【指導参考事項】
成績概要書 (作成 平成9年1月)
課題の分類 研究課題名:テンサイそう根病の系統識別と抵抗性品種の有効利用 テンサイそう根病の系統識別と抵抗性品種の有効利用に関する試験・ てんさい品種のテンサイそう根病ウイルス抵抗性機構の解明試験) 予算区分:受託 研究期間:平成3〜8年 担当科 中央農試生工部遺伝子工学科 北見農試研究部作物科 協力・分担関係: |
1.目的
てんさいの品種にウイルスを接種して病徴、被害、ウイルスの移行・増殖について解析し、品種のウイルス抵抗性の機作を明らかにする。また、N型系統とF型系統の病原性の違いを解析し、系統の分布を詳細に調べる。さらに、抵抗性品種を連作して抵抗性品種栽培による発病抑制効果があるかどうかを調べ、精度の高い抵抗性品種検定の方法を検討する。
2.試験方法
①ウイルス抵抗性機作の解析:ウイルス接種、エライザ検定(日甜清川農場)
②F型系統の病原性:ウイルス接種、発病調査、収量調査(日甜清川農場)
③ウイルス系統の発生分布:道内32市町村の発病圃場から土壌を集め、ウイルスを分離
④抵抗性品種栽培跡地での菌密度の変化:連作、発病調査、収量調査、エライザ検定、跡地土壌の検定(北見農試圃場)
⑤抵抗性品種検定法の確立:遊走子接種し、エライザ検定、収量調査(日甜清川農場)。発病圃場への移植栽培(北見農試圃場)と比較
3.結果の概要
①内部欠失変異株を用いたウイルス接種検定の結果、品種のウイルス抵抗性の発現または誘導には、ウイルスRNA−3のコードする25kの蛋白質が関与していると考えられた。
②ウイルスを接種して主根のウイルス濃度を調べた結果、抵抗性品種「リゾール」では、罹病性品種に比べてウイルス検出率・濃度が低く、ウイルスの移行が遅かった。
③接種試験では、F型系統はN型系統に比べて病原性が強く、枯死する個体が多かった。抵抗性品種「リゾール」は、F型系統に対してもある程度の抵抗性を示した。また、RNA−5はRNA−3とは異なる病原性をもち、「リゾール」はこれらのRNAに対して異なる反応を示した。
④道内各地のそう根病発病圃場から合計264点の土壌を採取し、149点の土壌からウイルスを分離した。RT−PCR法により検定した結果、73分離株がN型系統、76分離株がF型系統であった。F型系統の分布に顕著な地域差は認められなかった。
⑤発病圃場に抵抗性品種と罹病性品種を6年間連作した結果、抵抗性品種栽培による発病の抑制効果は認められなかった。
⑥紙筒育苗期のてんさい苗にウイルスを遊走子接種して健全圃場に移植し、収穫期にウイルス濃度を調べた結果、ウイルス検出率・濃度からみたウイルス抵抗性の程度が、発病圃場における移植栽培での各品種のウイルス抵抗性の程度と一致したので、遊走子接種が抵抗性検定あるいは系統の選抜に利用できると考えられた。
図2 リゾールおよびモノホマレの栽培跡地土壌の菌密度の推移
4.成果の活用面と留意点
①テンサイそう根病ウイルスのF型系統(RNA−1+2+3+4+5)は、N型系統(RNA−1+2+3+4)より病原性が強く、道内の主要なてんさい栽培地帯に広く分布していることが明らかになった。
②抵抗性品種栽培による土壌の発病抑制効果は認められないので、そう根病対策として、より長期な対策と発病圃の拡大防止に留意する。
③接種によりウイルスを確実に感染させ、抵抗性検定の精度を上げることができるので、遊走子接種法を育成系統のテンサイそう根病抵抗性の選抜に利用することができる。
5.残された間題点
①RNA−5の病原性とその発病機作
②主根内のウイルス濃度の変化
③てんさいの側のそう根病抵抗性遺伝子の解析
④RNA−3が関与するものとは異なるウイルス抵抗性機構の解析
⑤F型系統の同一圃場内での分布や年次変化の解析