1.課題の分類 2.課題名 軽種馬生産地帯における草地土壌および牧草の微量要素含量の実態 (軽種馬用良質粗飼料生産技術の確立に関する研究) 3.予算区分 受託 4.担当 中央農試 畜産部 畜産科 5.研究期間 平成2〜5年 6.協力分担 中央農試 環境化学部 日高東部地区農業改良普及所 日高中部地区農業改良普及所 日高西部地区農業改良普及所 |
7.研究目的
馬の飼料は70%以上が牧草で占められることから,牧草の品質,栄養価について十分吟味する必要がある。牧草からはエネルギーやタンパク質の他に無機物やビタミンを摂取するが,微量要素についてはその不足による家畜の疾病発生の報告がある。セレン欠乏による白筋症,銅欠乏によるとみられる骨疾患などである。
軽種馬の主産地である日高支庁管内の草地(採草地)について土壌および牧草のセレン,銅,マンガンおよび亜鉛について,土壌中の含有率と牧草中の含有率との関連や牧草中の含有率を馬の飼料として望ましいとされる含有率と比較した。
8.研究方法
日高支庁管内の軽種馬生産農家の採草地336筆の土壌およびチモシー1番草生草を採取した。採取は概ねチモシーの出穂期に行った。採取圃場数は平取町16筆,門別町77筆,新冠町63筆,静内町54筆,三石町35筆,浦河町68筆,様似町13筆,えりも町10筆である。
9.結果の概要・要約
1.牧草のセレン含有率は平均で0.017ppmで,馬の飼養標準に示されている要求量0.1ppmの1/5以下の含有率であった。要求量を満たす含有率のチモシーは調査数の1%にすぎなかった。高い含有率のチモシーは沖積土で土壌pHの高い圃場で生産されたものであった。
2.土壌中のセレンは溶解性の低い亜セレン酸鉄として存在しているため,牧草のセレン含有率が低くなっていると考えられた。
3.牧草の銅含有率は平均で8.1ppmであった。馬の飼養標準に示されている要求量は10ppmであり,全体の88%は10ppm以下の含有率であった。
4.N/10塩酸で抽出した可溶性銅含有率と牧草の銅含有率との間には有意な関係はみられなかった。
5.牧草のマンガン含有率は平均で46ppmであった。馬の要求量は4ppmとされているが,40ppm以下の含有率を示したチモシーは44%あった。交換性石灰が多く土壌pHが高い圃場でマンガン含有率が低かった。
6.牧草のマンガン含有率と土壌中の交換性マンガンとの相関が高く,概ね交換性マンガンが20ppm以上で牧草のマンガン含有率は40ppm以下にはならなかった。
7.牧草の亜鉛含有率は平均で21ppmであった。馬の要求量は40ppmとされており,ほとんどが40ppm以下の含有率であった。
8.土壌中の各要素の全含有率,可溶性含有率に地域間の差がみられ,東部>中部≧西部で,各要素とも東部地区で高い含有率であった。
10.主要成果の具体的数字
土壌および牧草のセレン含有率
土壌別 | 全 セレン |
熱水可溶 セレン |
牧草中 セレン |
沖積土 | 0.352 | 0.0012 | 0.021 |
泥炭土 | 0.484 | 0.0008 | 0.030 |
火山性土 | 0.486 | 0.0003 | 0.012 |
洪積土 | 0.471 | 0.0005 | 0.011 |
地区別 | |||
東部 | 0.530 | 0.022 | |
中部 | 0.297 | 0.010 | |
西部 | 0.019 |
土壌および牧草の銅含有率
土壌別 | 全銅 | 可溶性銅 | 牧草中銅 |
沖積土 | 34 | 4.47 | 7.8 |
泥炭土 | 29 | 3.41 | 6.8 |
火山性土 | 19 | 0.69 | 8.8 |
洪積土 | 23 | 1.91 | 6.3 |
地区別 | |||
東部 | 33 | 3.64 | 5.7 |
中部 | 22 | 1.75 | 11.3 |
西部 | 22 | 2.00 | 7.3 |
土壌および牧草のマンガン含有率
土壌別 | 全 マンガン |
交換性 マンガン |
易還元性 マンガン |
牧草中 マンガン |
沖積土 | 648 | 22.5 | 122 | 42 |
泥炭土 | 425 | 33.7 | 100 | 59 |
火山性土 | 423 | 8.5 | 60 | 48 |
洪積土 | 503 | 19.5 | 90 | 46 |
地区別 | ||||
東部 | 632 | 26.2 | 128 | 36 |
中部 | 528 | 16.1 | 91 | 52 |
西部 | 375 | 6.4 | 50 | 50 |
土壌および牧草の亜鉛含有率
土壌別 | 全 亜鉛 |
可溶性 亜鉛 |
牧草中 亜鉛 |
沖積土 | 70 | 4.40 | 21 |
泥炭土 | 58 | 4.23 | 21 |
火山性土 | 45 | 2.67 | 22 |
洪積土 | 67 | 3.58 | 23 |
地区別 | |||
東部 | 69 | 4.94 | 22 |
中部 | 53 | 2.56 | 21 |
西部 | 49 | 2.88 | 22 |
11.成果の活用面と留意点
1,徴量要素の土壌診断基準および施肥標準が作成されていないので,牧草の含有率を高める手段は確立していない。当面,飼科給与の際サプリメント等を利用して不足分を補うこととする。
12.残された問題点とその対応
1.牧草のセレン,銅および亜鉛含有率は馬の飼料としては低い含有率であり,含有率を高める方法の検討が必要である。
2.草地土壌における徴量要素について,士壊診断基準および施肥対応の検討が必要である。