成績概要書(作成 平成10年1月)
課題の分類
研究課題名:りんご「ハックナイン」の良質果実(外観品質)生産のための葉診断と暫定的窒素施肥管理
        (予算課題名:りんご新品種の栽培法確立試験 2.養分吸収特性と窒素施肥法)
予算区分:道費
担当科:中央農試環境化学部 土壌生態科
        果 樹 部 果樹1科
研究期間:平1〜9年度
協力・分担関係:なし

1.目 的

 りんご「ハックナイン」の良質果実(外観品質)生産のための窒素栄養診断法、基準及び適正な窒素施肥量を明らかにする。

 

2.試験方法

 1) 窒素施用量試験〜成木期「ハックナイン」の施肥窒素適量を知る(‘89〜’97年)。

  中央農試場内果樹園:‘83年接木、’84年栽植の「ハックナイン/M26」、窒素用量試験(窒素4,7,10kg/10a、ただし93年より0,7,14kg/10a)。

 2) 現地実証試験〜成木期の窒素施用量の適応性を現地圃場で確認する(’94〜’97年)。

  余市町、壮瞥町りんご園の7年木、窒素用量試験(窒素0,7kg/10a)

 3) 現地適応試験〜葉中N濃度及び「ハックナイン」用葉色板による葉色の適応性を現地で確認する。(97年) 

  現地農家りんご園11ヶ所(旭川、深川、滝川、砂川、余市、仁木、壮瞥)、無窒素処理。

 

3.結果の概要

 1) 収穫期果実の地色・着色程度を予測しうる葉診断時期を8月上旬に設定した(表1)。

 2) 収穫期果実の地色・着色をそれぞれ3.5、6.5程度以上とした時、8月上旬の葉中窒素濃度は2.2%程度以下に維持する必要があり、現地りんご園においても確認された(図1)。

 3) ハックナインの葉色特性から「ふじ」用葉色板では判定が困難なため「ハックナイン」用葉色板を作成した。

 4) 作成した「ハックナイン」用葉色板で測定した現地リンゴ園の葉色値は収穫期果実の地色・着色をそれぞれ3.5、6.5以上に確保するため6.0程度以下にする必要があった。

 5) 収穫期果実の地色を3.5以上にするための基準、8月上旬の葉中窒素濃度2.2%程度以下は、年次が異なっても適用しうる。なお、8月の降水量が多く排水不良をきたすような条件ではこの限りでない(図2)。

 6) 無窒素処理によって8月上旬の葉中窒素濃度は低下し、収穫期果実の地色・着色程度は明らかに改善された。また、新硝停止率が高まった(表2)。

 7) 葉中窒素濃度,葉色値と地色、無窒素栽培による葉中窒素濃度と収量,着果数,新梢停止率、葉中窒素濃度と新梢停止率などの関係から判断して、ハックナインの葉中窒素濃度が1.8%程度、葉色値が5程度を下限値と推定した(表2)。

 8) 以上の結果を基に、ハックナインの成木期における良質果実(外観品質)生産のための暫定措置として、葉中窒素濃度が1.8%程度以上の場合には無窒素栽培の実施を提案する(表3)。

4.成果の活用面と留意点

 1) 成木期におけるハックナインの窒素栄養・葉色診断と、それに基づく窒素施肥管理に活用する。

 2) 本成績の無窒素栽培管理は良質果実(外観品質)生産のための暫定的な措置である。

 3) 8月の降水量が極めて多い状況での排水不良は、ハックナインの生育を停滞させるため、葉中窒素濃度を2.2%程度以下に維持しても地色・着色が基準値に達しない。従って、このような土地では表面排水を良好にする必要がある。

5.残された問題点 

 1) りんごの葉中窒素濃度は生土培養無機窒素で表された土壌由来窒素と下草に混生するマメ科草の割合に大きく依存しており、下草に混生するマメ科草の制御法の検討が必要である。

 2) 本試験で目安とした窒素栄養の下限値は推定値であること、また、下限域に達した時点での適正窒素施肥量の設定などの検討が必要である。