1.課題の分類 北海道 畑作 ばれいしょ 2.研究課題名 高品質ポテトチップス原料用ばれいしょの収穫適期 3.予算区分 道費 4.研究機関 平成3〜6年 5.担当 道立十勝農試研究部作物科 6.協力・分担関係 |
7.目的
高品質ポテトチップス原料を生産するため、早植栽培が加工食品原料用品種の生育および収穫適期に及ぼす影響、生育過程および貯蔵におけるポテトチップス品質の変化、および主要形質とポテトチップスカラー値の関係について明らかにする。
8.試験研究方法
1)供試品種
「ワセシロ」(早生、平成3〜6年)
「トヨシロ」(中早生、平成3〜6年)
「アトランチック」(中晩生、平成4〜6年)
2)処理区別
早植、標準植の2植付期
3)一区面積および区制
一区4〜8畦×40株、160〜320株、36〜72㎡、分割区配置法3〜5反復
4)耕種概要
浴光催芽開始:早植3月24〜25日、標準植:4月15〜22日植付期:早植4月20〜23日、標準植:5月6〜9日施
肥量:窒素8㎏、りん酸20㎏、カリ14〜16㎏、苦土5㎏/10a栽植密度:畦幅75㎝、株間30㎝、10a当り4,444株
この他の除草剤散布、病害虫防除、中耕および培土などは当場の標準耕種法に準ずる。
5)ポテトチップス品質:アグトロン値(以下、ポテトチップスカラー値と表す)、グルコース含量、シュクロース含量。
本試験では、ポテトチップスカラー値30以上、でん粉価14%以上、一個重60g以上をそれぞれポテトチップス
加工食品原料用とする。
9.結果の概要・要約
1)各品種の萌芽期および開花期は早植が標準植より早まったが、茎長、茎数および枯凋期は年次により反
応が異なった。
2)早植の原料基準の一個重60gに達した日は、各品種とも2〜3日標準植より早かった。
3)早植の規格内いも重が標準植より勝ったのは、品種および年次により振れはあるものの8月上旬までで
あった。
4)早植により、原料基準のでん粉価14%に達した日は、「ワセシロ」では10日、「トヨシロ」では9日、および
「アトランチック」では2日、標準値より早かった。
5)生育過程のポテトチップスカラー値は、早植が標準植より勝る年次および品種が多かった。一方、早植によ
り、ポテトチップスカラー値が30に達した日は、「ワセシロ」および「トヨシロ」では2日標準植より早く、「アトラン
チック」では植付期間に差異が認められなかった。
6)早植による収益性の向上は、「ワセシロ」では7月下旬あるいは8月上旬収穫、「トヨシロ」では8月中、
下旬収穫で大きかったが、「アトランチック」では比較的小さかった。
7)貯蔵中のポテトチップスカラー値は、各品種とも植付期に関係なく低下傾向を示した。なお、「トヨシロ」
および「アトランチック」では、1ヵ月後貯蔵でもポテトチップスカラー値30以上を示す年次があった。
8)ポテトチップスカラー値は、「ワセシロ」の葉面積指数および各品種の葉色値(SPAD値)との間に負の
相関関係があり、葉色値30以下では、ポテトチップスカラー値は30以上を示す。また、「ワセシロ」および「トヨシ
ロ」のでん粉価からポテトチップスカラー値を概ね推定できた。以上のことから、次のように結論づけられる。
ⅰ)早植栽培導入により収穫適期幅が大きく拡大された。
ⅱ)すなわち、高品質ポテトチップス原料用ぱれいしょの収穫適期は品種別に次のように整理される。
①「ワセシロ」は早期肥大性に優れるため、早期出荷用に適する品種である。早植栽培の導入により、
塊茎肥大とでん粉蓄積がより一層促進され、原料ばれいしょの高品質が図られる。その収穫適期は
7月下旬から8月上旬である。
②「トヨシロ」の収穫適期は早植栽培において、8月中・下旬、標準栽培において、8月下旬から枯凋期以降
までである。
③「アトランチック」は、早植栽培導入の効果が小さいので、標準栽培とし、その収穫適期は8月中旬から
枯凋期以降までである。
ⅲ)貯蔵中のポテトチップスカラー値の低下は、「ワセシロ」、「アトランチック」および「トヨシロ」の順に大きいの
で、「ワセシロ」は収穫後できるだけ早く製品化する。
ⅳ)ポテトチップスカラー値の判定は、先ず、葉色値で30前後を目安とし、次いで、でん粉価から凡そ推定する。
10.成果の具体的数字
表1 早植による「ワセシロ」、「トヨシロ」、「アトランチック」の効果品種 | 処理区別 | 8月5〜8日収穫 | 8月18〜23日収穫 | ||||||
でん粉価 (%) |
規格内収量 (㎏/10) |
価格調整剤 収量 |
早植による 効果 |
でん粉価 (%) |
規格内収量 (㎏/10) |
価格調整剤 収量 |
早植による 効果 |
||
ワセシロ | 早植 | 16.9 | 2,624 | 3,223 | 366 | 17.3 | 2,946 | 3,191 | 38 |
標準 | 16.5 | 2,326 | 2,857 | 17.1 | 2,908 | 3,153 | |||
トヨシロ | 早植 | 17.2 | 2,141 | 2,781 | 168 | 17.9 | 2,795 | 3,773 | 254 |
標準 | 16.8 | 2,006 | 2,613 | 17.1 | 2,702 | 3,519 | |||
アトランチック | 早植 | 18.4 | 2,184 | 2,949 | 165 | 17.8 | 2,645 | 3,477 | 39 |
標準 | 18.1 | 2,062 | 2,784 | 17.4 | 2,618 | 3,438 |
表2 早植による「ワセシロ」の効果
処理区別 | 7月22〜28日収穫 | |||
でん粉価(%) | 規格内収量(㎏/10) | 価格調整済収量 | 早植による効果 | |
早植 | 16.1 | 2,158 | 3,074 | 468 |
標準 | 15.3 | 1,836 | 2,606 |
表3 貯蔵後のポテトチップス品質の変化
品種名 | 処理区別 | 平成4年 | ||
収獲後 | 1ヵ月後 | 3ヵ月後 | ||
ワセシロ | 早植 | 35.7 | 20.2 | 17.4 |
38.8 | 21.1 | 18.2 | ||
トヨシロ | 早植 | 35.1 | 33.8 | 29.6 |
標植 | 37.1 | 34.6 | 28.7 | |
アトランチック | 早植 | 38.7 | 28.4 | 27.0 |
標植 | 37.6 | 29.0 | 28.3 |
11.成果の活用面と留意点
1.「ワセシロ」の7月下旬における規格内いも重は、10a当り2,000㎏以上を目標とする。
2.平成5年のような低温年、平成6年のような異常高温年では、目標の規格内いも重に達するのが遅れるこ
とがある。
3.葉色値(SPAD)の測定は、平均的な生育を示す4〜5株の比較的大きい複葉の頂小葉と小葉30枚程度
とする。
4.貯蔵試験は、10〜11℃の温度条件である。
12.残された課題と問題点
1.本試験の設定以外の温度条件および長期貯蔵について検討
2.新しい栽培技術[前進栽培(マルチ、べた掛け)]について検討