成績概要書(作成 平成10年1月)

課題の分類:
研究課題名:北海道における被覆緩効性肥料の窒素溶出特性と露地・施設野菜栽培への利用
          (緩効性肥料を利用した減肥栽培技術の開発)
予算区分:国費(補助)クリ−ン
研究期間:平成7〜9年度
担当科:中央農試環境化学部土壌生態科
     花・野菜技術センタ−研究部土壌肥料科
     道南農試研究部土壌肥料科
協力・分担関係:なし

1.目的

 道内における被覆緩効性肥料の窒素溶出特性を明らかにし、各種露地・施設野菜への肥効特性を把握する。このことにより、北海道の露地・施設野菜栽培における利用指針の基礎資料を得る。

2.方法

1)露地野菜畑土壌における被覆緩効性肥料の窒素溶出と肥効特性:被覆燐硝安加里40、70日タイプおよび被覆燐硝安70日タイプを供試して、長沼、栗山、大野(以上、低地土)、千歳、島松、真狩(火山性土)、滝川(台地土、造成相)で埋設法による溶出試験を実施。スイ−トコ−ン、ねぎ、キャベツ、ニンジン、たまねぎ、ユリに対して、被覆肥料を窒素換算で施肥標準の総量あるいは3割減肥量を主に全量基肥施用する方法による肥効を、速効性肥料を用いた従来の分施体系の方法と比較した。また窒素利用率、土壌硝酸態窒素を測定し、環境負荷の面からも評価した。

2)施設野菜畑土壌における被覆緩効性肥料の肥効特性:被覆燐硝安加里70、100、140日タイプを供試し、ハウス内においてトマト、ほうれんそうに対する全量基肥試験を実施。ほうれんそうについては一作目に全量基肥(一部速効性をブレンド)し、3〜4作を連続栽培した。

3.結果の概要   

1)露地野菜畑土壌における被覆緩効性肥料の窒素溶出ならびに肥効特性

被覆緩効性肥料(被覆燐硝安加里)の春から初夏における窒素溶出は放物線または直線に近い形で進み、地域間差、年次間差は小さい(表1)。また土性、保水性、土壌水分など理化学性には影響されず、実用上、土壌の種類を考慮する必要はない。

80%溶出日数は施用時の地温に律速され、降水量の影響は小さい。地温が高いほど施用初期の溶出(立ち上がり)が大きく、80%溶出日数は短縮される。40日タイプの場合、春〜初夏からの利用で70日程度、7月中旬からの夏露地で50日程度、とくに平均地温が25C゚程度と高い場合には40日未満で80%が溶出する(表1)。

被覆緩効性肥料の全量基肥施用による肥効発現は、緩やかに溶出する窒素が表層に高く維持されることによる。肥効は全層施用よりも作条施用で高く、この施肥法に該当するスイ−トコ−ン、ねぎなどの増収効果が高い。この結果、現行施肥体系の分施を省略することが可能となり、当該作物の被覆緩効性肥料の施用による減肥の可能性も高かった(表2)。

溶出した窒素の肥効は地温(気温)だけでなく土壌水分の影響も受ける。すなわち夏作でより速効的であり、乾燥年のとくに春〜初夏作では肥効が低下し、土壌水分条件によっては作条施用で窒素不足を招くおそれがある(表2)。

2)施設野菜畑土壌における被覆緩効性肥料の肥効特性

トマト・ほうれんそうとも全量基肥施用でほぼ慣行区と同程度の生育・収量が得られた(表2)。トマトで2割、ほうれんそうで3割減肥した処理でもやや減収する程度で、慣行から速効性肥料を同量減肥した慣行減肥処理よりもやや高い収量が得られ、品質も慣行区と大差なかった。

3)被覆緩効性肥料の施用が環境負荷におよぼす影響

被覆緩効性肥料を施用した場合の窒素利用率は増収効果が高いときに高まる場合が多いが、判然としない場合もある。

②被覆緩効性肥料の溶出タイプが作物の窒素吸収パタ−ンにほぼ合致している場合は問題ないが、乾燥あるいは低温等で肥効が遅れる場合には窒素が残存する。

 

4.成果の活用面と留意点

1)本試験は被覆燐硝安加里、被覆燐硝安肥料を用いた。直線または放物線の溶出パタ−ンを持つ他の被覆緩効性肥料にも適用可能である。施設はハウス無加温普通栽培の作型である。

