1.課題の分類 総合農業 生産環境 土壌肥料 3-2-3 北海道 土肥・環 2.研究課題名 畑作物の連・輪作圃場における春生雑草群落の草種構成 (作物の輪作体系確立に関する試験一長期連・輪作試験) 3.予算区分 道単 4.研究期間 昭和34年〜 5.担当 北見農試 土壌肥料科 6.協力・分担関係 なし |
7.目的
畑作物の作付体系が春生雑草の群落組成に及ぼす影響を明らかにする。このことにより、輪作および除草作業体系を組む際の雑草発生に関する基礎的な情報を提供する。
8.試験研究方法
1991年から93年の3ケ年(33作目〜35作目)にわたり、北見農試の連・輪作圃場において赤クローバ区を除く25処理区の春生雑草を調査した(6月中旬に1m2の方形枠を用い、処理区当り10地点計10m2から標本を採取)。
(1)処理区 裸地、連作系列:秋播小麦、菜豆、大豆、馬鈴薯、えん麦、てん菜
2年輪作系列:てん菜−えん麦
3年輪作系列:てん菜−えん麦−大豆
4年輪作系列:てん菜−えん麦−大豆−馬鈴薯
5年輪作系列:てん菜−えん麦−秋播小麦−赤クローバ−馬鈴薯
6年輪作系列:てん菜−えん麦−菜豆−秋播小麦−赤クローバ−馬鈴薯
(計27処理区、2反復。1区面積32.5m2)
(2)調査項目 草種、常在度、個体密度、頻度、種多様度指数、積算優占度、類似度指数、非類似度指数。
9.結果の概要要約
(1)連・輪作圃場の全調査処理区を通じて発生した春生雑草の草種は、14科23種であった。なかでも、タデ
科とイネ科の草種数が多かった。
(2)常在度クラスによる区分を行った結果、常在度60%以上の高常在度種は、シロザ、ハコベ、スカシタゴ
ボウ、イヌビエ、ナギナタコウジュ、スベリヒユおよびオオイヌタデの7種であった。これらは連・輪作
圃場の主要雑草と考えられた。なかでもシロザ、ハコベの平均の常在度は100%と高かった。一年草>越年
草>多年草の順に常在度が高い傾向にあることが認められた。これらのことから、連・輪作圃場の雑草の
群落の相観は、北海道における典型的な畑地群落を示していると考えられた。
(3)91年の雑草の個体密度は92および93年に比べて低く、発生個体数は少なかった。この原因として、気象
条件とりわけ降水量の影響が考えられた。
(4)連作系列ではえん麦>てん菜>馬鈴薯>菜豆>大豆>秋播小麦連作区の順に個体密度が高かった。
一方、輪作系列では輪作年限の増加に伴い個体密度は、低下する傾同を示した(表1)。
輪作系列における個体密度の低下の原因として、えん麦の栽培頻度の低下に伴うシロザ、ナギナタコウジ
ュの個体密度の低下、大豆導入によるナギナタコウジュやハコベの個体密度の低下、および秋播小麦の導
入によるシロザやナギナタコウジュの個体密度の低下が考えられた。
(5)連作および5年、6年輪作系列の秋播小麦区では草種数が多く、そのため種多様度指数が高かった。ま
た、越冬して栽培されるために越年草の草種数割合および個体数割合が高かった(表1)。主な越年草の草
種は、ハコベ、スカシタゴボウ、スズメノテッポウ、ナズナであり、なかでも連作秋播小麦区では、スズ
メノテッポウが他処理区に比べて特異的に発生していた。
(6)2回越冬して栽培される5年、6年輪作系列の赤クローバ後の馬鈴薯区では、草種数が多く、そのため
種多様度指数が高かった。また、多年草の草種数割合が高く(表1)、その主体はヒメスイバであった。
(7)連作大豆区および大豆が導入されている3年、4年輪作系列では、総じて草種数および種多様度指数が
低かった(表1)。
(8)裸地区では個体密度が極めて低く、そのため種多様度指数は高かった(表1)。
