【指導参考事項】 成績概要書 1996256 (作成平成9年1月)
研究課題名:アルファルファの根釧地域における適応要因の解明とそぱかす病抵抗性母材の選抜 予算区分:道単担当科:根釧農試研究部作物科 研究期間:昭62−8年度 協力・分担関係:北農試草地部マメ科牧草研究室 |
1目的
アルファルファを寒冷寡照・土壌凍結地帯に位置する根釧地域に導入・定着させるための適応要因を解析し、そばかす病について抵抗性育種素材選抜のための現地選抜の可能性を検討する。
2.試験研究方法
1)品種を用いた適応要因の解析試験
・1988年と1989年にそれぞれ海外
・国内から導入した60品種を供試した。供試品種はⅢ〜Ⅳ型に分類される品種であった。
・1987年に北農試がそばかす病抵抗性、春季草勢、草型、耐冬性などで選抜した後代と品種・系統を加えた計256系統を供試して8年間の特性評価を行った。
2)そばかす病抵抗性育種母材の選抜に関する基礎試験
・「ヒサワカバ」、「MSA−PL−L」など合計13品種を供試して、そばかす病抵抗性の品種内個体変異の解析を行った。
・そばかす病抵抗性の狭義の遺伝率を、親子回帰に基づく方法で検討した。併せて、生育型や。耐冬性に関する遺伝率の推定を行った。「キタワカバ」を供試して、表現型選抜の改良効果を検討した。併せて、そばかす病選抜に伴う耐冬性関連形質の変化について検討した。
3)生育型を異にするそぱかす病抵抗性育種母材の選抜
・1993年から、そばかす病抵抗性の選抜を行った。そばかす病抵抗性と生育型の評価から個体選抜を行い、1年1サイクルで3世代選抜を進めた。選抜3世代ではパーティシリウム萎凋病を定法により接種し、個体の選抜を行った。
3.結果の概要・要約
1)品種を用いた適応要因の解析試験
・冷涼湿潤な夏期間にはそばかす病抵抗性、冬期間では耐冬性が重要で、それら改良が適応性を向上させる可能性がある。
・そばかす病の多発は耐冬性(特に、耐凍性、耐凍上性)の発現を抑制する。土壌凍結地帯の根釧地域で適応するためには、そばかす病に対して高度の抵抗性を持つことが前提となる。
・そばかす病害が耐冬性の発現を抑制するため、それが多発する品種
・系統群では、生育型と耐冬性の関係は不明確となる。すなわち、一般に土壌凍結地帯の耐冬性はⅢ型<Ⅳ型<V型であるが、根釧地域の耐冬性はⅣ型、V型品種よりはむしろ秋季休眠性が中位でそばかす病抵抗性に勝るⅢ型品種が良好である。
・耐冬性の発現を抑制しない程度にそばかす病害が改良された品種
・系統群(少なくとも「キタワカバ」以上の抵抗性を有する)では開張型で、秋季休眠性が強い系統ほど耐冬性、永続性が優れ、根釧地域においても一般的に認められる関係が成立すると考えられる。
・そばかす病抵抗性と生育型の関係には品種および個体レベルで例外が認められ、比較的強い秋季休眠性とそばかす病抵抗性が両立する可能性がある。
2)そばかす病抵抗性育種母材の選抜に関する基礎試験
・根釧地域では自然発病条件下でそばかす病抵抗性の品種間変異、個体間変異の検出が容易である。
・そばかす病抵抗性の狭義の遺伝率は極めて高く、2サイクル以上の表現型の選抜により抵抗性を高度に高めることが可能である(図2)。
3)生育型を異にするそぱかす病抵抗性育種母材の選抜
・これらの知見に基づき、高度のそばかす病と多様な生育型を併せ持つ育種母材を選抜し、パーティシリウム萎凋病の発生に備えてその選抜を行った(表1)。
←弱 第2主成分(秋季休眠と耐冬性の良否を示す) 強→
スコア大:秋季休眠性大 耐冬性
スコア小:秋季休眠性小 耐冬性
図1 第2主成分スコアと永続性(8年目被度%)の関係(r=0.49**)
母系の位置 ●;耐冬性と関連形質による選抜母系,○;そばかす病抵抗性選抜母系,
*;その他形質の選抜母系 点線は「キタワカバ」の被度を示す。
図2 「キタワカバ」を母材としたそばかす病抵抗性
選抜における選抜世代と“MSA-PL-L”との比較
*;5%水準、***;0.1%水準で有意
表1 そばかす病選抜2代におけるそばかす病罹病程度、草勢および草型(1995年)
群名 | 親の生育型 | そばかす病 罹病程度 |
草丈 | 草勢 | 草型 | 冬枯れ1) | |
草型 | 休眠性 | ||||||
PG-1 | 直 | 強 | 2.2±0.7 | 37.5±8.4 | 6.1±1.6 | 3.7±1.0 | 5.5±1.8 |
PG-2 | 開 | 強 | 2.5±0.9 | 32.8±8.4 | 5.5±1.7 | 5.1±1.1 | 5.8±1.7 |
PG-3 | 直 | 弱 | 2.0±0.8 | 40.4±8.4 | 6.9±1.7 | 3.8±1.0 | 4.7±1.5 |
PG-4 | 直 | 弱 | 1.9±0.8 | 42.8±8.7 | 7.2±1.8 | 3.4±0.8 | 4.9±1.4 |
PG-5 | 開 | 弱 | 2.0±0.8 | 38.8±9.4 | 6.7±1.9 | 4.6±1.0 | 5.2±1.4 |
PG-6 | 直 | 弱 | 2.1±0.7 | 38.5±8.8 | 6.8±1.8 | 3.3±0.8 | 5.4±1.6 |
PG-7 | 開 | 強 | 2.0±0.7 | 37.4±9.6 | 6.7±1.8 | 4.8±1.1 | 5.3±1.7 |
PG-8 | 直 | 弱 | 2.1±0.9 | 40.6±8.5 | 7.0±1.9 | 3.0±0.6 | 5.6±1.6 |
ヒサワカバ | 3.2±1.0 | 38.1±7.6 | 6.7±1.8 | 3.0±0.5 | 4.8±1.0 | ||
MSA-PL-L | 3.0±1.1 | 38.9±9.7 | 6.3±2.1 | 3.3±0.8 | 6.5±1.7 |
4.成果の活用面と留意点
1)得られた知見は、根釧地域向けアルファルファ品種育成に利用できる。
2)系統および導入品種等の評価、選定の際の基礎資料として利用できる。
3)選抜した母材は今後の品種育成に活用できる。
5.残された問題とその対応
1)選抜した母材を利用して、根釧地域向け品種の育成のため、特に、そばかす病抵抗
性と耐冬性を併せ持つ個体等の選抜を今後も継続して進める必要がある。
2)根釧地域で必要とされる秋季休眠性と耐凍性の水準を明らかにする必要がある。