【指導参考事項】
成績概要書                   (作成 平成9年 1月)
課題の分類
研究課題名:大規模酪農経営におけるフリーストール飼養体系の導入条件の解明
       −導入後の経営不安定期における実態−
       (大規模土地利用型酪農における省力的群管理技術の開発)
予算区分:国補(地域基幹)
担当科:根釧農試研究部経営科
担当者:金子剛
試験期間:平成6〜8年度
協力・分担関係:根釧農試酪農第一科、二科、酪農施設科、北根室農政センター、
          南根室農改センター、福岡県総農試畜研、
          大分県畜試、宮崎県畜試、群馬県畜試

1.目的
 フリーストール牛舎を導入した大規模酪農経営の初期段階での経営の不安定性の要因とその実態を解明することを目的とした。対象は経産牛頭数が50頭規模から100頭規模に規模を拡大し、家族労働力を中心とした草地型の酪農経営である。

2.方法
(1)フリーストール牛舎を導入した47戸の概況調査
(2)概況調査農家のうち20戸の経営実態調査
(3)モデル酪農家の経営分析

3.結果の概要
(1)概況調査及び実態調査からは以下のことが明らかになった。一般にフリーストール化しても頭数増加が少ないことから生乳生産量は一気には増加しない(図1)。新たにフリーストール化した酪農経営では牛舎への乳牛の収容率(年床数に対する経産牛頭数)が5年目の平均でも85%と、5年目においても生産体制を整えている段階にある。特に、経産牛50頭以下の酪農経営が規模拡大した場合に収容率が低いことが多くみられた。
 フリーストール化に伴い一時的に個体乳量が低下することがあり、移行前の乳量水準が低い場合に多い。これは新しい技術を習得するには時間がかかることを示している。また、移行に伴い乳牛の増殖に期間を要すること(表1)や繁殖の悪化や疾病の発生などが問題となっている(図2)。フリーストール化した場合には飼養環境に合わない乳牛や疾病のため、高い産次数の乳牛を中心に淘汰されるので平均産次数が低下していく(2.9産→2.6産)。
 自給飼料の確保においては、頭数規模が大きくなるとスタンチョン飼養に比べて1頭当たりの草地面積が少ない状況にある(図3)。
 フリーストール化により1頭当たりの労働時間が減少するため従事者1人当たりの飼養頭数は増加する。しかし、経産牛が100頭を越えると年間の飼養管理労働が6,000時間に達するため、基幹的従事者が2人の場合には労働過重が懸念される。
 以上のことから次のようなことが言える。自家増殖のみで頭数を100頭程度まで倍増するには6年程度は必要となるので、事前に増頭しておくことが求められる。フリーストール化により低下する平均産次数は時間の経過とともに回復するが、乳牛償却費の低下や労働軽減などを図るために、移行時の産次数を低下させないような技術的な対応が必要である。また、経産牛100頭を越える場合には農業従事者数が3人から4人必要であると考えられる。
(2)次にA経営をモデルに、50頭から100頭規模へと規模拡大を伴うフリーストール化における経営問題を整理した。(1)での結果と同様にA経営においても頭数増加に時間がかかっていることや繁殖成績が低下していた。フリーストール化に伴う投資額はこれまでのところ追加投資を含めて9,000万円弱であるが補助額を含めると1億円を超えていた。農業所得は移行後4〜5年でも800万円程度と少なく移行後は経営が不安定であることが確認された(表2)。所得水準が低いのは生乳生産量が十分でないことや追加投資などによる償却負担の増加のためであり、荻間(h2根釧農試)が指摘したとおりである。これは生乳生産量が増加していけば改善が予想されている。頭数規模の拡大により1頭当たりの草地面積が縮小している。そのため牧草生産量の確保のため規模拡大時には余裕のある草地面積の確保が必要である。

表1 経産牛増加の動き(%)
  A経営 根室平均
加入率 除籍率 加入率 除籍率
h3 42(24) 37(21)    
h4 57(34) 25(15)    
h5 27(21) 33(26) 26.1 27.5
h6 35(26) 28(21) 27.9 26.6
h7 38(30) 28(22) 27.9 24.5
注)括弧は頭数

表2 A経営の経営成果
  総額(千円) 1kg当生産費(円)
支出 h6 h7 h6 h7
労賃 8,109 8,721 9.6 10.1
種付料 1,003 1,316 1.2 1.5
飼料費 21,968 23,434 26 27
乳牛償却費 2,618 4,510 3.1 5.2
建物・農機具費 5,457 4,687 6.5 5.4
農機具費 8,005 8,128 9.5 9.4
生産管理費 757 342 0.9 0.4
その他 15,309 15,611 18 18
費用合計 63,224 66,750 75 78
副産物価額 3,282 3,345 4 4
生産費 59,942 63,406 71.2 73.7
支払利子・地代 3,184 2,621 34 29
自己資本利子・地代 1,105 1,105 14 12
生産費総額 64,329 70,476 76.4 81.9
農業粗収入 63,354 65,360 75.3 75.9
農業所得 8,336 7,442 9.9 8.6


図-1 FS牛舎導入後の牛床への乳牛収容率の推移


注)BはB農協平均、AはA経営
図-2 繁殖成績比較3:A経営と地域平均


図-3 成牛換算頭数と換算頭数1頭当たり草地面積

4.成果の活用面と留意点
 事前に十分な経営計画が必要である。また、50頭規模から100頭規模に頭数拡大を行った場合であることに留意する必要がある。新たな技術の導入による経営成果の変化については、新技術が開発された段階で検討を改めて行う。

5.残された問題とその対応
 具体的な対策については今後の課題である。糞尿処理利用・コントラクトの活用問題については明らかではない。