1997104
成績概要書 (作成 平成10年1月)
課題の分類: 研究課題名:胚培養および胚珠培養による花ユリ種間雑種の作出と評価 (細胞・組織培養による花ユリ種間雑種の作出試験 (花ユリ育種法の開発と育種素材の作出) 予算区分:道費 研究期間:平成4〜9年度 担当科:中央農試 生物工学部・細胞育種科 花・野セ 研究部・花き第一科 協力・分担関係:なし |
1.目 的
新規性のある北海道のオリジナルな花ユリ品種を育成するため、胚培養および胚珠培養により育種素材を作出し、評価する。また、培養条件、培養手順を検討し、効率化・安定化を図る。
2.試験方法
1)供試材料
(1) アジアティック・ハイブリッドとその原種(Aとする)、ロンギフロラム・ハイブリッドとその原種(L)、オーレリアン・ハイブリッドとその原種(T)、オリエンタル・ハイブリッドとその原種(O)、中央農試で作出した種間雑種(LA、LAA等)
2)培養方法
(1) 花柱切断受粉法により交配、培養適期にさく果を採取し殺菌
(2) 胚培養および胚珠培養(胚珠培養では1〜2ヶ月後、未発芽の胚珠より胚を摘出し胚培養を継続)
培地:主にMS基本、30g/lショ糖、0.01mg/lNAA、8g/l寒天(または2.5g/lゲルライト)、pH5.7
(3) 発芽個体は試験管に移植し、得られた健全苗はリン片繁殖で数球に増殖
(4) 順化後、温室内でポットに鉢上げし、開花球を養成
3)試験内容
(1) 胚培養および胚珠培養法の確立
試験処理:①胚培養における胚の大きさと発芽の関係
②培養方法の比較
③培地のゲル化剤の影響
④基本培地の影響
⑤培地のpHの影響
⑥培地のショ糖濃度の影響
調査項目:置床した胚数あるいは胚珠数、発芽数、健全苗数
(2) 胚培養および胚珠培養法による花ユリ種間雑種個体の作出
調査項目:採取した子房数、交配後の日数、子房の生育、肥大した胚珠数、胚珠の大きさ、胚乳の硬さ、 胚の大きさ、置床数、発芽数、枯死数、コンタミ数、不良苗数、健全苗数など
(3) 花ユリ種間雑種個体の評価
調査項目:花色、花形、花向き、花の大きさ、花弁間の隙間、斑点、香り、花粉量、茎色など
3.結果の概要
1)胚培養時の置床胚の大きさが胚の発芽におよぼす影響を検討した結果、胚が大きくなるに従って発芽率は高くなる傾向であった。発芽率は、0.1〜0.2mmの極微小胚では10%以下、1mmを越える大きな胚では70%を越えた。L×O、O×Aの交配では、多くの組合せで得られる胚の多くが0.1〜0.2mmの極微小胚で発芽率は極めて低かったが、1〜2ヶ月の胚珠培養後に胚を摘出したとき胚珠内で胚が生長しており、生長した胚の発芽率は高くなった(表1)。
2)さく果を採取後、すぐに胚培養を行うより胚珠培養を1〜2ヶ月間ほど行い、発芽個体は継代培地に移植し、未発芽の胚珠について胚を摘出し胚培養を行う方法(胚珠−胚培養法)は、操作がより簡単であり、かつ高率で発芽個体、健全個体を得ることができた(表2)。
3)胚培養、胚珠培養に用いる培地条件としては、基本培地としてMS、ゲル化剤として寒天、ショ糖濃度として30g/l、pHは5.5程度が適すると思われたが、組合せにより異なる結果を示す場合もあり、さらに多くの組合せで、特に微小胚しか得られない組合せでの検討が必要である。
4)1992年〜1997年の6カ年間、花ユリの育種素材作出のために種間交雑を行い、胚培養および胚珠培養により多数の種間雑種個体を得た。1996年までの5カ年間で6239個体を鉢上げし、このうち品種群の異なる遠縁種間雑種は2661個体であった(表3)。その約2/3はL×Aの交配によるもので、その他、L×OおよびO×Aの交配では、それぞれ200以上、100以上の雑種個体を得た。
5)1993〜1995年に、交配、培養により作出した生存する2259個体の種間雑種のうち、1996年および1997年に開花した377個体(このうち遠縁種間雑種は183個体)について、その特性を調査した。L×Oの交配では、3組合せの19個体が開花した。花色、花形とも両親の中間的で、がく割れや花弁の乱れが約半数の個体で見られた。O×Aの交配では、6組合せの6個体が開花し、花粉親に特有の橙、黄色系の花色の個体が得られた(表4)。
表1胚培養における置床時の胚の大きさと発芽との関係
組合せ1) | 組合 せ数 |
試験 年次 |
胚の大きさ(mm) | 合計 (A)/(B) |
(%) | 健全苗数(C)2) (C/A%) | |||||
0.1-0.2 | 0.3-0.4 | 0.5-0.6 | 0.7-0.8 | 0.9-1.0 | 1.1- | ||||||
L×A | 17 | 1994 | 14/1823) 7.7 |
67/244 27.5 |
65/141 46.1 |
54/74 73 |
15/21 71.4 |
35/35 100 |
250/697 35.9 |
(35.9) | 159(63.6) |
L×A | 11 | 1997 | 19/266 7.1 |
27/198 13.6 |
19/53 35.8 |
23/46 50 |
13/23 56.5 |
42/53 84.2 |
143/639 22.4 |
(22.4) | -(-) |
L×O | 5 | 1997 | 3/167 1.8 |
2/32 6.3 |
1/3 33.3 |
6/202 3.0 |
(3.0) | 5(83.3) | |||
