1.課題の分類 畜産 乳牛 生産物 根釧農試 北海道 2.研究課題名 生乳検査時におけるぺ一パーディスク法に対する乳固有の抗菌因子の影響 (抗生物質等の日常検査法に対する乳固有の抗菌因子の影響に関する試験) 3.予算区分 受託 4.研究期間 1ヶ年(平6年) 5.担当 根釧農試 研究部 酪農第二科 6.協力・分担関係 なし |
7.目的
生乳中に生理的に存在するラクトフェリン、リゾチーム、ラクトパーオキシダーゼ等の乳固有の抗菌因子が、残留抗生物質等の日常検査法であるぺ一パーディスク法の阻止円形成に与える影響を明らかにする。また、加熱処理等の試料の前処理法による乳固有の抗菌因子の失活効果を明らかにする。
8.試験研究方法
1)乳固有の抗菌因子の影響と失活処理法
供試材料; ラクトフェリン、ウシリゾチーム、ラクトパーオキシダーゼ
前処理法; 80℃5分、100℃10分、トリプシン添加、トリプシン添加+80℃5分
調査項目; 脱脂乳および燐酸緩衝生理食塩液(PBS)添加時の阻止円直径
2)生乳における乳固有の抗菌因子による阻止円形成作用とその失活処理法の効果
供試材料; 正常乳、乳房炎乳、初乳前処理法;上に同じ
調査項目; ラクトフェリン濃度、リゾチーム濃度、体細胞数、阻止円直径
9.結果の概要・要約
1)ラクトフェリンはPBSへの添加では8mg/ml以上の濃度で、脱脂乳への添加では16mg/ml以上の濃度で阻止
円を形成し、その境界は鮮明であった。牛由来のリゾチームはPBSへの添加では150U/ml以上の濃度で、
ラクトフェリンをO.5mg/ml加えたPBSへの添加では60U/ml以上の濃度で、また脱脂乳への添加では8U/ml以
上の濃度で阻止円を形成し、高濃度時の阻止円は透明および半透明の二重の阻止円を形成した。
3)ラクトパーオキシダーゼはPBSおよび脱脂乳へ100IU/mlの濃度まで添加しても阻止円を作らなかった。
4)乳固有の抗菌因子を失活させるためのトリプシン処理では、試料乳へのトリプシン液の添加重を10%とし室
温での作用時間を10分間とした場合、添加トリプシン液の濃度は27USPU/ml程度が適当であった。また、
試料へのトリプシン添加により不鮮明な阻止円の形成やペニシリン標準液の阻止円が大きくなる現象がみら
れたが、トリプシン作用時間終了後に80℃5分の加熱処理を加える[トリプシン+80℃5分]の処理とするこ
とで回避できた。(図1)
5)ラクトフェリンを30mg/ml添加した脱脂乳の阻止円は、100℃10分および「トリプシン+80℃5分」処理で消失
した。牛由来リゾチームを125U/ml添加した脱脂乳の阻止円は、いずれの加熱処理でも消失せず「トリプシン
+80℃5分」処理で消失した。
7)抗生物質汚染のない生乳の80℃5分処理後の阻止円の直径と乳中の体細胞数の対数値、リゾチーム濃度
の対数値およびラクトフェリン濃度との単相関係数は、それぞれ0.69、0.56、および0.34であり、阻止円の
大きさと乳中の体細胞数との間に強い関連がみられた。(図2および図3)
8)乳固有の抗菌因子による阻止円は「トリプシン+80℃5分」の処理によりほぼ完全に消失させることがで
きた。また、この処理はペニシリンによる汚染乳の阻止円形成には大きな影響を与えなかった。(図4)
11.成果の活用面と留意点
1)抗生物質のすべてについてその影響を検討したわけではないので、「トリプシン+805分」
の処理で阻止円が消失しても抗生物質による汚染の可能性は残る。
2)ぺ一パーディスク法による抗生物質の残留検査で乳固有の抗菌因子による偽陽性を避けるためには、
乳房炎による高体細胞乳の混入を防止することが重要である。
12.残された問題点
1)種々の抗生物質に対する「トリプシン+80℃5分」処理の影響を明らかにする必要がある。
2)乳固有の抗菌因子のほか抗生物質も含めた乳中の阻止円を形成する抗菌因子の迅速な同定・定量法
の開発が必要である。