1.課題の分類 家畜衛生 牛 生物工学 新得畜試 北海道 畜産 2.研究課題名 PCR法による小型ピロプラズマ病のDNA診断と胎内感染の確認 (モノクロ一ナル抗体を応用した家畜め疾病診断および防除技術の開発) 3.予算区分 道単 4.研究期間 平成元〜5年 5.担当 新得畜試 衛生科,肉牛育種科 6.協力・分担関係 なし |
7.目的
PCR法を用いたDNA診断を小型ピロプロズマ病において応用し,本病の感染実態を明らかにする。
8.試験研究方法
(1)PCR法による小型ブロプラズマ病のDNA診断の検討
(2)PCR法による小型ピラフロズマ病DNA診断の利用
1)胎内感染の確認
2)胎内感染した子牛の舎飼期,放牧期におけるTs寄生率の推移
9.結果の概要・要約
(1)小型ピロプラズマ病赤血球内寄生原虫(Theileria sergenti,以下Tsとする)の主要蛋白質(分子量32kDaの表面抗原)をコードする領域の一部であるプライマー(㈱微生物化学研
究所作製)を用いてPCR法でDNAを増幅した後,電気泳動すると,Ts感染牛の血液では単一のバンドが認められ,非感染牛の血液の場合はバンドが認められなかった。また,塗抹鏡検
法では確認できないほどの低い寄生率(0.01%以下)の血液からもDNAの増幅があった。
このことからPCR法による小型ピロプラズマ病のDNA診断が可能であり,塗抹鏡検法では確認できないような低い寄生率の場合にとくに有用であると考えられた。
(2)−1)
出生1日または2日後の子牛の血液のPCR法によるDNA診断で子牛8頭にTs感染が認められ,そのうち5頭は塗抹鏡検法でもTs感染が確認され,Tsの胎内感染の存在が確認された。
−2)
放牧開始時におけるPCR法によるDNA診断で,100頭中23頭の子牛にTsの感染を認めた。
胎内感染の確認された8頭を除く15頭は舎内感染の可能性が強いと考えられた。
また、胎内感染子牛、舎内感染子牛の放牧後におけるTs感染率およびヘマトクリット値は,いずれも非感染子牛とほとんど差はなく,胎内感染,舎内感染のいずれも本試験のように低寄生率の場合放牧期の再感染にほとんど影響を及ぼさないものと考えられた。
10.成果の具体的数字
表1 塗抹鏡検法とDNA判断の比較
牛No. | 鏡検法による Ts寄生率(%) |
DNA診断 |
1 | 0 | − |
2 | 0 | − |
3 | 1.60 | + |
4 | 0 | − |
5 | 0 | + |
6 | 0 | − |
7 | 0.12 | + |
8 | 0 | − |
9 | 0.14 | + |
10 | 0.12 | + |
11 | 0 | + |
12 | 0.83 | + |
13 | 0.13 | + |
14 | 0 | − |
15 | 0 | + |
16 | 0 | + |
17 | 0.08 | + |
18 | 0 | − |
19 | 0.13 | + |
20 | 0.01 | + |
表2 胎内感染および非感染子牛のTs寄生率の推移 (%)
調査頭数 | 3月下旬 | 4月下旬 | 5月中旬 (放牧開始時) |
6月中旬 | 7月中旬 | |
胎内感染子牛 | (8) | 0.12±0,14 | 0.99±1.01 | 0.96±1.09 | 1.40±1.64 | 3.64±3.42 |
非感染子牛 | (32) | 0 | 0 | 0.04±0.10 | 0.71±1.02 | 3.28±3.25 |
11.成果の活用面と留意点
(1)PCR法による小型ピロプラズマ病のDNA診断により血液中Tsの高感度検出が可能となり,ワクチン効果試験供試牛などのTsフリーの確認などに有効である。なお本法により寄生率を調べることは困難なので,この場合は従来の塗抹鏡検法を利用する。
(2)Ts感染経路として,従来から知られている放牧地でダニを媒介した感染に加え,胎内感染,舎内感染の存在が明らかとなったが,分娩から放牧までの期間が5か月以内の場合,寄
生率は低く,放牧地での再感染に影響を及ぼすものではない。
12.残された問題と対応
(1)胎内感染が子牛の免疫機能に及ぼす影響の検討
(2)小型ピロプラズマ病ワクチンの開発とその利用法の確立