【指導参考事項】
成績概要書                     (作成 平成9年 1月)
課題の分類
研究課題名:交雑牛(BA種)の肥育技術および牛肉の鮮度保持技術
       (黒毛和種交雑牛の利用法に関する試験)
予算区分:道費
担当科:十勝農試研究部農業機械科
試験期間:平5〜8年
協力・分担関係:新得畜試肉牛飼養科・肉牛育種科・衛生科

1.目的
 黒毛和種(B)雄牛を肉専用種(アンガス:A)に交配して生産した交雑牛(BA種)を利用した、良質で低コストな牛肉生産技術を確立するとともに、牛肉の鮮度保持技術についても検討する。

2.方法
(1)育成方法の違いがBA種肥育牛の肉質に及ぼす影響
(2)牛肉の鮮度保持技術の検討
  試験1.1日1頭当たり3gのビタミンE給与が牛肉の品質に及ぼす影響
  試験1.1日1頭当たり4gのビタミンE給与が牛肉の品質に及ぼす影響

3.結果の概要
(1)育成方法の違いがBA種肥育牛の肉質に及ぼす影響生後6か月齢まで母子放牧で自然哺乳し、離乳後終牧まで放牧育成する育成方法と生後3か月齢で早期離乳し舎飼育成する育成方法との違い、さらに24か月齢出荷と26か月齢出荷との違いが、BA種の育成期の発育成績と肥育成績に及ぼす影響について検討し、以下の結果を得た。
 1)BA種は放牧育成において十分良好な発育が期待できることが示された。したがって、育成施設や管理の省力化を考慮すると、自然哺乳による放牧育成が適していると考えられた。(表1)
 2)BA種去勢牛では24か月齢出荷に比べて26か月齢出荷は、増体、飼料効率では若干劣るものの、肉質等級、脂肪交雑が改善されることから、26か月齢出荷が適していると考えられた、(表2)
 3)BA種雌牛では24か月齢出荷に比べて26か月齢出荷は、増体、飼料効率は去勢牛ほどではないが若干低下し、余剰脂肪が多くなり、肉質の改善効果も認められなかった。雌牛は去勢牛より早熱性で仕上がりが早いため、24か月齢出荷が適していると考えられた。(表2)
(2)牛肉の鮮度保持技術の検討
 試験1:出荷前1か月間、1日1頭当たり3gのビタミンEを給与した結果、脂質の酸化は明らかに抑制されたが、ドリップ、クッキングロスおよび肉色(a値)では改善効果が認められなかった。(表3)
 試験2:試験1の結果を踏まえ、出荷前1か月間1日1頭当たり4gのビタミンEを給与した。その結果、4gのビタミンEを給与すると、脂質の酸化は明らかに抑制され、ドリップも減少し、肉色(a値)も高く維持され、牛肉の品質が保持された。(表3)以上の結果から、ビタミンEを出荷前1か月間給与し、牛肉の品質を保持するには、1日1頭当たり4gの給与量が適当と考えられた。

育成方法の違いがBA種肥育牛の肉質に及ぼす影響
表1 BA種の育成期増体成績
  n 体重 通算
日増体量
生時 3か月齢 6か月齢 9か月齢
放牧育成区 去勢牛 6 36.5a 106.3 209.0a 285.5a 0.92a
雌牛 5 32.3b 94.9 177.7b 237.1b 0.76b
舎飼育成区 去勢牛 6 35.0ab 92.7 148.3c 219.4b 0.68b
a,b,c:各項目で異文字間に有意差あり(p<0.05)

表2 BA種の肥育成績
  24か月齢出荷 26か月齢出荷
放牧育成区 舎飼育成区 放牧育成区 舎飼育成区
去勢牛 雌牛 去勢牛 去勢牛 雌牛 去勢牛
頭数 (頭) 3 2 3 3 3 3
開始時体重 (kg) 277 247 221 304 240 247
出荷時体重 (kg) 714 680 665 739 714 696
通算日増体量 (kg) 1.01 1.00 1.03 0.88 0.96 0.91
1kg増体に要したTDN量 (kg) 7.0 6.5 6.4 7.9 6.8 7.2
皮下脂肪厚 (cm) 3.0 2.8 2.4 2.8 3.2 3.5
枝肉格付 B-2:2頭 B-3:2頭 B-3:2頭 B-4:2頭 B-3:1頭 B-3:1頭
C-2:1頭   B-2:1頭 B-3:1頭 C-3:1頭 C-3:2頭
        B-2:1頭  

(2)牛肉の鮮度保持技術の検討
表3 1日1頭当たり3g(試験1)および4g(試験2)のビタミンE給与が肉質に及ぼす影響
  n 出荷前
血漿中
ビタミンE
(mg/L)
保存中の肉質
TBARS値
(mg MDA/kg肉)
ドリップ
(%)
クッキングロス
(%)
肉色a値
7日後 10日後 7日後 10日後 7日後 10日後 7日後 10日後
試験1
対照区 12 2.5b 0.46a 0.51a 8.8 9.7 22.9a 22.1a 16.1 12.4b
給与区 12 9.7a 0.23b 0.29b 8.7 10.3 21.1b 20.8b 16.9 14.5a
試験2
対照区 5 2.2b 0.44a 0.69a 10.5a 11.8a 23.5 20.3 14.8b 12.5b
給与区 5 7.6a 0.16b 0.20b 8.5b 8.9b 22.9 21.8 17.0a 15.7a
注1)TBARS値:脂質の酸化度を示す2-チオバルビツール酸反応物質ヲマロンアルデヒド(MDA)量で表示。
 2)保存7日後:と殺14日後に相当する。3)a,b:各項目で異文字間に有意差あり(p<0.05)。

4.成果の活用面と留意点
 1)肥育牛に出荷前1ヶ月間、1日1頭当たり4gのビタミンEを給与すると、肥育牛1頭当たり約1,000円のコストがかかる。
 2)ビタミンEを給与して生産した牛肉は、枝肉格付時には効果が現れないため、利益が生産者に還元される方策が必要である。

5.残された間題とその対応
 1)余剰脂肪を少なくするBA種の肥育法の検討