成績概要書 (作成 平成10年1月)
課題の分類北海道農村計画畑 作 化 学
研究課題名:作物群落の炭酸ガス固定量長期測定システム
予算区分:経常(土地改良事業費)
研究期間:平成6−9
担当: 北海道開発局 開発土木研究所
農業開発部 農業土木研究室
協力・分担関係: 東京農工大学、(財)日本気象協会
1.目的
北海道内では、畑地かんがいの導入を契機とする新規野菜作の導入などがみられ、基幹畑作物の生産・競争力の強化と同時に、野菜類を組み入れた作付け体系の確立が必要とされている。本開発研究では、広い圃場の作物群落の炭酸ガス交換量を長期に観測するシステムを作成し、①作物群落の光合成による炭酸ガス吸収量と生長量の関係、②作物の炭酸ガス吸収と水分ストレス・気温ストレスの特徴解明、③作物管理への応用検討を図ろうとするものである。従来までは、チャンバー法による作物単体の炭酸ガス交換量計測や短期での野外観測はあるが、精度良く、また長期にわたって連続観測可能なシステムは無かった。このため、炭酸ガス交換量の遠隔計測システムを開発したものである。
2.方法
北海道十勝管内更別村(ビート)、芽室町(キャベツ)、枝幸郡枝幸町(牧草)の試験圃場に計測システムを設置し、生育期間をとおしてのCO2データの集録・伝送を行い、稼働性を評価した。また、このシステムで得られたデータをもとに気象等条件と作物群落の炭酸ガス固定量の関係さらに営農管理への適用性について検討した。
3.結果の概要
(1)炭酸ガス長期固定量計測システムの開発
炭酸ガス自動切替器により、2標高位置の空気の吸入を自動的に切換え、1台の濃度計で精度良くCO2ガスフラックスを計測できる。無人で長期間安定した状態で計測できるなど、高い稼働性が得られた(表1)。
(2)計測データの特徴
日射量と炭酸ガスフラックスの関係を生育期別にみると、生長曲線と類似した日射量〜炭酸ガスフラックスの関係式を下記のように導ける(図1)。
y=R/(a+b・R)−y0
ここに、y:炭酸ガスフラックス(吸収を正値)、R:日射量、y0:夜間のフラックス(絶対値(放出)でかつ平均値)、a,b:係数で、作物の生長(植被率や草丈)で経時的に定められる。
作物の炭酸ガス吸収量は土壌水分および気温と高い相関を持ち、すなわち、土壌が乾燥したり、高温日には吸収量が低下する。ビートにおいては、土壌水分と気温の2因子が炭酸ガス固定量を主に支配する。

4.成果の活用面と留意点
開発した炭酸ガス固定量長期測定システムは、その稼働性が良好であり、作物の生育期間を通じた長期の炭酸ガス計測が可能となった。一連のデータから、日射量と炭酸ガスフラックスの関係、炭酸ガス固定の抑制因子の検討を行うことができる。また、これらのことより、炭酸ガス固定量と生長を結びつけた生育モデルから、圃場の水分管理などに関する知見が得られる。留意点としては、輸送係数の算定に熱収支ボーエン比法を使用していることから、十分な圃場の広さを必要とし、作付け面積が小さい圃場(例えば、1辺100m以下)では観測精度の検証が必要となる。
5.残された問題とその対応
作物管理への応用をはかる上で、種々の作物について、炭酸ガス固定量と生長量の関係や炭酸ガス固定の制限因子とその関係式などを明確にする必要がある。また、計測上分離していない土壌呼吸等について並列して検討を進める必要がある。