1.課題の分類 畜産 乳牛 飼養技術 根釧農試 北海道 2.研究課題名 乾乳期における乳牛の乳房炎予防技術 “北海道草地酪農地帯における高品質牛乳生産技術の開発 1.風味等の優れた牛乳生産技術の開発 (1)管理法の改善による衛生的乳質向上技術に関する試験” 3.予算区分 国補(緊急開発) 4.研究期間 5ヶ年(平元〜5年) 5.担当 根釧農試 研究部 酪農第二科 6.協力・分担関係 北農試・畜試・千葉畜産セ 群馬県畜試・福岡農総試畜研 |
7.目的
乾乳および分娩時の管理技術により分娩時の乳房炎発生率の低下をはかるため、乾乳時の持続性抗生剤の乳房注入、乾乳条件、分娩準備期の乳頭消毒などの効果について検討する。
8.試験研究方法
1)乾乳期の効果的な乳頭消毒方法の検討(平1年)
乳頭消毒剤(ヨード製剤、グルコン酸クロルヘキシジン製剤)×消毒回数(1、2回/日)
2)乾乳時抗生剤注入と分娩前乳頭消毒による乳房炎予防効果検討(平2〜3年)
乾乳時抗生剤:ペニシリン+ストレプトマイシン製剤(AD乳区)
分娩前乳頭消毒:グルコン酸クロルヘキシジン1%薬液(CD乳区)、
分娩前2週〜分娩、1日2回
3)乾乳条件が乳腺分泌液の抗菌因子に及ぼす影響(平4〜5年)
乾乳時の乳量×乾乳方法(漸減、急速)
9.結果の概要・要約
1)乾乳期の乳頭の消毒では、ヨード製剤に比べ付着細菌数の減少効果が大きいグルコン酸クロルヘキシ
ジン製剤が優れていた。一日二回のグルコン酸クロルヘキシジン1%製 剤での消毒により、乳頭表面の
付着総菌数が7分の1にブドウ球菌数は5分の1に減少した(表1)。
2)乾乳時の持続性抗生剤注入区および無注入区における乾乳後3週時の感染発生分房数/処理分房数はそ
れぞれ11/89および23/87で、乾乳時の持続性抗生剤注入処理には新規細菌感染の防止効果が認め
られた(表2)。
3)分娩前の乳頭消毒区および無消毒区における分娩直後の感染発生分房数/処理分房数はそれぞれ8/68お
よび11/80で、牛床などの管理が不十分な状況での分娩前の乳頭消毒に新規細菌感染防止の効果は
認められなかった(表3)。
4)乾乱後期から分娩直後にかけての細菌感染の動態をみると非感染分房の13%(19/148)で新規感染が発生し
た。また、既に感染していた分房の42%(11/26)が自然治癒し、58%(15/26)は分娩後も感染が持続した。
この結果、分娩直後に細菌感染がみられた分房のうち、乾乳期から持ち越した感染分房の占める割合は
44%(15/34)であった。
5)乾乳期の新規細菌感染の発生割合は、乾乳移行期では持続性抗生剤の注入のない場合26%と高く注入
処理により12%に減少した。また、乾乱後3週から分娩前2週までの期間では3%、分娩前2週から分娩直後の
期間では13%であった。
6)乾乳期の乳腺分泌液の性状や分泌液のラクトフェリンとリゾチームの濃度は、乳量や乾乳方法以外の個体
間のバラツキが大きく、個体差を含めたその他の要因の強い影響が示唆された。
7)乾乳後16〜30日の乳腺分泌液のラクトフェリン・リゾチーム濃度には、個体によるバラツキが大きいものの、
乾乳前の乳量や乾乳方法により異なる傾向がみられた。乾乳前の乳量が多く漸減乾乳法を行なった群は、
いずれも他の群に比べてこの時期の濃度が低く、乳腺の抗菌作用の発現が弱い傾向がみられた(表4)。
10.成果の具体的数字
表1 乾乳期の乳頭消毒による乳頭表面の付着総細菌数の変化
浸漬薬剤 | 浸漬後の経過時間(hr) | |||
7 | 17 | 24 | ||
ヨード製剤 (有効沃素0.5%) |
対照区 | 5.3A | 5.3 | 4.3 |
処理区 | 5.2 | 4.9 | 4.3 | |
差 | 0.1 | 0.4 | 0.0 | |
ヨード製剤 (有効沃素1.0%) |
対照区 | 5.0 | 5.1 | 4.6 |
処理区 | 4.9 | 4.5 | 4.3 | |
差 | 0.1 | 0.6 | 0.3 | |
グルコン酸クロルヘキシ ジン製剤(1.0%) |
対照区 | 4.8 | 4.8 | 4.9 |
処理区 | 4.0 | 3.9 | 4.1 | |
差 | 0.8 | 0.9 | 0.8 |
表2 乾乳時の持続性抗生剤注入と乾乳中期の細菌感染状況
抗生剤 処理 |
乾乳前 感染状況 |
処理 分房 |
乾乳中期 | |
非感染 | 感染 | |||
対照区 | 非感染 | 87 | 64 | 23A |
感染 | 6 | 3 | 3 | |
注入区 | 非感染 | 89 | 78 | 11B |
感染 | 17 | 10 | 7 |
表3 分娩前乳頭消毒と分娩直後の細菌感染状況
乳頭 消毒 |
乾乳後期 感染状況 |
処理 分房 |
分娩直後感染状況 | |
非感染 | 感染 | |||
対照区 | 非感染 | 80 | 69 | 11A |
感染 | 11 | 6 | 5 | |
消毒区 | 非感染 | 68 | 60 | 8B |
感染 | 15 | 5 | 10 |
表4 乾乳条件と乾乳後16〜30日の乳腺分泌液のラクトフェリン、リゾチーム濃度
乳量1) | 乾乳方法 | ラクトフェリン (mg/ml) |
リゾチーム (μg2)/ml) |
14㎏以上 | 漸滅 | 18±12 | 2±1 |
14㎏未満 | 漸減 | 31±30 | 12±19 |
14kg以上 | 急速 | 43±25 | 9±7 |
14kg未満 | 急速 | 71±66 | 10±12 |
11.成果の活用面と留意点
1)抗生剤注入にあたっては乳頭口を損傷しないように充分配慮すること。
2)乳房炎防除のためには分娩準備期の乳頭を乾燥した清潔な状態に保つことが重要と思われる。
12.残された問題点
1)乾乳時の全頭全乳区への抗生物質使用が薬剤耐性菌の発生に及ぼす影響
2)乾乳期乳腺の感染防御機能の解明と促進技術の開発
3)分娩準備期の乳房炎防除技術の開発