【研究参考】

成績概要書                   (作成平成9年1月)
研究課題名:小型ピロプラズマ原虫の遺伝子解析とワクチン開発の試み
予算区分:共同研究(大学)
担当科:新得蓄試生産技術部衛生科家畜部肉牛育種科
研究期間:平6〜8年度
協力・分担関係:北大獣医学部感染症学教室

1.目的
小型ピロプラズマ病抵抗性における肉牛の品種間差を検討するとともに、小型ピロプラズマ原虫(Thileriasergenti以下Ts)表面蛋白質の遺伝子解析を行い、合成ペプチドTsワクチンの開発を目指す。

2.方法
(1)小型ピロプラズマ病抵抗性における品種間差
(2)Ts表面蛋白質の遺伝子解析と遺伝子型判別
(3)合成ペプチド小型ピロプラズマ病ワクチンの開発と予防効果
  1)合成ペプチドワクチンの試作と免疫原性の検討
  2)C型由来ペプチドワクチンの予防効果
  3)CおよびI両型由来ペプチドワクチンの予防効果
  4)リポソーム封入CおよびI両型由来ペプチドワクチンの予防効果

3.結果の概要
(1)黒毛和種はヘレフォードに比べ小型ピロプラズマ病抵抗性が高かった(表1)。また黒毛和種はヘレフォードに比べ、CD2、CD4およびCD8陽性リンパ球の割合が高く、抵抗性と何らかの関係のあることが示唆された。 (2)−1)千歳株TsのmRNAからcDNAライブラリーを作製した後、モノクローナル抗体を用いたスクリーニングによって32kDa(p32)および23kDa(p23)の表面蛋白質をコードする遺伝子をクローニングし、塩基配列を決定した。
(2)−2)代表的な分離株についてp32遺伝子塩基配列を比較した結果、大きくC、I、B−1、B−2型の4型に分類できることが明らかとなった。PCR法による遺伝子型判別法を開発し、これを用いて国内野外株の型別調査を実施したところ、大部分の株にはC型、I型が混在していることが明らかとなった(表2)。
(3)−1)C型p32のアミノ酸配列から抗体応答を誘導できると想定された部位のペプチド2種類(AおよびB)を合成した。これをマウスに接種したところ、十分な抗体産生が認められた。
(3)−2)子牛にC型由来合成ペプチドワクチンを接種した後、CおよびI型混在のTsを人工感染させたところ、I型Tsが終始優位に推移し、C型Tsの出現が抑制された(図1)。また、本病発生牧野への放牧による同ワクチンの効果試験において、ペプチドAに対する抗体価の上昇が確認され、Ts寄生率の上昇をやや抑制する効果が認められた(図2)。
(3)−3)道内におけるTsの多くはC型およびI型が混在していることから、両型(p32)由来の合成ペプチドワクチンを試作し、Ts汚染牧野への放牧による効果試験を実施したがTs寄生率の上昇抑制と貧血防止効果は認められなかった。
(3)−4)CおよびI両型由来合成ペプチドをリポソームに封入したワクチンを試作し、人工感染により効果を検討したところ、本ワクチンはTs抗体価を上昇させ、Ts寄生率の上昇や貧血をやや抑制する効果が認められた(図3)。しかし、本病発生牧野への放牧による同ワクチンの効果試験では、Ts寄生率の上昇抑制、貧血防止等の効果は確認できなかった。
(3)−5)以上の効果試験から試作合成ペプチドワクチンは寄生率上昇を抑制し、貧血等の症状を緩和する可能性がうかがわれたが、実用化にはさらにアジュバント、投与方法等の検討が必要と考えられた。

表1 放牧肉牛におけるT寄生率、PCV、赤血球数および血色素量
品種 Ts寄生率
(%)
PCV
(%)
赤血球数
(104/mm3)
血色素量
(g/dL)
ヘレフォード 5.04±4.60 24.9±7.1 591±262 8.2±2.5
アンガス 4.50±3.96 32.1±5.4 785±245 10.7±1.7
黒毛和種 1.94±1.45 35.8±4.5 1181±152 11.7±1.1

表2 我が国におけるピロプラズマ
   原虫分離株の遺伝子型判別
分離株 C型 I型 B-1型 B-2型
北海道  
網走 - + - -
新得a) + + - -
千歳a) + + - -
檜山 + + - +
渡島 + + - -
青森 + + - +
宮城 + + - -
福島a) + - - -
栃木  
池田a) - + - -
高原a) - + - -
新潟 + + - -
長野 - + - -
静岡 - + - -
岡山621 + + - +
岡山43 + - - -
徳島1 + + - -
徳島18 + + - -
徳島22 + + - -
福岡 + + - -
熊本 + + - -
熊本1 + + - -
鹿児島 + + - -
網走2b) + - + -
十勝2b) + - + -
十勝1b) + - + -
十勝4b) + - + -
十勝5b) + - + -
十勝6b) + - + -
T.buffeli
Warwick株c)
+ - + -
注)a)実験継代株
 b)豪州からの輸入牛
 c)豪州由来実験継代株


図1 ワクチン接種・攻撃牛での出現原虫の遺伝子型別


図2 C型由来ペプチドワクチン効果試験
  におけるTs寄生率の推移


図3 リポソーム封入ワクチン効果試験
  におけるTs寄生率の推移

4.成果の活用面と留意点
 試作合成ペプチドワクチンはさらに改良が必要であり、現段階での実用化は困難である。

5.残された問題とその対応
 合成ペプチドワクチンにおけるアジュバント、投与量および投与方法の検討。