【指導参考事項】
成績概要書 (作成 平成9年 1月)
課題の分野 研究課題名:有機栽培等農産物の品質事例と問題点−バレイショ(追補)− (クリーン農産物の品質基準 策定と評価法の確立) 予算区分:道単 担当科:中央農試農産化学部 品質評価科 担当者: 研究期間:平成3年〜7年 協力・分担関係:道南農試研究部土壌肥料科 |
1.目的
クリーン農業では、「地球にやさしい、人にやさしい、作物と家畜にやさしい」農業技術の確立を目指すとともに、農産物の品質向上も目標としている。農産物品質の実態については、多種・多様な対象があることと、研究の歴史が比較的新しいため、成果や情報の蓄積が少ない。しかし一方では、十分な比較検討が行われないままで、各種農産物の品質の良否について宣伝されている場面もみられる。
このため、農産物品質について、消費者への情報の提供の必要性が高まっており、また生産者ではそれに係わる栽培方法の検討などが要望されている。バレイショを対象に、慣行栽培農産物および有機農産物の品質の実態を明らかにし、栽培法の違いによる品質の変化について検討する。
2.方法
1)慣行栽培農産物(一般農産物)と有機農産物等の品質概況市販および農家栽培バレイショを供試(表1)
2)同一農家栽培おける有機栽培と慣行栽培バレイショの品質比較
3)疫病防除、窒素施肥量と品質変動根釧農試馬鈴しょ科試験栽培バレイショおよび中央農試圃場で栽培したバレイショを供試
3.結果の概要
1)市販並びに農家栽培のバレイショの品質(てん粉価、乾物率、ビタミンC含量、タンパク質含量および遊離アミノ酸含量)について、栽培決別、品種別に検討した。その結果、各調査項目とも品種間に明らかな差異は見られたが、栽培法(有機栽培、慣行栽培など)間には有意な差は認められなかった、(タンパク質含量:図1)
2)品種(男爵いも)を同一にして栽培決別に比較すると、その平均値はでん粉価(慣行栽培:14.8%、有機栽培:14.5)、乾物率(慣行、有機とも:22.0%)、ビタミンC含量(慣行:15.7mg/100g、有機:18.2)、タンパク質含量(慣行:1.91mg/100g、有機:1.88)、遊離アミノ酸含量(慣行:748㎎/100g、有機:705)であった。なお、両者の平均値間には、いずれの項目とも有意差は認められなかった。
3)有機栽培と慣行栽培の両方を実施している農家において、2か年7対のバレイショを試料として、調査・分析した。その結果、収量以外の項目(てん粉価、乾物率、ビタミンC含量、タンパク質含量、遊離アミノ酸含量)の平均値には、栽培法間の有意な違いは認められなかった(表2)。
4)上記農家のバレイショを試料として、5回の官能検査を実施した結果、すべての調査で栽培法の異なるバレイショが識別された。嗜好調査では、2回は有機栽培が好まれる結果であったが、過半を占める3回は有意の違いがみられなかった。
5)品種の疫病抵抗性と品質の関係により、ビタミンC含量は抵抗性のない農林1号では低下したが、抵抗性のある系統である根育29号では、防除の有無による有意差は見られなかった(図2)。
6)窒素施肥処理では、収量並びにタンパク質含量の一部に影響がみられたが、てん粉価、乾物率には、処理間差が認められなかった。また、ビタミンC含量への影響は明確にはできなかった。
表1 供試試料点数一覧
品種 | 慣行栽培試料(41) | 有機栽培試料(40) | 減農薬栽培等試料(16) | 計 | ||||||
1995年 | 1994年 | 1993年 | 1995年 | 1994年 | 1993年 | 1995年 | 1994年 | 1993年 | ||
男爵いも | 10 | 6 | 7 | 8 | 5 | 7 | 6 | 5 | 3 | 57 |
メークイン | 4 | 5 | 4 | 1 | 1 | 1 | 1 | 17 | ||
農林1号 | 2 | 9 | 11 | |||||||
キタアカリ | 1 | 1 | 4 | 1 | 1 | 1 | 9 | |||
ワセシロ | 1 | 1 | 2 | |||||||
トヨシロ | 1 | 1 | ||||||||
計 | 18 | 12 | 11 | 24 | 7 | 9 | 7 | 6 | 3 | 97 |
図1 タンパク質含量の栽培法、品種別平均値の信頼区間(95%)
表2 同一栽培農家比較における調査項目の平均値と差の検定結果
栽培 農家 |
試料略称 | でん粉価 (%) |
乾物率 (%) |
ビタミンC含量 (mg/100g) |
タンパク質含量 (%) |
遊離アミノ酸含量 (mg/100g) |
収量 (t/10a) |
||||||
慣行 | 有機 | 慣行 | 有機 | 慣行 | 有機 | 慣行 | 有機 | 慣行 | 有機 | 慣行 | 有機 | ||
A | 男爵95T | 15.6 | 13.5 | 23.4 | 21.1 | 17.5 | 15.5 | 1.73 | 2.37 | 597 | 689 | 3.6 | 0.8 |
A | 農196T | 16.3 | 16.1 | 23.7 | 23.0 | 18.3 | 16.5 | 1.44 | 1.46 | 3.0 | 1.2 | ||
B | ワセシロ95K | 13.2 | 15.8 | 20.0 | 22.9 | 18.9 | 21.4 | 1.97 | 1.82 | 666 | 625 | 4.4 | 2.0 |
B | 農196K | 15.8 | 14.3 | 21.8 | 22.4 | 16.6 | 16.1 | 1.19 | 1.46 | 4.2 | 2.3 | ||
C | 農195B | 14.0 | 14.9 | 20.4 | 23.3 | 12.3 | 13.5 | 1.58 | 1.71 | 519 | 630 | 3.0 | 2.5 |
C | 農196B | 15.2 | 13.4 | 23.1 | 21.4 | 16.1 | 14.9 | 1.65 | 1.90 | 3.6 | 2.6 | ||
D | 農195K | 16.0 | 17.2 | 22.6 | 24.8 | 16.1 | 18.9 | 1.34 | 1.20 | 433 | 357 | 4.8 | 3.0 |
平均値 | 15.2 | 15.0 | 22.1 | 22.7 | 16.5 | 16.7 | 1.56 | 1.70 | 554 | 575 | 3.8 | 2.1 | |
検定結果* | ns | ns | ns | ns | ns | ** |
4.成果の活用面と留意点
無農薬栽培バレイショの栄養品質(ビタミンC含量)は、品種の選択により影響が異なるので、疫病抵抗性品種を選択することが望ましい。
5.残された問題とその対応
安全性を主体とした品質評価
より広範な官能検査の実施とその要因の解析