成績概要書 (作成 平成10年1月)
課題の分類
研究課題名: 水稲湛水直播栽培における落水出芽法
(低コスト稲作総合技術開発)
予算区分: 道 費 担当科:中央農試 稲作部 栽培第一科
上川農試 研究部 水稲栽培科
研究期間: 平成3〜9年度 協力・分担関係:中央農試 農業機械部 機械科
1.目 的
播種後出芽始めまで落水する「落水出芽法」を導入し、慣行法である浅播き・常時湛水直播では不安定であった出芽・苗立ち、耐倒伏性および収量性の安定・強化を図る。

2.方 法
1)供試品種:ゆきまる、一部きたいぶき、過酸化石灰粉粒剤16乾籾重量比100%被覆
2)落水出芽法:播種後10〜15日間落水、慣行法:芽干し期間を除いて常時湛水
3)播種後湛水栽培と落水出芽法の比較
試験年次:中央農試稲作部1992、94、95年、上川農試1991、97年、ミスト散播、条播機 調査項目:苗立ち、種籾の埋没深度、生育・収量、地表下1㎝の地温、酸化還元電位
4)落水出芽法の実証試験
播 種 機:乗用条播機、打ち込み式代かき同時播種機、乗用散粒機、帯状散播機、ミスト機、ラジコンヘリ
試験場所:稲作部1996、97年、上川農試97年、現地96年空知4、97年空知上川他24ケ所
5)苗立ち期間の温度条件の比較
1951〜97年の47年間、岩見沢測候所、上川農試、日最高、日最低、日平均気温
6)雑草の発生消長と防除対策
稲作部1996、97年 雑草の発生消長および除草剤2の単用、体系処理

3.結果の概要
1)播種後出芽始めまで落水する落水出芽法では、埋没深度が慣行法よりもやや深い割に苗立ちは良好で、浮き苗も少なく、倒伏もみられず、収量は慣行法(播種後湛水)に優った(表1)。
2)室内試験および圃場における土壌の酸化還元状態を比較した結果、慣行法に比べて、落水出芽法では土壌、とくに種子近傍が酸化的に保たれることが明らかとなった(図1)。
3)播種後落水期間中における地表下1㎝の地温を湛水条件と比較した結果、日最低地温は落水区でやや低かったが、日最高地温はむしろ落水区で高い場合が多かった。
4)圃場条件下で行った落水出芽法における播種深度試験の結果、過酸化石灰粉粒剤16を乾籾重量比100%コーティングした種子の苗立ち率は、播種深度10㎜で最も高かった(図2)。
5)条播および散播の各種湛水直播播種機を導入して、落水出芽法の適応性を試験場内で検討した結果、いずれの播種機を用いた場合でも落水出芽法の実用性は高いと判断された(表2)。
6)1996〜1997年の現地試験の結果、落水出芽法は、播種深度が浅い場合を除くと、慣行法に比べて苗立ちや耐倒伏性の面で安定性が確実に向上しているものと判断された。
7)1996年の播種後落水期間中の平均気温はかなり低く、また1997年の入水後10日間の最高気温は、1951年以降では1969年に次いで低かった。また播種直後に当たる5月3半旬における日最低気温が0℃以下の日の出現頻度は、岩見沢では2.1%、上川農試では3.0%であった。
8)落水出芽法では、慣行法に比べてノビエが多発する(図3)ため、ノビエ対策が重要であり、入水直後の直播用一発処理剤とノビエ専用剤の入水後14〜20日の体系処理が効果的であった。
9)以上から、落水出芽法の導入により北海道における湛水直播栽培の安定性強化が期待される。

表1 播種後の水管理の違いが苗立ち、倒伏および収量におよぼす影響
場所年次水管理法播種
(月/日)
落水期間
(月/日)
苗立ち
本数
(本/㎡)
浮き苗
の発生
程度
埋没
深度
(㎜)
倒伏
面積・程度
収量
(㎏/10a)
中央農試
(泥炭土)
1994落水出芽5/135/13〜252690.9490
慣行芽干し5/186/ 1〜 33150.330%・ナビキ420
1995落水出芽5/155/13〜251843.8532
慣行芽干し5/196/ 1〜 31603.410%・ナビキ508
上川農試
(褐色低地土)
1997落水出芽5/165/16〜263503.020%・ナビキ〜小509
慣行芽干し5/135/23〜273701.060%・甚508
 注)埋没深度は、苗立ちした個体の茎基部の白色部分を測定した。


図3 播種後の水管理がノビエの発生消長
注)●:1996年落水(5/17〜5/30)○:1996年常時湛水
  ■:1997年落水(5/16〜5/28)□:1997年常時湛水

4.成果の活用面と留意点
1)水稲湛水直播栽培暫定基準(平成10年1月改訂)に基づいて実施する。
2)播種期は従来の播種後湛水栽培と同一で良いが、その地帯の低温の出現頻度を考慮して決 定する。

5.残された問題点とその対応
高性能播種機の改良、合理的施肥法の確立、過酸化石灰粉粒剤の使用量の低減、特殊雑草の 発生生態と防除法、現地普及実証および経営評価、以上の課題について継続検討する。