【指導参考事項】
成績概要書                     (作成 平成9年 1月)
課題の分類
研究課題名:交雑種(BD種)子牛および黒毛和種子牛の人工哺育技術
       (黒毛和種交雑牛の利用法に関する試験)
予算区分:道費 担当科:新得畜試肉牛飼養科・肉牛育種科・生物工学科
試験期間:平5年−平8年
協力・分担関係:なし

1.目的
 交雑種(BD種:黒毛和種雄牛×ホルスタイン雌牛)子牛および黒毛和種子牛の代用乳による効率的でかつ省力的な人工哺育技術について検討する。

2.方法
 試験1.代用乳給与量の検討
 試験2.哺育後期の代用乳増給効果の検討
 試験3.生時体重の小さな子牛の哺育例

3.結果の要約
試験1.代用乳給与量の検討
 BD種子牛および黒毛和種子牛の人工哺育の代用乳給与量について、生後8日目から離乳時まで、代用乳を1日500g(液状量3L)を2回に分けて給与する方法、1日660g(液状量で4L)給与する方法および820g(液状量で5L)給与する方法について検討し、次の結果を得た(表1、表2)。
1)人工乳の平均摂取開始日齢はBD種子牛および黒毛和種子牛とも3L給与が最も早く、それぞれ11.6日および14.8日であった。また、3L給与が21日齢までに全頭摂取を開始したのに対し、4Lおよび5L給与は摂取開始時期が遅れる個体が増加した。
2)平均離乳日齢は、3L給与がBD種子牛で45.4日および黒毛和種子牛で43.3日となり、4Lおよび5L給与に比べ早まった。また、32給与は49日齢までに全頭が離乳できたのに対し、4Lおよび5L給与では離乳時期が遅れる個体が増加した。
3)哺育期間の平均日増体量はBD種子牛では哺乳量の多いものほど高かったが、黒毛和種子牛では差がなかった。3L給与の離乳体重はBD種子牛で55.1㎏、黒毛和種子牛で58.4㎏であり60㎏を越えなかった。
4)下痢は哺乳量が多くなると増加する傾向があった。
5)これらを総合的に判断して、代用乳は1日当たり500g(液状量で3L)を2回に分けて給与する人工哺育法が適当と考えられた。

試験2.哺育後期の代用乳増給効果の検討
 試験1の3L給与では離乳後の発育に若干問題が残されたことから、離乳時体重を60㎏以上にする方がより安全であると考えた。そこで、代用乳1日500g(液状量で3L)を定量給与する方法と28日齢まで定量給与と同様に給与し、その後1日660g(液状量で4L)に増量給与する方法とを比較検討した。また、哺乳期間を試験1の3L給与の場合より10日程度延長した。結果は次のとおりであった(表3)。
1)定量給与と増量給与を比較すると、人工乳の摂取開始日齢および離乳日齢では差がなかった。平均離乳日齢はともに54.6日であった。
2)平均離乳時体重は定量給与で64.3㎏と目標体重に達した。哺育期間の平均日増体量は定量給与が0.67㎏で増量給与よりやや低かったが、試験の1の3L給与に比べて大幅に改善された。
3)離乳時以降両区とも発育は順調に推移し、去勢牛では9か月齢で270kg以上となった。
4)以上の結果から、1頭ごとに給与量を変更する手間や代用乳の節約などを考慮すると、離乳時まで代用乳を1日500g(液状量で3L)の定量給与とし、56日齢を目途に離乳する方法が優れていると考えられた。

試験3.生育体重の小さな子牛の哺育例
 生時体重の小さな子牛に対し、生後8日目から42日齢まで代用乳を1日320g(液状量で2L)給与し、43日齢から離乳時まで1日500g(液状量で3L)給与する人工哺育方法について検討し、以下の結果を得た(表4)。
1)人工乳の摂取開始時期が29日齢からと遅いため、摂取量700g時点で離乳する場合、離乳時期は70日前後となる。このときの体重は57㎏であった。
2)哺育期間の日増体量は、液状量で3L給与した標準的な生時体重の子牛と変わらなかった。
3)生時体重が小さな子牛は、標準的な子牛に比べ消化機能の発達が遅れていることが推察されるため、代用乳の増給は下痢を発生させないように馴致期間を設ける必要がある。

4.成果の具体的数字
(試験1)
表1.BD種子牛の人工乳摂取状況および発育成績
処理 n 人工乳摂取
開始日齢
離乳
日齢
人工乳摂取
期間
開始時
体重
離乳時
体重
哺乳期間の
日増体量
  kg kg kg
3L区平均 7 11.6 45.4b 34.9 36.6 55.1b 0.50b
4L区平均 9 17.0 53.2ab 37.2 36.5 59.0b 0.52ab
5L区平均 7 21.4 59.0b 38.6 37.6 67.7a 0.59a
a、b、c:各項目ごとの異文字間に有意差有(P<0.05)

表2.黒毛和種子牛の人工乳摂取状況および発育成績
処理 n 人工乳摂取
開始日齢
離乳
日齢
人工乳摂取
期間
生時
体重
開始時
体重
離乳時
体重
日増体量
  kg kg kg kg kg
3L区平均 4 14.8 43.3 29.5 39.9 41.0 58.4 0.43 0.50
4L区平均 2 20.5 44.0 24.5 36.7 39.2 56.1 0.44 0.47
5L区平均 2 36.0 54.5 19.5 39.3 40.3 62.8 0.44 0.49
①生時〜離乳時、②開始時〜離乳時

(試験2)
表3.人工乳摂取状況および発育成績
処理 n 人工乳摂取
開始日齢
離乳
日齢
開始時
体重
離乳時
体重
9か月齢
体重
日増体量
  kg kg kg kg kg
定量区 6 13.2 52.3b 39.3ab 64.9ab 277.3a 0.69 0.91a
4 15.5 58.0a 35.1b 63.4b 232.1b 0.63 0.75b
増量区 5 15.8 54.2ab 43.4a 70.0a 274.0a 0.70 0.88a
4 11.0 55.0ab 38.0ab 68.2ab 249.2ab 0.72 0.81ab
①開始時〜離乳時、②開始時〜9か月齢
a、b、c:各項目ごとに異文字間に有意差有り(p<0.05)

(試験3)
表4.人工乳摂取状況および発育成績
  n 人工乳摂取
開始日齢
離乳
日齢
生時
体重
開始時
体重
離乳時
体重
日増体量
  kg kg kg kg kg
平均 2 29.0 81.0 22.2 24.6 57.0 0.43 0.44
①生時〜離乳時、②開始時〜離乳時

5.成果の活面用と留意点
 1)黒毛和種子牛では、自分で乳を吸引できない虚弱な子牛が生まれることがある。その場合は生後3〜7日間程度の哺乳介助が必要である。
 2)下痢は人工乳の摂取開始時期から1日当たり300g摂取する時期に発症することが多いので、この時期には人工乳を少量づつ増量給与することが必要である。
 3)生時体重の小さな子牛では消化吸収能力が標準的な子牛に比べ劣るため、飼料給与の変更は慎重に行う必要がある。

6.残された問題とその対応
 1)人工哺育を行った黒毛和種子牛の育成技術の検討。