(9)個体密度と頻度による積算優占度から見て、シロザないしハコベが最優占種の処理区が多くあり、とり
わけシロザが最優占種の処理区が多かった。連作系列における最優占種は次の通りであった。
シロザ:菜豆、大豆、えん麦およびてん莱、ハコベ:秋播小麦、馬鈴薯。また、馬鈴薯と秋播小麦が導入
されている5年、6年輪作系列では、ハコベが最優占種となった処理区が多かった。
(10)大豆と菜豆の連作区の優占順位6位までの草種とその順位は同じであり、群落の相観は似通っていた。
(11)各連作区の優占種のうち、識別種と判断された草種は次の通りであった。
①秋播小麦:スズメノテッポウ、スカシタゴボウ、ナズナ
②菜豆:スベリヒユ
③大豆:スベリヒユ
④馬鈴薯:イヌビエ、オオイヌタデ
⑤えん麦:ナギナタコウジュ、スギナ
(12)各処理区の群落組成は、類似度指数に基づくクラスター分析により栽培される作物の影響を反映した5
つのタイプに類型化された。
①裸地型 ②秋播小麦型 ③大豆・菜豆型 ④馬鈴薯型 ⑤えん麦・てん菜型
10.成果の具体的数字
表1 連・輪作区における群落制度処理区 | 3ケ年の平均値(6月中旬調査) | ||||||
個体密度 (m2) |
草種数 (10m2) |
種多様度 指数 |
休眠型別の草種数割合(%) | ||||
一年草 | 越年草 | 多年草 | |||||
裸地 | 17.2 | 8.3 | 1.62 | 53.7 | 42.6 | 3.7 | |
連作 | 秋小麦 | 59.2 | 13.0 | 1.97 | 31.2 | 52.5 | 16.3 |
菜豆 | 108.9 | 9.0 | 1.16 | 52.7 | 44.3 | 3.0 | |
大豆 | 71.5 | 7.3 | 0.97 | 64.6 | 31.7 | 3.7 | |
馬鈴薯 | 137.2 | 10.0 | 1.27 | 64.3 | 25.5 | 10.2 | |
えん麦 | 243.7 | 10.0 | 1.16 | 55.2 | 27.4 | 17.4 | |
てん菜 | 146.0 | 10.0 | 1.24 | 56.5 | 40.5 | 3.0 | |
平均 | 127.8 | 9.9 | 1.30 | 54.1 | 37.0 | 8.9 | |
2輪 | て-え | 288.8 | 11.0 | 1.26 | 60.2 | 33.7 | 6.1 |
え-て | 309.9 | 9.3 | 1.04 | 58.3 | 37.5 | 4.2 | |
平均 | 299.4 | 10.2 | 1.15 | 59.2 | 35.6 | 5.2 | |
3輪 | て-え | 165.5 | 10.3 | 1.26 | 60.2 | 27.7 | 12.1 |
大-て | 183.8 | 8.7 | 1.03 | 64.6 | 27.9 | 7.5 | |
え-大 | 130.3 | 7.7 | 0.96 | 65.2 | 26.9 | 7.9 | |
平均 | 159.9 | 8.9 | 1.08 | 63.3 | 27.5 | 9.2 | |
4輪 | て-え | 96.2 | 8.3 | 1.09 | 67.9 | 20.5 | 11.6 |
馬-て | 90.9 | 8.0 | 1.04 | 66.1 | 26.5 | 7.4 | |
大-馬 | 96.5 | 8.7 | 1.13 | 67.7 | 29.0 | 3.3 | |
え-大 | 99.7 | 7.0 | 0.88 | 72.5 | 27.5 | 0 | |
平均 | 95.8 | 8.0 | 1.04 | 68.5 | 25.9 | 5.6 | |
