【指導参考事項】
成績概要書                         (作成平成6年1月)
1.課題の分類 畜産  めん羊 繁殖
         北海道  畜産
2.試験課題名 新鮮ラム肉の通年出荷のための繁殖技術
     (めん羊の繁殖機能制御こよる効率的生産サイクルの確立に関する試験)
3.予算区分 道費
4.担当 滝川畜試 研究部 衛生科・めん羊科
5.研究期間 平成2年〜4年
6.協力・分担関係 なし

7.目的
めん羊は秋に交配し、春に分娩するという1年に1産の繁殖サイクルを持つ。このため、ラムの出荷時期は夏から秋に集中し、販路の確保に苦労しているのが現状である。したがって、一年を通して一定量のラム肉を安定供給できる技術が求められており、季節外繁殖を経営に取り入れたいとする希望も多い。これに対応して、滝川畜試では1990年にメラトニン投与による季節外繁殖技術を確立した。この方法は良好な受胎成績が得られているが、薬剤の法的規制の問題が残されている。
一方、黄体ホルモン剤を用いた季節外祭殖技術が一部野外においても試験的に実施されているが、受胎成績が一定しないなどの問題を抱えており、このような問題をクリアする技術が求められている。
本試験では、非繁殖季節前期こおける季節外繁殖技術ならびに繁殖季節中に分娩した雌羊における繁殖機能の早期回復技術を確立する。

8.試験研究方法
1.非繁殖季節における発情誘起法
(1)雄羊の同居時期が雌羊の繁殖季節開始のタイミングに及ぼす影響
(2)暗室を用いない日長処理と雄羊同居による発情誘起
2.繁殖季節こ分娩した雌羊における繁殖機能の早期回復
(1)泌乳期間と分娩後の繁殖機能回復
(2)雄羊同居による分娩羊の発情回帰促進

9.結果の概要・要約
1−(1)非繁殖季節後期である7月〜8月の各時期(7月上旬、8月上旬・下旬)にかけてサフォーク雄羊をサフォーク雌羊群こ同居させたところ、8月上旬から雄を同居させた雌羊では8月20日前後(通常よりも3週間早い)に集中して繁殖季節が開始した。この繁殖季節を早める効果は、それ以前に雄との接触がない場合に顕著であった(表1)。
1−(2)長日の前処理(明期18時間/日を5週間)ののち、非繁殖季節初期である3月1目から暗室を使わずに中間日長処理(明期3時間)をサフォーク雌羊14頭に8週間施した。また、4月15日(分娩羊では離乳日こ当たる)には雄羊を同居させた。その結果、14頭中11頭に発情が誘起され、前年秋から空胎であった6頭では5頭(83.3%)が受胎した。2月〜3月に分娩した泌乳羊(8頭のうち4頭は離乳時にPMSG注射)ではPMSGを投与した1頭のみが受胎した(表2)。
2−(1)繁殖季節中に分娩したサフォークおよびその雑種雌羊9頭を用いて離乳時期と繁殖機能(発情周期・卵巣機能)の回復との開係について検討した。分娩後35日、50日および65日目に離乳した場合、発情は各々25.0±10.2、53.0±10.7および48.7±4.5日目に発現した。分娩後35日目における卵巣の周期的排卵活動を有する雌羊は、35日離乳の場合では3頭中3頭であったのに対し、50日および65日で離乳した場合では各々3頭中1頭および0頭であった。
2−(2)繁殖季節中に分娩したサフォーク雌羊18頭に分娩後1週目から雄羊を同居させ、離乳時期(分娩後35,50および65日)と発情回帰との関係について検討した。これらの母羊は、離乳時期に関わらず分娩後概ね4週目こ初回発情がみられた。分娩から受胎までの間隔は43.1±6.2日であった。
3.1年1産を前提として、上記1−(1)および(2)の手法を用いることによってラムの通年 出荷が可能である(図1).

10.成果の具体的数字

表1 非繁殖季節後期に雄羊を同居させた
サフォーク雌羊における繁殖季節の開始時期
n 雄羊の同居
開始月日
雄羊導入から
繁殖季節開始
までの日数1)
繁殖季節の
開始月日2)
A 7 8月26日 11.7±3.5 9月6日
B 8 8月4日 18.1±5.9 8月22日
C 4 7月2日 64.0±18.3 9月4日
D 7 7月2日3) 59.0土12.9 8月30日
1)平均値±標準誤差 2)平均値 3)8月4日に雄羊を交換

表2 非繁殖季節初期における中間日長処理と雄羊の同居による空胎および分娩羊の季節外繁殖成績
r 処理 発情誘起率
%
発情の
発現時期4)
周期的排卵
の誘起
%
受胎率
%
分娩月日 子羊生産率
%
中問日長1) 雄羊2) PMSG3)
A 6 + + 83.3 52.2±7.8 83.3 83.3 9月19-30日 100
B 4 + + 75 45.3±9.1 50 0
C 4 + + + 75 44.3±7.6 50 25 10月8日 100
1)5週間の長日処理ののち中間日長処理(13L:11D,3月1日から4月26日)を実施
2)4月15日から雄羊を6週間同居させた.少なくとも同居開始前6週間は雄から隔離されてた
3)4月15日に妊馬血清性性腺刺激ホルモン750iuを筋肉内注射
4)分娩後の経過日数


図1 母羊の繁殖パターンに基づくラムの通年出荷プログラム

11.成果の活用面と留意点
1.雄羊同居による発情促進効果は、同居前こ6週間程度雄から隔離していた場合に認められる。
2.日長処理は畜舎の窓を遮光することなく自然光のもとで実施可能であるが、タイマーで調節可能な蛍光灯の設置が必要である。
3.本試験は、経産羊において実施された結果である。

12.残された問題とその対応
1.通年出荷が可能な技術はできたが、1年2産などの連産を可能にする季節外繁殖技術の確立が問題である。
2.中間日長処理に用いる照明の種類と照度の下限についての検討が残されている。