*L×O | 4 | 1997 | 1/287 0.3 |
15/388 3.9 |
11/105 10.5 |
30/61 49.2 |
13/16 81.3 |
43/54 79.6 |
113/911 12.4 |
(12.4) | 99(87.6) |
O×A | 4 | 1994 | 5/81 6.2 |
2/11 18.2 |
1/5 20 |
3/5 60 |
1/3 33.3 |
1/1 100 |
13/106 12.3 |
(12.3) | 10(76.9) |
*O×A | 8 | 1994 | 1/87 1.1 |
5/58 8.6 |
4/21 19 |
14/32 43.8 |
5/11 45.5 |
11/15 73.3 |
40/224 17.9 |
(17.9) | 31(77.5) |
表2 培養法の違い(胚培養と胚珠−胚培養)が発芽に及ぼす影響
組合せ | 組合 せ数 |
試験 年次 |
供試した 子房数 |
培養法 | 置床した胚 あるいは胚珠数 |
発芽数1) | 発芽率(%) | 健全苗数 | 健全苗率(%) | ||||
L×A | 4 | 1994 | 10 | 胚 胚珠−胚 |
124 126 |
53 83 |
(53) | 42.7 65.9 |
(42.1) | 39 51 |
(32) | 31.5 40.5 |
(25.4) |
L×A | 9 | 1997 | 22 | 胚 胚珠−胚 |
529 633 |
110 375 |
(265) | 20.8 59.2 |
(41.9) | - - |
(-) | ||
LA×A | 3 | 1997 | 8 | 胚 胚珠−胚 |
73 72 |
32 37 |
(4) | 43.8 51.4 |
(5.6) | 14 23 |
(2) | 19.2 31.9 |
(2.8) |
L×O | 5 | 1997 | 19 | 胚 胚珠−胚 |
202 273 |
6 33 |
(4) | 3 12.1 |
(1.5) | 5 27 |
(3) | 2.5 9.9 |
(1.1) |
表3 胚培養および胚珠培養による種間雑種個体数(1992〜1997年)
交配年 | 交配数 | 肥大した胚珠数 | 置床数 | 発芽数 | 鉢上げ個体数 | (うち遠縁種間雑種) | |||
胚珠 | 胚 | 胚珠 | 胚 | 計 | |||||
1992 | - | 2582 | 1528 | 628 | 587 | 526 | 1113 | 914 | (11) |
1993 | 2075 | 9819 | 6869 | 1119 | 2284 | 571 | 2855 | 2313 | (996) |
1994 | 2744 | 12451 | 2797 | 2731 | 1181 | 976 | 2157 | 1582 | (1063) |
1995 | 1279 | 6812 | 1630 | 1826 | 503 | 1000 | 1503 | 1123 | (386) |
1996 | 281 | 2076 | 1814 | 88 | 418 | 29 | 447 | 307 | (205) |
1997 | 560 | 8750 | 4135 | 1411 | 1787 | 361 | 2148 | ||
合計 | 6939 | 42490 | 18773 | 7803 | 6760 | 3463 | 10223 | 6239 | (2661) |
表4 O×A雑種個体の開花数と花姿の調査結果
交配年 | 子房親 | 花粉親 | 現存個体数 | 開花数 | 花色 | 花形 | 花弁 | 花向 | 花径 | 斑点 | 香り |
1994 | ルレーブ | マツバユリ | 1 | 1 | 橙 | 透カシ | 乱れ | 斜下 | ヤヤ小 | 無 | 中 |
1995 | エンジェルストリーム | 馬追の月 | 1 | 1 | 淡黄 | 杯状 | - | 上 | 中 | 微 | 微 |
1995 | 白妙 | 挽歌 | 6 | 1 | 黄 | 透カシ | 萼割 | 上 | ヤヤ大 | 無 | 弱 |
1995 | カサブランカ | イエロージャイアント | 1 | 1 | 淡黄 | ヤマユリ | 奇形5枚 | 上 | ヤヤ大 | 多 | 無 |
1995 | ピンクピコティー | アラスカ | 5 | 1 | 淡桃 | 透カシ | 乱れ | 上 | 中 | ヤヤ多 | 微 |
1995 | カスケード | アラスカ | 3 | 1 | 桃 | 透カシ | 乱れ | 上 | ヤヤ大 | 中 | 中 |
4.成果の活用面と留意点
1)花ユリの育種において、遠縁種間雑種獲得のための簡便で、効率的な手法として、胚珠−胚培養法を積極的に利用する。
2)本試験で作出された種間雑種個体については、開花個体より順次、育種素材としての評価、選抜を進め、戻し交雑親等の育種母本として有望な個体については、新たな交配での利用を図る。
3)新品種として有望な個体については、各種の検定試験等を行い、選抜を進める。
5.残された問題点とその対応
1)微小胚しか得られず発芽率の低い交配組合せでの、発芽率を高めるためのさらなる培養法、培地条件の検討。
2)受精の起こらない組合せでの遠縁種間雑種作出のための細胞融合法の検討。
3)花ユリ育成場所での胚珠−胚培養法の恒常的利用。
4)未開花の雑種個体の評価と選抜。