【指導参考事項】
成績概要書 (作成 平成9年 1月)
課題の分類 北海道 畜産・草地 畜産− 研究課題名:乳中尿素窒素の暫定基準値 (大規模土地利用型酪農における省力的群管理技術の開発 イ−(3)半群健康管理モニタリングシステム) 予算区分:国補(地域基幹) 担当科:根釧農試研究部酪農第二科 担当者:糟谷広高、高橋雅信 試験期間:平成6〜10年度 協力・分担関係:新得畜試、福岡総農試畜研宮崎畜試、大分畜試、群馬畜試 |
1.目的
血中および乳中尿素窒素は、飼料の蛋白質とエネルギーのバランスの指標として飼料コスト低減、乳牛の健康、環境への窒素負荷量の低減などに有用でるが、乳中尿素窒素を測定できる機器が、道内でも昨年からいくつかの検査機関に導入され始めており、諸外国と同様に乳検成績の一つとして活用が期待されている。このため、乳中尿素窒素の変動要因を検討し、その判断基準となる乳中尿素窒素の基準値を作成した。
2.方法
十勝農協連(十勝)、浜中町農協(浜中)で行っている乳検実施時における生乳の測定値から、異常値を取り除いたデータを使用した。乳中尿素窒素と乳量、乳質、産次、乳期、さらに浜中においては放牧の利用形態、十勝においては給与粗飼料との関係を調査した。暫定基準値は、調査データからリニアスコア3以上のデータを取り除き、初産、経産別、乳期別に、十勝、浜中の夏期の昼夜放牧とそれ以外に区分し作成した。さらに十勝と浜中の夏期の昼夜放牧を除いたデータからそれぞれランダムに8000個サンプリングし、両検査機関のデータを統合した基準値を作成した。
3.結果の概要
1)両検査機関の乳中尿素窒素は、十勝で13.1±4.0mg/dl、浜中で14.2±4.1mg/dlであった。分布の偏りの尺度である歪度は、十勝で0.02、浜中で0.24、と正規分布に近い分布と考察された(表1)。
2)乳中尿素窒素は、乳糖率が高くなるにつれて低くなる傾向がみられ、またリニアスコアが高くなるにつれ低くなる傾向がみられた(表2、3)。特にリニアスコアが5以上において、5mg/dl以下の割合が全体の10%をしめた(図1)。産次、乳期の変動では、初産が経産より低く、乳期が進むにつれ高くなる傾向がみられた。
3)飼養環境による変動では、放牧により高くなる傾向があったが、給与粗飼料による違いは牧草サイレージ給与が若干高かったが、差は小さかった。
4)全牛における暫定基準値は、十勝で9.2〜17.2mg/dl、放牧期の昼夜放牧を除いた浜中で10.0〜17.8mg/dl、浜中における放牧期の昼夜放牧では12.8〜21.0mg/dlとなった(表4)。十勝と放牧期の昼夜放牧を除いた浜中のデータを統合すると暫定基準値は9.7〜17.5mg/dlとなった(表5)。
表1 乳中尿素窒素の概要
乳中尿素窒素 | ||
十勝 | 浜中 | |
平均値±SD(mg/dL) | 13.1±4.0 | 14.2±4.1 |
変動係数 | 30.8 | 28.8 |
個数 | 126,701 | 52,240 |
歪度 | 0.02 | 0.24 |
対数の歪度 | -1.88 | -0.92 |
表2 乳糖率水準による乳中尿素窒素の変動
乳糖率(%) | 十勝 | 浜中 |
mg/dL | ||
〜4.25 | 15.6±4.19 | 15.1±4.21 |
4.26〜4.50 | 14.1±3.76 | 14.5±4.08 |
4.51〜4.75 | 12.6±3.75 | 13.8±3.99 |
4.76〜 | 11.2±4.08 | 13.2±4.00 |
表3 リニアスコアによる
乳中尿素窒素の変動
リニア スコア |
十勝 | 浜中 |
mg/dL | ||
〜2 | 13.2±4.02 | 14.3±4.05 |
3〜4 | 12.4±4.15 | 12.8±4.20 |
5〜 | 10.8±4.65 | 10.5±4.44 |
図1 リニアスコアによる乳中尿素窒素の分布割
表4 各検査機関の暫定基準値(基準範囲)
区分 | 初産 | 経産 | 全牛 |
十勝 | 12.1±4.0(8.1〜16.1) | 13.7±3.9(9.8〜17.6) | 13.2±4.0(9.2〜17.2) |
浜中 | 13.6±3.8(9.8〜17.4) | 14.4±3.9(10.5〜18.3) | 13.9±3.9(10.0〜17.8) |
浜中* | 16.2±4.1(12.1〜20.3) | 17.2±4.1(13.1〜21.3) | 16.9±4.1(12.8〜21.0) |
表5 乳尿素窒素の暫定基準値(基準範囲)
泌乳日数 | 初産 | 経産 | 全牛 |
10〜49 | 11.2±3.7(7.5〜14.9) | 12.9±3.9(9.0〜16.8) | 12.4±3.9(8.5〜16.3) |
50〜109 | 12.1±3.8(8.3〜15.9) | 13.4±3.9(9.5〜17.3) | 13.0±3.9(9.1〜16.9) |
110〜219 | 12.9±3.8(9.1〜16.7) | 14.2±3.8(10.4〜18.0) | 13.8±3.8(10.1〜17.6) |
220〜 | 13.6±3.9(9.7〜17.5) | 14.5±3.9(10.6〜18.4) | 14.2±3.9(10.3〜18.1) |
計 | 12.8±3.9(8.9〜16.7) | 13.9±3.9(10.0〜17.8) | 13.6±3.9(9.7〜17.5) |
4.成果の活用面と留意点
1)単年度の限られた地域のデータから作成された暫定基準値である
2)飼養条件による変動、個体差、測定誤差等を考慮して、乳中尿素窒素は、牛群の栄養診断の指標として利用すべきと考える。
3)乳中尿素窒素は、乳量、乳蛋白率といった乳検成績やボディコンディションスコアなどと共に総合的な判断に活用すべきと考える。
4)乳中尿素は、乳中尿素窒素に2.14を乗じた値であるので判断に当たっては、確認する必要がある。
5.残された間題とその対応
1)栄養学、獣医学的知見からみた乳中尿素窒素のガイドライン
2)十勝、浜中以外の地域の基準値及び季節変動要因の解析
3)繁殖成績と乳中尿素窒素との関連性
4)放牧飼養における乳中尿素窒素