1.課題の分類 総合農業 北海道 土壌肥料 3-2-1a 生産環境 土肥・環 2.研究課題名 畑土壌における微生物代謝活性の測定法 (畑地生態系制御による有機物管理技術の確立:クリーン農業) 3.予算区分 道費 4.担当 十勝農業試験場土壌肥料科 5.研究期間 平成3年〜6年 6.協力・分担関係 なし |
7.目的
畑地の生産力と密接に関連する土壌微生物の働きを総合的に評価するために”微生物活性診断法”を提案する。
8.試験研究方法
1)供試した微生物特性測定項目:希釈平板法(DP)による微生物数(細菌数、CV耐性菌数、糸状菌数)、
ATP、薫蒸法バイオマス、PNP誘導体による酵素活性(酵素名の後ろに”S”を付した)、4MU誘導体による
酵素活性(酵素名の後ろに”F”を付した)。
2)供試土壌:芽室町内の各種土壌に立地する農家圃場、20年間異なる有機物処理を連続した圃場等を供試
した。
3)微生物特性測定項目の比較方法
①有機物施用系を的確に評価できること
②土層深への反応が適切であること
③圃場での有機物分解速度及び、作物収量と矛盾しないこと
④淡色黒ボク土と多湿黒ボク土の違いを反映すること
⑤多くの測定項目を代表すること などの視点で比較検討した。
9.結果の概要・要約
①酵素活性は希釈平板法による微生物数に比べて、有機物処理の差を的確かつ安定的に反映した。
②厚層多腐植質多湿黒ボク土の下層土で、バイオマスに依存しない酵素活性が認められた。作土と下層土
の酵素活性の比は、フォスファターゼ(S)で最も低く、FDA(F)とα-グルコシダーゼ(F)では比較的
大きかった。β-グルコシダーゼ(S)とセルラーゼ(S)は両者の中間であった(表1)。
③同一圃場で有機物施用量が異なる場合、1筆圃場で水分条件の異なる地点を調査した場合のように限定
された条件内では、てん菜収量及び埋設した麦稈の分解率の高い地点で酵素活性も高かった。異なる土壌
条件にある農家圃場の実態を調査したところ、フォスファターゼ(S)は、埋設麦稈の分解率と有意な負
の相関を示すことがあり、また、てん菜収量及びその関連項目と有意な正の相関を示さないことが多かった
(表2、3)。それに対し、通常年にはα-グルコシダーゼ(S、F)・β-グルコシダーゼ(S)、セルラーゼ(S、
F)等は、てん菜収量の関連項目と正の相関を有することが多かった(表3)。
④淡色黒ボク土、多湿黒ボク土及び低地土それぞれ約10ヶ所の圃場で酵素活性等を測定し、平均値の比較
を行ったところ、低地土は火山性土に比較してフォスファターゼ(S)、FDA(F)を除く酵素活性
が低い傾向であった。また、多湿黒ボク土は淡色黒ボク土に比べて、高いフォスファターゼ(S)及び
α-グルコシダーゼ(S)を有したが、FDA(F)とα-グルコシダーゼ(F)は淡色黒ボク土の方が
高い傾向であった(表4)。多湿黒ボク土の方が、淡色黒ボク土に比べて酵素活性のばらつきが大きかった。
⑤バイオマスは土壌中の微生物全体を表し、細菌数(DP)は特に活性の強い画分を表し、酵素活性は両者
の中間の性格を有すると判断された。本成績で供試した酵素活性のうち、フォスファターゼ(S)、α-グル
コシターゼ(S)は互いに相関性が強く、1つのグループをなすと判断された。同様に、β-グルコシダーゼ(S)
セルラーゼ(S)(F)、α-グルコシダーゼ(F)も同一のグループに属する。しかし、FDA(F)は両者から比
較的独立していた(表5)。
⑥いくつかの観点から各種微生物特性を比較した結果、PNP誘導体を基質とするセルラーゼ(S)、及び4MU
を誘導体基質とするα-グルコシダーゼ(F)を、土壌の”微生物代謝活性”の診断法として選び出した。
10.成果の具体的数字
表1 厚層多腐植質多湿黒ボク土での上下土層間の酵素活性供試土壌 | フォスファターゼ (S) |
α-グルコシダーゼ (S) |
β-グルコシダーゼ (S) |
セルラーゼ (S) |
α-グルコシダーゼ (F) |
FDA (F) |
0-20㎝土層 | 15.8 | 2 | 16.4 | 3.5 | 456 | 246 |
下層漆黒色土層 | 39.9 | 2 | 20.7 | 2.9 | 240 | 120 |