5輪 | て-え | 112.8 | 10.3 | 1.39 | 59.0 | 30.5 | 10.5 |
馬-て | 132.3 | 10.3 | 1.33 | 65.2 | 26.0 | 8.8 | |
ク-馬 | 124.1 | 12.0 | 1.56 | 52.0 | 30.3 | 17.7 | |
え-秋 | 50.7 | 11.3 | 1.86 | 40.0 | 47.3 | 12.7 | |
平均 | 105.0 | 11.0 | 1.54 | 54.1 | 33.5 | 12.4 | |
6輪 | て-え | 111.5 | 11.3 | 1.50 | 57.3 | 30.2 | 12.5 |
馬-て | 133.7 | 9.0 | 1.14 | 60.9 | 31.7 | 7.4 | |
ク-馬 | 129.3 | 12.3 | 1.64 | 49.8 | 28.1 | 22.1 | |
菜-秋 | 37.0 | 10.7 | 1.65 | 32.5 | 58.7 | 8.8 | |
え-菜 | 43.3 | 8.3 | 1.23 | 64.5 | 28.5 | 7.0 | |
平均 | 91.0 | 10.3 | 1.43 | 53.0 | 35.4 | 11.6 |
表2 連・輪作ほ場における連作区を軸とした作物別の春生雑草の群落組成
作物型 | 該当する主な処理区 | 群 落 組 成 の 特 徴 | |||||
個体 密度 |
種多 様性 |
越年草 草種数 割合 |
多年草 草種数 割合 |
優 占 種 | |||
最優占種 | 連作区における識別種 | ||||||
裸 地 | 裸 地 | 低 | 高 | 中 | 低 | シロザ | − |
秋まき小麦 | 連作秋小 | 低 | 高 | 高 | 高 | ハコベ | スカシタゴボウ、ナズナ |
5,6年輪作秋小 | 低 | 高 | 高 | 中 | ハコベ | スズメノテッポウ | |
大豆・菜豆 | 連作大豆 | 低 | 低 | 低 | 低 | シロザ | スベリヒユ |
連作菜豆 | 中 | 中 | 中 | 低 | シロザ | スベリヒユ | |
馬鈴薯 | 連作馬鈴薯 | 中 | 中 | 低 | 中 | ハコベ | イヌビエ、オオイヌタデ |
クロ−バ後の馬鈴薯 | 中 | 高 | 中 | 高 | ハコベ | − | |
えん麦・てん菜 | 連作えん麦 | 高 | 中 | 低 | 高 | シロザ | ナギナタコウジュ、スギナ |
連作てん菜 | 中 | 中 | 中 | 低 | シロザ | − | |
2年輪作系列 | 高 | 中 | 中 | 中 | シロザ | − | |
3年輪作系列 | 中 | 低 | 中 | 中 | シロザ | − |
11.成果の活用面と留意点
(1)北見農試の連・輪作圃場において、1991年から93年の3ケ年(33作〜35作目)にわたり、春生雑草の群落組
成を調査した。連作区の結果を軸に連・輪作に伴う発生草種・量の動態を明らかにし、栽培作物別に整理
した(表2)。即ち、畑地の雑草群落は栽培される作物の影響を反映した次の5つのタイプに類型化された。
①裸地型、②秋播小麦型、③大豆・菜豆型、④馬鈴薯型、⑤えん麦・てん菜型。これらの知見は畑作物の
輪作および除草作業体系を組む際に、雑草に関する基礎的な情報として利用出来る。
(2)限られた地点および処理における調査結集であるため、既往の知見との整合性を勘案しつつ、研究並びに
宮農指導上の参考にすること。
12.残された問題点とその対応
(1)データの蓄積。
(2)栽培作物の生育特性および遮光効果の面からの雑草群落の解明。栽培作物と雑草間、
雑草間どうしのアレロパシーの検討。