【指導参考事項】
1995161
成績概要書 (作成 平成10年1月)
課題の分類:北海道 生産環境 土壌肥料 204−4 研究課題名:米の性評価手法の開発と変動実態調査 (低アレルゲン米の評価・検定手法の確立) 予算区分:国費補助 研究期間:平成8〜12年度 担当科:中央農試農産化学部穀物利用科 協力・分担関係:長谷川クリニック |
1.目的
近年道内でも米アレルギー患者が増加し社会問題となっているが、米のアレルゲン性に影響する要因は完全に解明されてはいない。全国レベルの研究では、米のアレルゲンとしてグロブリン画分にある分子量16kDaの蛋白質が特定されており、この多少が米のアレルゲン性を左右する重要な要因と考えられている。
一方、道内では蛋白質の要因に加えて米品種の要因を指摘する臨床医が複数いるが、それについては統計的な実態すら明らかにされておらず、生化学的な解析は全くなされていない。
試験課題の最終報告(平成12年度予定)ではこれらさまざまな要因を整理し、総合的なアレルゲン性評価法を確立して北海道米の評価を行う事を目的としている。本中間報告では・蛋白質的要因に立脚したアレルゲン蛋白質の特異的な定量法を開発すること。・臨床医が指摘する品種的な要因に関して、その実態を統計的に明らかにし、今後の生化学的な解析の基礎資料とすることを目的とした。
2.方法
1)アレルゲン蛋白質の特異的定量法および評価手法の開発:患者血清を用いてアレルゲン蛋白質を特異 的に定量するための測定系について基本条件の検討、変動性解析をおこない妥当性を検証した。
2)米アレルギー患者の実態に関する調査:1996年12月〜1997年11月にかけて、札幌市にある長谷川クリ ニック(長谷川浩院長)を訪れた米アレルギー患者87名に対して、医師により実施されたアレルギー経歴 と品種に関する問診・アンケート調査を集計した。
3.結果の概要
(1)米に含まれるアレルゲン蛋白質の特異的定量法について検討した結果
1.アレルゲン蛋白質を特異的に、精度・再現性高く定量する測定法を開発した(図1)。
2.蛋白質的要因に関する3つの評価値を提案した(表1)。この評価値により、アレルゲン性についての品 種、土壌、栽培技術の評価や変動解析が可能になった。
3.アレルゲン性の容量因子であるグロブリン含量(GC)は、全蛋白含量と正の相関が認められることか ら、低蛋白米栽培技術はアレルゲン性の低減化に関しても有効となる可能性が示唆された(図2)。
4.精米歩合とアレルゲン性の関係について検討した結果、70%までの高度精白によりGCは玄米の約7割 に減少したのに対して、ARAおよびAIはさらに玄米の5%程度にまで低下したことから、米のアレルゲン 蛋白質は米粒表層に局在することが明らかとなった(図3)。
(2)米アレルギー患者に対して、アレルギー経歴と品種に関する調査を実施し集計した(表2)
5.高度精白米で症状が良かったとする患者の割合は6/6であった。これは、高度精白によるアレルゲン蛋 白質の低減効果が具体的症状に反映された結果と推察される。
6.一般品種の中ではゆきひかりを食べた場合に症状が良かったとする割合が、それ以外の品種より明ら かに高く、従来からの臨床医による指摘とも一致する。しかし、品種に関して全く逆の反応を示す患者も いることから、アレルゲン性の品種間差には各患者との交互作用が存在すると考えられる。
7.調査患者の96%は現在米を食べており、その内の71%はゆきひかりを選択していた。これは、米アレ ルギー患者にとって、ゆきひかりがきわめて要求度の高い重要な品種である実態を示している。
8.アレルゲン性の変動要因として、アレルゲン蛋白質量の多少以外に、水稲の品種間差に基づく要因の 存在が示唆された。この知見はこれまで未検討の部分であり、今後これらの解明に向けて非蛋白質的 な要因も検討に加えた生化学的な解析を進める必要性が示唆された。
4.成果の活用面と留意点
1)この成果は、一般のアレルギー患者に対して何らかの治療方針を提示するものではなく、医師および研 究者に対してアレルゲン性変動の実態に関する情報を提供し、研究上の参考とすることを目的としたもの である。
2)アレルゲン性の変動に関する要因は、患者側の状態にも依存することから、特定品種および高度精白米 の患者への投与効果は今後臨床試験を重ね検証する必要がある。
5.残された問題とその対応
1)特定品種および高度精白米の効果についての臨床試験
2)アレルゲン性の品種的変動要因についての生化学的な解析