作土/下層 | 0.4 | 1 | 0.8 | 1.2 | 1.9 | 2.1 |
表2 酵素活性とてん菜の乾物及ぴ窒素、りん酸吸収量の関係(相関係数)
項目 | フォスファターゼ | βグルコシダーゼ | セルラーゼ |
てん菜乾重 | 0.038 | 0.252 | 0.178 |
窒素吸収量 | 0.252 | 0.299* | 0.290* |
リン酸吸収量 | 0.527** | 0.247 | 0.091 |
麦稈分解率 | -0.349* | 0.105 | -0.022 |
表3 多湿黒ボク土での酵素活性とてん菜乾重等と埋設麦稈分解率との関係
酵素活性 | てん菜乾重 | 窒素吸収量 | リン酸吸収量 | 麦稈分解率 |
フォスファターゼ(S) | 0.233 | 0.149 | 0.367 | 0.121 |
αグルコシダーゼ(S) | 0.477* | 0.331 | 0.549** | 0.282 |
βグルコシダーゼ(S) | 0.428* | 0.366 | 0.520** | 0.095 |
セルラーゼ(S) | 0.415* | 0.325 | 0.489* | 0.179 |
FDA(F) | 0.6.3** | 0.468* | 0.687** | 0.100 |
αグルコシダーゼ(F) | 0.359 | 0.433* | 0.431* | -0.009 |
セルラーゼ(F) | 0.494* | 0.459* | 0.505** | 0.152 |
易分解性基質量 | 0.096 | 0.109 | 0.141 | -0.231 |
表4 土壌酵素活性の土壌間差異
土壌 | 酵素活性の平均値(CV) | ||||
フォスファターゼ(S) | αグルコシダーゼ(S) | βグルコシダーゼ(S) | セルラーゼ(F) | αグルコシダーゼ(F) | |
淡色黒ボク土 | 10.2(15) | 1.08ab(20) | 14.2a(18) | 3.1a(20) | 664a(22) |
多湿黒ボク土 | 13.2(38) | 1.20a(41) | 14.4a(20) | 3.1a(35) | 638a(38) |
低地土 | 11.0(22) | 0.82b(29) | 9.4b(26) | 1.8b(29) | 476b(36) |
表5 各種微生物特性測定項目間の相互間係(相関係数の有意性で表示)
項目 | フォスファ ターゼ(S) |
α-グルコ シダーゼ(S) |
β-グルコ シダーゼ(S) |
セルラーゼ (S) |
α-グルコ シダーゼ(F) |
セルラーゼ (F) |
FDA (F) |
バイオマス |
α-グルコ シダーゼ(S) |
***** | ☆ | - | - | - | - | - | - |
β-グルコ シダーゼ(S) |
***-+ | **-* | ☆ | - | - | - | - | - |
セルラーゼ (S) |
***-- | **-* | **** | ☆ | - | - | - | - |
α-グルコ シダーゼ(F) |
- +-+ | *--* | **+* | *+** | ☆ | - | - | - |
セルラーゼ (F) |
* - | + * | * * | * * | * * | ☆ | - | - |
FDA (F) |
--+- | -*- | --+- | -+- | -+- | - | ☆ | - |
バイオマス | +*--- | ++-+ | +*--* | *+--* | ---* | + * | +- | ☆ |
易分解性C | **-** | *-** | ***-* | ***-* | -*-* | * * | +- | +*-- |
(実験区分) | 12345 | 12345 | 12345 | 12345 | 12345 | 12345 | 12345 | 12345 |
11.成果の活用面と留意点
本成績は、試験研究遂行上の参考とする。
12.残された問題点とその対応
本診断法による測定値の土壌診断基準値にあたる数値、およびその適応土壌、土壌試料採
取条件等については現在継続して検討中である。