成績概要書 (作成 平成10年1月)

課題の分類:北海道 生産環境 土壌肥料

研究課題名:農耕地における硝酸態窒素の残存許容量と流れ易さの区分
        −北海道農耕地土壌の窒素環境容量 Ver.1−
 (予算課題名:土壌保全対策事業「環境保全型栽培基準設定調査」)

予算区分:補助(土壌保全)

研究期間:平成5〜9年度

担当科:中央農試環境化学部土壌資源科・土壌生態科
      上川・十勝・根釧・道南農試研究部土壌肥料科
      天北農試研究部泥炭草地科

1.目 的

 北海道農耕地土壌の窒素環境容量を気象、土壌特性に基づいて検討・区分し、硝酸態窒素の環境負荷軽減のための流れ易さ区分図を作成する。

2.試験方法

1)余剰水量からみた硝酸態窒素の残存許容量(窒素環境容量 Ver.1)
 GEPデータから作成された全道の余剰水量区分図および施用硝酸態窒素の1m土層内の残存率から、土壌浸透水中の硝酸態窒素濃度を10mgL-1に維持しうる硝酸態窒素の残存許容量を検討する。

2)硝酸態窒素の流れ易さ区分図の作成
 施用硝酸態窒素の作土層及び0〜60cm土層からの流出率と降水量、降水強度との関係から、硝酸態窒素の流れ易さ区分図を作成する。

調査方法:全道を8ブロックに分け、各ブロックについて2〜3タイプの代表土壌に、蒸発散量が低下する8月下旬から9月に硝酸態窒素を施用した。窒素施用後、積算降水量50、100、200、300mm程度時及び翌春に、1m土層内の硝酸態窒素の動態を調査し、20cm土層毎の残存率または流出率を測定した。

3.結果の概要

1) 余剰水量からみた硝酸態窒素の残存許容量(窒素環境容量 Ver.1)

①作土層の残存硝酸態窒素は1m土層内の全孔隙量に相当する余剰水によって概ね1m土層以深に流出した(図1)ことから、土壌の最大窒素保持量は「余剰水中硝酸態窒素濃度として10mgL-1以下に相当する窒素量」と「難移動性硝酸態窒素量」の合計量とした。1m土層深までの「難移動性硝酸態窒素量」は3〜5kg/10a程度と僅かであり(表1)、既耕地ではすでに満たされているとして「土壌の最大窒素保持量」から除いた。

②全余剰水が1m土層の全孔隙量を満たさない地域であっても、硝酸態窒素の1m土層内における残存率は年次間変動が大きかった。また全余剰水が1m土層内の全孔隙量を上回る地域でも、硝酸態窒素の一部が1m土層内に残存したが、残存する主要土層は40〜60cm以深と作物の主要根域外であった。このことから環境への負荷を最低限とするように硝酸態窒素残存許容量を設定することが望ましいと考えられた。

③以上の結果から、年間余剰水量を基礎にした「余剰水量からみた硝酸態窒素の残存許容量(窒素環境容量 Ver.1)」を設定した(図2)。

2) 硝酸態窒素の流れ易さ区分図の作成

①作土層からの硝酸態窒素の流出は、施用後1ヶ月程度の連続最大降水量が多い場合に大きく、土壌タイプ(火山性土と低地・台地土)の違いは確認されなかった。

②作土層からの硝酸態窒素の流出程度は土性によって区分され、火山性土: S>SL以上、低地・台地土: S>SL〜L>CL以上の順となった。

③以上の結果から、作土層からの硝酸態窒素流出は、作土の土性及び「容量因子」としての「5、9月の余剰水量」、「強度因子」としての「5、9月の連続最大降水量」に規制され、これらを組み合わせた「硝酸態窒素の作土層(0〜20cm)からの流出区分」を作成した(表2)。

④作物の主要根域を0〜60cm土層とした場合、施用された硝酸態窒素の0〜60cm土層からの流出程度は、未熟土>低地・台地土>火山性土の順であった。火山性土における0〜60cm土層からの硝酸態窒素の流出は、下層に存在するリン酸吸収係数の高い火山灰層の陰イオン吸着能により、100〜200mm程度の余剰水量では極めて小さかった。一方、低地・台地土では、余剰水量が100mm程度以下であっても連続最大降水量が30〜50mm程度以上であった場合、最大40%程度の硝酸態窒素が流出した。

⑤以上の結果から、作物の主要根域土層(0〜60cm)からの硝酸態窒素流出は、土壌タイプ及び「強度因子」としての「5、9月の連続最大降水量」に規制され、これらを組み合わせた「硝酸態窒素の作物主要根域土層(0〜60cm)からの流出区分」を作成した(表3)。


図1 土壌タイプ別の降水量係数(降水量/全孔隙量比)と硝酸態窒素残存率


図2 余剰水量からみた硝酸態窒素の残存許容量(窒素環境容量 Ver.1)

4.成果の活用面と留意点

1)本試験は畑地、露地野菜畑地、草地の鉱質土壌を対象とし、水田土壌は除いて取りまとめた。

2)土壌は硝酸態窒素にとって基本的に解放系であり、吸収され残った施肥窒素は大部分が環境に流出する。従って「北海道施肥標準」を遵守し、土壌窒素診断を実施した適正な施肥に努めること。

3)施用窒素の流れ易い土壌(例えば砂丘未熟土、火山放出物未熟土)では分施を基本とする。

4)流れ易さ区分における余剰水量は降水量からソ−ンスウェイト法によって求めた蒸発散位を差し引いて算出し、余剰水量100mmでの硝酸態窒素の土層内移動は、概ね20cm程度であることを目安とする。

5.残された問題点とその対応

1)今回の「余剰水量からみた硝酸態窒素の残存許容量(窒素環境容量 Ver.1)」には易分解性の作物残渣窒素、収穫期以降に放出される土壌窒素は考慮していない。また、1m以深に浸透する水の硝酸態窒素が10mgL-1以下であるか否かのモニタリングはなされていない。今後はこれら窒素の動態を考慮した改良、モニタリング手法の開発と確認が必要である。

2)今回、作成した「流れ易さ区分」には礫質土壌を対象とするまでには至らなかった。また泥炭質土壌は試験開始当初から除外して試験を遂行した。今後はこれら土壌に対する検討が必要である。