【指導参考事項】
成績概要書                    (作成 平成9年 1月)
課題の分野    −
研究課題名:イチゴ「きたえくぼ」の定植時期と苗質
      (イチゴ「きたえくぼ」の道外移出向け栽培法確立試験)
予算区分:道単
担当科:道南農試研究部園芸科
試験期間:平成6年〜8年
協力・分担関係:

1.目的  イチゴ「きたえくぼ」に適した定植時期と定植時の苗の大きさについて検討する。

2.方法
 1)処理区分
平成6〜7年定植時期(8月中旬、8月下旬、9月上旬)×苗の大きさ
(小;3葉前後、中;4〜5葉、大6葉以上)
実施場所:道南農試、小樽市、仁木町、遠別町(露地トンネル)
10.5㎝ポット使用
平成7〜8年①定植時期(8月中旬、8月下旬、9月上旬)×苗の大きさ(小、中、大)
実施場所:道南農試、遠別町(露地トンネル)
②定植時期(8月中旬、8月下旬、9月上旬)×苗の大きさ(小、中、大)
実施場所:小樽市
③品種(「きたえくぼ」、「宝交早生」」×苗の大きさ(小、中、大)
実施場所:道南農試、比布町、女満別町
いずれも小苗:9㎝ポット、中苗:10.5㎝ポット、大苗:12㎝ポット使用

2)耕種概要
年次
(平成)
実施場所 1区
株数
反復 株間
(cm)
a当たり
株数
供試土壌 a当たり施肥量(kg) マルチ
N P2O5 K2O その他
7年 道南農試 20 2 30 580 褐色低地土 1.5 1.5 1.5 400(堆肥)
小樽市 20 1 35 381 褐色低地土 2.5 2.0 2.0 20(鶏糞) 透明
仁木町 10 1 35 381 褐色低地土 3.1 3.0 2.6 25(鶏糞) 透明
遠別町 10 2 25 357 褐色低地土 1.3 1.7 1.2 600(堆肥)
8年 道南農試 20 2 30 580 褐色低地土 1.5 1.5 1.5 400(堆肥)
小樽市 20 1 35 381 褐色低地土 2.5 1.7 1.4 200(堆肥)、18(鶏糞) 透明
遠別町 10 2 35 219 褐色低地土 1.1 1.4 1.0 300(バーク堆肥)
比布町 10 2 25 530 褐色低地土 1.5 1.5 1.5 700(バーク堆肥) 透明
女満別町 10 2 30 555 褐色森林土 2.8 4.0 3.2 - 白黒

3.結果の概要
 ここでの収量は上物収量について示した。なお、平成7年の道南農試はうどんこ病の多発、平成8年の遠別町はシクラメンホコリダニの多発のため、収量の値を除外し、8月中旬〜9月上旬について考察した。
1)道南農試では9月上旬定植でやや減収したが、花房数の減少はみられなかった。一方、小樽市や仁木町では9月上旬定植で収量、花房数とも減少した。定植時期は8月下旬が最も安定していた。
2)花房数は大苗ほど増加したが、その数は地域により大きく異なった。収量的には中苗か大苗で最も多収となった。しかし、9月上旬定植では中苗でも収量の低下が認められる場合が多かった。
3)花房数と収量は正の相関が認められるが、花房数が増加すると1果重が減少する傾向がみられた。「きたえくぼ」の特性を生かすためには、最適な花房数は5〜6本と考えられる。
4)「きたえくぼ」は「宝交早生」より1花房当たりの果数は多かったが、花房数は少なかった。
このことから、「宝交早生」より「きたえくぼ」の方が収量に及ぼす花房の数の影響が大きいと思われた。
5)「きたえくぼ」は従来、早期、大苗定植に努めるとされてきたが、この場合花房数が増えすぎ、小果となることが考えられる。
1果重を落とさずに多収を得るためには、道南やそれに準ずる地方では、8月中〜下旬に中苗を定植する必要がある。一方、道央やそれに準ずる地方では、8月中旬に中苗を定植するか、8月下旬に中〜大苗を定植するのが良いと考えられる。また、道北とそれに準ずる地方では8月中〜下旬に遅れることなく中〜大苗を定植、活着させる必要がある。

第1表 定植時期による収量と花房数
実施
場所
定植時期 収量
(kg/a)
花房数
(本/株)
道南
農試
8月中旬 206 5.4
8月下旬 197 6.1
9月上旬 176 6.1
小樽
8月中旬 241 5.9
8月下旬 267 5.3
9月上旬 218 4.1
仁木
8月中旬 300 5.8
8月下旬 298 6.1
9月上旬 223 4.6
遠別
8月中旬 107 4.6
8月下旬 134 5.2
9月上旬 130 3.5
注)道南農試の収量は平成8年のみの値
  小樽市、仁木町は平成7年のみの値
  遠別町の収量は平成7年のみの値

苗質による収量と花房数
実施
場所
苗の
大きさ
収量
(kg/a)
花房数
(本/株)
道南
農試
180 4.9
195 5.8
205 6.9
小樽
200 5.1
212 5.3
236 5.4
仁木
268 5.5
290 5.7
263 5.3
遠別
120 4.2
114 4.4
137 4.8
注)道南農試の収量は平成8年のみの値
  仁木町は平成7年のみの値
  遠別町の収量は平成7年のみの値
  小樽市の花房数は9月中旬を除いた値


第1図 「きたえくぼ」における花房数と収量の関係


第2図 「きたえくぼ」における花房数と上物平均1果重の関係

第3表 「宝交早生」と「きたえくぼ」の1株当たりの花房数と果数
品種 苗の
大きさ
道南農試 比布町 女満別町
花房数 果数 果数/花房 花房数 果数 果数/花房 花房数 果数 果数/花房
きた
えくぼ
4.2 62 15 5.6 50 9 4.9 48 10
5.5 83 15 7.2 63 9 5.4 59 11
7.2 97 13 8.7 57 7 5.6 60 11
宝交
早生
7.9 72 9 7.2 58 8 4.8 31 6
7.2 63 9 9.7 58 6 5.2 57 11
7.7 67 9 6.6 50 8 4.8 57 12

第4表 多収をねらう「きたえくぼ」の定植時期と苗質に関する指標
対応する地方 定植時期 苗質 備考
道南およびこれに
準ずる地方
8月中〜下旬 中苗 9月上旬定植になった場合は
中〜大苗を遅滞なく活着させる
道央およびこれに
準ずる地方
8月中旬 中苗 9月上旬定植となった場合は
大苗を遅滞なく活着させる
8月下旬大苗による花房増に注意
8月下旬 中〜大苗
道北およびこれに
準ずる地方
8月中〜下旬 中〜大苗 定植が9月にならないようにする

4.成果の活用面と留意点
 1)「きたえくぼ」を定植する場合の資料とする。
 2)本成績の育苗方法はポット育苗である。

5.残された問題点とその対応
 1)収穫後半の果実の小果化対策について、花房制限や遮光処理による効果を検討する。
 2)適期定植のための育苗法の検討。