【普及奨励事項】
課題の分類
場所名 北海道農業試験場
系統名 タマネギ「月交18号」

1.育成経過
 秋播き品種に近い球品質を備え、かつ従来の春播き品種と同等の高い貯蔵性を有するF1、品種の育成を目標にした。米国USDAより導入した細胞質雄性不稔系統「2935A」を種子親とし、新潟県園芸試験場育成の「長生」から選抜育成した「CS−12」を花粉親とした交配組み合わせで、球のりん葉が厚く、軟らかく、辛味が少ないなど秋播き品種に近い球品質を有し、雑種強勢により生産力も高く、貯蔵性も従来の春播き品種なみに高いF1系統が得られたので、平成5年から8年まで生産力検定試験および系統適応性検定試験を行った。

2.特性の概要
 1)形態的特性:草姿は「ツキヒカリ」に近似するが、草丈は「ツキヒカリ」より優る。葉折れは「ツキヒカリ」と同程度であるが、葉先枯れは「ツキヒカリ」よりやや少ない。葉色は「ツキヒカリ」よりやや薄い。
 2)生態的特性:苗床内並びに定植後の生育は旺盛で、「ツキヒカリ」および「北もみじ86」よりも優る。肥大期は、「ツキヒカリ」とほぼ同時期かやや早いが、参考品種のサラダ用赤タマネギ「くれない」よりも1週間程度遅い。倒伏期は「ツキヒカリ」とほぼ同時期であるが、枯葉期はやや早い。抽台率は「ツキヒカリ」および「北もみじ86」よりもやや高い。
 3)収量性:球肥大が良好で総収量は「ツキヒカリ」を6〜19%上回る。規格内収量は「ツキヒカリ」と同等以上である。
 4)球特性:変形・裂皮球がやや多い。球形は「ツキヒカリ」よりも扁平であるが、「くれない」よりも甲高である。球形の揃いは「ツキヒカリ」および「北もみ86」よりもやや劣る。球の硬さは「くれない」よりもやや硬いが、「ツキヒカリ」および「北もみじ86」よりも15%程度軟らかい。皮色は「ツキヒカリ」および「北もみじ86」よりも厚い。りん葉は「ツキヒカリ」および「北もみ
じ86」よりも15〜25%厚い。辛味の強さの指標となるピルビン酸生成量(EFPA)は「ツキヒカリ」よりも15%程度低い。
 5)食味:サラダについては「ツキヒカリ」より辛味が少なく、甘味が強く、肉質も優れる。短時間(15分間)加熱したオニオンスープについては、甘味が強く、食味も優れる。
 6)貯蔵性:貯蔵中の腐敗は「ツキヒカリ」と同等に少ない。貯蔵中の萌芽が遅く、茎盤突出が少ないので、貯蔵末期(4月)における健全率は「ツキヒカリ」と同等以上に高い。
 7)その他:乾腐病に対する抵抗性は、抵抗性強の「ツキヒカリ」よりもやや低いと推察される。収穫期前後の腐敗(軟腐病、軟腐病、ボトリチス、虫害)の発生率も「ツキヒカリ」とほぼ同等である。採取性は花粉親系統「CS3−12」については良好である。種子親系統「2395AおよびB」は、B系統の花粉量が少なく、Aライン増殖のための採種には注意を要する。「月交18号」の採種性は良好である。

3.試験成績概要書
表 系統適応性検定場所および育成場所における主要試験成績(平成5〜8年平均)
系統・品種 総収量
(kg/a)
同左標
準対比
(%)
規格内a
収量
(kg/a)
同左標
準対比
(%)
規格a
内率
(%)
肥大

(月日)
倒伏

(月日)
枯葉

(月日)
貯蔵前
腐敗率
(%)
平均
球重
(g)
球形
指数
球のb
硬さ
貯蔵後
健全率
(%)
道立花・野菜技術センター
月交18号 522 106 365 87 68 7.26 8.16 9.1 5.3 176 85 4.0 36
ツキヒカリ 495 100 418 100 84 7.27 8.16 9.3 1.9 161 95 7.0 39
北もみじ86 547 110 472 113 85 7.27 8.16 9.1 2.8 177 93 7.0 63
道立北見農試
月交18号 677 118 428 89 62 7.28 8.17 9.10 8.1 242 85 4.6 21
ツキヒカリ 574 100 486 100 85 7.29 8.17 9.11 9.5 211 97 6.0 22
北もみじ86 668 117 574 122 87 7.28 8.16 9.9 9.4 240 94 6.0 27
北海道農試
月交18号 776 119 717 129 92 7.28 8.9 8.28 1.9 243 78 7.9 80
ツキヒカリ 657 100 555 100 85 7.29 8.8 8.29 1.7 203 93 9.7 68
北もみじ86 811 125 700 128 87 7.27 8.9 8.31 1.7 250 90 9.3 82
北海道農試(富良野)
月交18号 892 116 779 107 88 - - - 2.1 283 76 - 77
ツキヒカリ 768 100 739 100 97 - - - 1.6 244 90 - 68
北もみじ86 906 119 865 119 99 - - - 1.9 285 83 - 83
a規格基準が系統適応性検定試験場所と育成場所とで異なる(扁平の基準が、道立花・野菜技術センターおよび道立北見農試では球形指数80以下、北海道農試では70以下)。 b道立花・野菜技術センターおよび道立北見農試では、触感による9段階評価、北海道農試では硬度計による測定値。


第1図 球硬度と貯蔵性の比較
   (平成6年、北海道農試)


第2図 食味比較試験
41名のパネラーにより、「月交18号」と「ツキヒカリ」の食味(サラダ)を比較した。A(月交18号)とB(ツキヒカリ)を比べてどちらが1)辛いか、2)甘いか3)肉質が良いか、4)食味が良いかの4点について評価した。試験は平成6年に石狩中部地区農業改良普及センターおよび北海道農試で行った。

4.用途、普及対象地域及び普及見込み面積
 秋期から春期にわたる長期間出荷のサラダ用及び半調理(加熱時間の短い調理)用に適する。北海道のタマネギ栽培地帯における春播き露地移植栽培に適する。普及見込み面積は500ha.

5.保有種子量及び母球数
 「月交18号」については種子400gを保有している。親系統「2935A・B」及ぴ「CS3−12」については、それぞれ種子1㎏、母球1,OOO球を保有している。

6.栽培上の留意点
 変形球及び裂皮球が発生しやすいので、根切り処理による枯葉の促進が必要である。