2)被覆緩効性肥料の窒素肥効は作条施用の作物で高い。しかし作条施用の場合、乾燥、低温時には肥効は低下し、土壌水分条件によっては窒素不足を招くおそれがある。

3)被覆緩効性肥料は対象作物の窒素吸収パタ−ンにあった溶出タイプの選択が重要である。

4)速効性肥料とブレンドして作条基肥施用する場合は、濃度障害を回避するよう配分割合(ねぎでは被覆肥料からの窒素溶出を見込んだ総量として8kg/10aを超えないこと)に注意する。

 

5.残された問題点とその対応

キャベツにおける被覆緩効性肥料の土壌・作期別施用法確立。

2)土壌窒素肥沃度に対応した被覆緩効性肥料の施肥法確立。

3)速効性肥料とブレンドして作条施用する場合に濃度障害を回避するための適正ブレンド割合。

4)施設周年利用栽培における水供給、施肥位置と肥効発現の相互関係。 

 

施設野菜栽培における利用の方向性                      

 現在の被覆肥料では栽培環境条件による溶出の変動が大きくかなりのリスクがあることは否定できない、このため、高品質、高収量など極限を求める高度な栽培には被覆肥料を利用した全量基肥施肥法でも無理があり、この様な栽培に対しては、これまでの知見を活用したきめ細かな栽培管理が必要で、リアルタイムの生育形態診断・土壌診断を行い対応する施肥法を適用しなければならない。しかし、この場合にも被覆肥料の利用は可能と考えられる。すなわち、最低レベル養分(補償量)を常時維持するのに極めて有効な肥料と考えられる。そこそこの品質、収量を確保し、省力を重視しなければならないこれからの農業形態では被覆肥料の活用の場は多くあると思われる。

 溶出タイプの選択を誤ると残存養分を増大させたり養分の過不足を招き、環境負荷を高めるたり、生育抑制を引き起こす原因となる。この様なリスクはあるものの特性を理解し、土壌診断を活用することによりリスクは低減できる。

ハウスで深刻な養分過剰蓄積問題の大きな要因は土壌診断によらない経験的な施肥管理・有機物管理にあると考えている。被覆肥料の選択を適正に行い土壌診断を適切に利用することによって過剰蓄積問題は発生しないと思われる。

施設栽培土壌の富栄養化による深層土壌の養分評価については今後の検討課題である。

 

⑦ 要約

 1)トマト・ほうれんそうとも被覆肥料施用に対する生育反応は3年間ともほぼ同様な傾向を示した。慣行施肥量を全量被覆肥料に置き換え、全量基肥施用でほぼ慣行区と同程度の生育・収量が得られた。また、慣行施肥量に対して、トマトで30%、ほうれんそうで20%減肥した処理でもやや減収する程度で慣行から速効性肥料を同量減肥した慣行減肥処理よりもやや高い収量が得られた。

 2)収穫物の内部品質(トマト:糖度、酸度、ほうれんそう:硝酸、ビタミンC、糖)はいずれも慣行区と大差なく内部品質向上効果はあきらかでなかった。。

 3)土壌中の無機態窒素推移は慣行区よりもやや変動幅が小さく、被覆肥料からの窒素成分の溶出は順調であったことが示され土壌に対するストレスは小さかった。

 4)施肥窒素の利用率は慣行区と同程度であり、減肥処理でやや高まる傾向がみられたものの期待したほど高まらず、作条施用によっても大きくは高まらなかった。

 5)トマト収穫後にほうれんそうを2作無肥料で栽培し、残存肥料の評価を試みたが、被覆肥料区で旺盛な生育がみられ肥効成分の多量残存があったことが示された。このことから対象作物と被覆肥料の選択および速効性肥料との組み合わせを適正にすることにより大幅な減肥が可能になることが示唆された。

 6)追肥省略、20〜30%の減肥しても高額な被覆肥料の肥料費を解消するほど生産費の削減は出来なかった。

 

⑧成果の活用面と留意事項

1)本試験は被覆窒素質肥料(ロング424)を供試し、ハウス無加温普通栽培の作型で実施した。

2)対象作物によって被覆肥料の溶出型を選択することが重要である。

 

⑨残された問題とその対応

1)ハウス周年利用栽培における低温期の被覆肥料溶出特性把握

2)施肥効率の向上技術の検討

平成10年度新規課題「環境負荷軽減をめざした園芸作物の高度肥料利用技術の確立」で検討する。