと早期治療による短期回復により,人工乳の摂取量を高め,離乳後の発育を向上させることが必要であると考えられる(表3)。
10.成果の具体的数字
表1 母牛の体重変化
処理 | 頭数 | 開始時 体重 |
分娩前 体重 |
分娩後 体重 |
日増1) 体量 |
母牛のみの増体量 | 産子 合計体重 |
|
全増体量2) | 日増体量3) | |||||||
TM+P区 | 頭 | ㎏ | ㎏ | ㎏ | ㎏ | ㎏ | ㎏ | ㎏ |
8 | 616.9 | 654.5 | 562.5 | 0.42a | -54.5a | -60.0a | 65.3a | |
TM+2P区 | 6 | 594.0 | 656.0 | 568.7 | 0.69b | -25.3b | -0.28b | 61.0a |
TM+2.5P区 | 4 | 636.5 | 725.8 | 638.6 | 0.99c | 2.1c | 0.02c | 63.0a |
TM+3P区 | 8 | 580.3 | 686.0 | 607.4 | 1.18c | 27.1d | 0.30d | 64.2a |
SM+P区 | 25 | 628.1 | 681.4 | 626.6 | 0.59ab | -1.5c | -0.02c | 40.1b |
表2 双子の発育成績(試験3)
1)代用乳哺育,45日齢離乳
n | 体重(㎏) | 日増体量(㎏/日) | |||||
生時 | 45日齢 | 4か月齢 | 生時〜 45日齢 |
45日齢〜 4か月齢 |
通算 | ||
人工哺育区1) | 3 | 33.1 | 59.9 | 128.8 | 0.60a | 0.91a | 0.80a |
双子自然哺育区 | 3 | 35.9 | 76.3 | 148.5 | 0.90b | 0.97a | 0.94a |
単子自然哺育区 | 13 | 40.7 | 82.7 | 151.2 | 0.93b | 0.92a | 0.92a |
表3 黒毛和種子牛の発育
n | 体重(kg) | 日増体量(㎏/日) | ||||||
生時 | 2月齢 (8週齢) |
6月齢 | 生時 〜2月齢 |
2月齢 〜6月齢 |
通算 | |||
哺乳量増減法(試験1) | 3 | 34 | 53 | - | 0.34 | - | - | |
1日4㎏哺乳法(試験2) | ||||||||
6週齢離乳 | 3 | 27 | 51 | 134 | 0.43 | 0.66 | 0.59 | |
8週齢離乳 | 4 | 30 | 55 | 136 | 0.45 | 0.64 | 0.58 | |
1日3㎏哺乳法(試験3) | 5 | 32 | 47 | 147 | 0.27 | 0.79 | 0.63 |
11.成果の活用面と留意点
(1)ホルスタインに比べ黒毛和種子牛の生時体重が小さく,哺乳能力の個体差が大きいので,哺乳馴致に注意する。
(21人工哺育では,人工乳の摂取開始時期に下痢が発症しやすいので,少量づつ増量給与する。
12.残された問題とその対応
(1)受精卵移植で生まれた黒毛和種子牛の代用乳による哺育技術の検討。
(2)ホルスタインとの交雑種子牛の哺育技術の検討。
(3)人工哺育子牛の離乳後の育成技術の検討。