【指導参考事項】
成績概要書 (作成 平成9年 1月)
課題の分類 研究課題名:環境保全に必要な水田からの粘土流出軽減対策 予算区分:補助(土壌保全) 担当科:上川農試研究部土壌肥料科 試験期間:平成6〜8年 協力・分担関係: |
1.目的
現境保全的、持続型農業の一面を持つ水田作の欠点は代かきから移植時にかけて、粘土成分を多量に含む懸濁水が河川に流出することである。本試験では、水田より流出する懸濁物質の主成分である粘土の流出地帯分類図を作成し、流出し易い水田における流出軽減対策について検討した。
2.試験方法
1)懸濁物質の簡易測定法、流出実態及ぴ変動要因と理化学性
(1)流出実態調査:上川管内鷹栖町の小河川水、上川農試水田の表面排水中の懸濁物質
(2)簡易測定法:試験管内で土壌懸濁液の吸光度を測定する装置を作成し、測定条件の検討を行った。
(3)変動要因:吸光度と原土の理化学性の関係より、簡易測定装置による土壌の沈降性評価の可能性並びに粘土沈降性の変動要因を検討した。
(4)懸濁物質の理化学性:粘土台量、粘土に吸着された成分、可溶性成分を分析した。
2)粘土流出地帯分類図の作成と適合性
(1)粘土流出地帯分類図の作成:簡易測定装置で測定した吸光度(懸濁度)を粘土沈降性の指標として3区分し、国土数値情報の土地利用区分より抽出した水田を含む3次メッシュに懸濁度値を対応させ粘土流出地帯分類図を作成した。
(2)適合性の検討:現地水田25地点の懸濁水の吸光度と土壌の懸濁度の相関係数より分類図の現場との適合性を判定した。
(3)粘土流出の多い地帯における軽減対策代かき後の沈降日数、代かき程度、代かき用水量と懸濁物質の関係より、流出軽減対策を検討した。
3.結果の概要
1)水田地帯では、代かき後の排水時に粘土を主体とした懸濁物質が多量に流出していることを認めた(図1)。
2)粘土流出の多い地帯を明らかにするために、土壌沈降性評価装置を考案し、土壌の水懸濁液の吸光度を粘土沈降性の指標とした。また、この分析値を懸濁度と呼ぶことにした。
3)簡易測定装置による懸濁度と懸濁物質量に有意な正の相関(r=0.764**)が認められることから、懸濁度により土壌の沈降性の評価が可能と判断された。
4)懸濁物質は主体が粘土であり、さらに粘土に吸着されている塩基成分、有機物も含まれていることを認めた(表1)。代かき水中にも可溶性の塩基等が含まれていた。
5)道内の水田土壌1508点の懸濁度に基づき、水田を粘土流出の多い区分(C)、
少ない区分(A)、中間の区分(B)の3区分に分けて粘土流出地帯分類図を作成した(表2、図2)。
6)粘度流出地帯分類図の適合性を現地代かき水により検討した結果、原土の簡易測定装置による懸濁度と現地代かき水の懸濁度に有意な正の相関(r=0.662**)が認められたことから、分類図は利用可能と判断された。
7)粘土流出の多い地帯での流出防止対策として、
(1)代かき後落水までの日数を長くする、
(2)過剰な代かきを行わない、
(3)代かき用水を節約することが有効と判断された。代かき後落水までの日数の目安は、流出の多い地帯で は3〜5日、中間地帯では2〜3日、流出の少ない地帯では1日以上と判断された(図3、4)。
図1 小河川及びかんがい水中の懸濁物質の推移
表1 浮遊粘土流出量及び浮遊粘土に伴い流出する養分量の試算例
試料No. | 浮遊粘土 | 炭素 | アンモニア態N | ブレイP2O5 | 交換性塩基(㎏/10a) | |||
(kg/10a) | CaO | MgO | K2O | Na2O | ||||
9 | 161 | 3.0 | 0.01 | 0.04 | 1.05 | 0.76 | 0.26 | 0.71 |
13 | 293 | 9.5 | 0.04 | 0.06 | 1.12 | 0.59 | 0.48 | 0.61 |
23 | 211 | 6.8 | 0.01 | 0.09 | 1.55 | 0.79 | 0.36 | 0.61 |
26 | 208 | 8.4 | 0.04 | 0.03 | 0.99 | 0.81 | 0.32 | 0.55 |
表2 懸濁度(吸光度)による粘土流出区分
区分 | 懸濁度 (吸光度) |
懸濁物質* (mg/L) |
区分の特徴 | |
A | 〜0.325 | 〜600 | 粘土流出の少ない地帯 | |
B | 0.326〜0.450 | 601〜850 | 中間地帯 | |
C | 0.451〜 | 851〜 | 粘土流出量の多い地帯 |
図2 粘土流出地帯分類
図3 代かき後の懸濁物質の推移
図4 代かき程度と懸濁物質の関係(室内試験)
4.成果の活用面と留意点
1)細粒、多腐食質な水田では、懸濁物質を高く評価する可能性があるので適用にあたっては懸濁物質についての土壌診断を実施する。
2)代かき後土壌が硬化し田植作業に影響を与える水田は本成績を適応しない。
3)分類図は代かさ24時間後の流出程度を示した。
5.残された問題点とその対応
1)粘土の積極的な流出軽減対策として、土壌改良資材等の沈降促進剤と稲の生育促進効果について検討する。
2)主要河川に達するまでに沈降する粘土量の把握
3)現場に適用できるより簡易な懸濁程度測定手法の確立
4)現地における代かき実態の把握