1997162

成績概要書                  (作成 平成10年 1月)

課題の分類:
研究課題名:販売戦略強化に向けた道産野菜の機能性成分の評価
       キャベツ等の抗酸化力の測定と栽培条件による変動
         (野菜の機能性(三次機能)成分の実態調査)
予算区分:道費
研究期間:平7〜9年度
担当科:道南農試 研究部 土壌肥料科
協力・分担関係:なし  

1.目的

 北海道産野菜の機能性成分の実態を調査するとともに、その変動要因を解析し、機能性成分を制御する技術を開発するための基礎資料を得る。本試験では、成人病の予防効果および作物の保鮮性向上が期待される抗酸化力を対象成分とした。

2.方法

1)抗酸化力は、野菜抽出液添加時の過酸化脂質生成量(指数)で、指数が小さい程高い。

2)抗酸化力の実態調査:市販のアスパラガス、キャベツ、レタス、ブロッコリ−およびほうれんそうの抗酸化力を調査した。キャベツについては、1997年8、9月の2回、函館、東京、長野で、主要産地のキャベツを購入し抗酸化力の比較を行った。

3)抗酸化力の変動要因解析
 ①キャベツ:農家圃場で栽培条件・品種との関係を、農試 で窒素用量、夜温、収穫熟度および収穫後の日  数との関係を調査した。
 ②ほうれんそう:農試圃場で窒素・カリウム施肥と品種および栽培日数との関係を調査した。
 ③レタス:農試で品種、窒素施肥、収穫熟度および収穫後の日数との関係を調査した。

3.結果の概要

1)市販の野菜の抗酸化力は、アスパラガス>キャベツ、ブロッコリ−>ほうれんそう> レタスの順であった(図2)。

2)道産キャベツの抗酸化力は8月調査では本州主要産地のD、E県産品より、9月調査ではE県産品より高かった(表1)。8月では北の道府県産品ほど抗酸化力が高かった。

3)栽培条件と抗酸化力との関係は以下のようであった。

 (1)キャベツ:抗酸化力の実態を調査した結果、農家間差、個体間差は大きかった。外葉面積の大きい品    種、マルチ、トンネルを利用した順調な初期生育の確保および若採りは抗酸化力を高める上で重要であ   り、窒素減肥は抗酸化力を高めると考えられた。長期間のベタがけで抗酸化力は低下する可能性があり、  夜温が高いと明らかに、また収穫後日数の経過により抗酸化力は若干低下した(図3、表2)。

 (2)ほうれんそう:窒素およびカリウムの増肥は個体重を増加させ、抗酸化力を低下させた(図4)。生育速度   の遅い品種ほど抗酸化力は高かった。

 (3)レタス:「カルマ−MR」(葉重タイプ)では窒素の減肥および結球重の増大(キャベツ、ほうれんそうとは    逆)により抗酸化力は高まった。「オリンピア」(葉数タイプ)では、球重の増大は抗酸化力を低下させた    (表3)。窒素施肥量が少なく、抗酸化力が高かったレタスは収穫後の外観品質の劣化が小さかった(表4)。

4)以上のことから、野菜の抗酸化力は栽培条件で制御可能と考えられた。また、道産キャベツは府県産品に比較して抗酸化力が比較的高いが、栽培法の改善などによりこの特性をさらに向上できる(表5)。

 

リノ−ル酸 100mMクロロホルム溶液 0.5ml
TritonX-100 8%クロロホルム溶液 0.125ml
       ↓         

窒素ガス気流下、クロロホルムを除去
      ↓

エタノ−ル抽出液(5g+20ml)   0.2ml
      ↓

窒素ガス気流下、エタノ−ルを除去
      ↓

pH7.4 リン酸緩衝溶液      9ml
      ↓

AAPHリン酸緩衝溶液 10mM     1ml
      ↓

   37℃暗所で静置   
        ↓          

ロダン鉄法による過酸化脂質の定量
図1 作物体の抗酸化力測定フロ−チャ−ト

 


         アスパラガス           キャベツ    ブロッ ほう  レタス
                                  コリー れん
                                  花茎  そう
図2 市販農産物の抗酸化力の実態(1997年5月)

 


図3 キャベツの抗酸化力と球重、窒素施肥および収穫熟度の関係
   注 図中矢印は窒素施肥量の増加に対する抗酸化力変動の変動の方向を示す。

 


図4 ほうれんそうの抗酸化力と10本重の関係
  注 図中矢印は窒素施肥量、カリウム施肥量の増加に対する抗酸化力の変動の方向を示す。

表1 キャベツの抗酸化力の産地間差
購入地点    北   ←    産地    →    南   
北海道 A
 8 月 購 入 品 
東京 39.0(3)b - 48.1(3)b 37.5(1) 66.9(8)a 64.5(1) 75.3(1) 74.9(1)
長野 - - - - 54.7(4)a 61.0(5)a - -
函館 45.0(13)b - - - - - - 39.1(1)
 9 月 購 入 品 
東京 38.6(2)b 44.5(2)b 48.4(1) 33.3(1) 38.9(5)b 52.9(4)a 41.0(2)b 40.2(1)
長野 - - - - 34.8(4)b 47.2(9)b - -
函館 40.8(11)b - - - - - - -
注 1)産地の配置は左から右に向けて北に位置する県から南に位置する県とした。
  2)表中の( )内数字は、購入したキャベツの点数を示す。         
  3)分散分析を行った結果、同じアルファベットは有意差がなかったグル−プを、異なるアルファベット間では   危険率1%で有意差があることを示す。   

表2 夜間保温処理がキャベツの生育および抗酸化力に及ぼす影響
理区 球重 外葉重 抗酸化力 アスコルビン酸含量 Brix
(g) (g) (mg/100g) (%)
対照区 641 542 21.8 53.2 5.6
保温区 894 691 45.3 36.8 4.3

表3 レタスの抗酸化力の品種、窒素施肥量および栽培日数による変化
品種 窒素施肥量
(kg/10a)
結球重(g) 乾物率(%) 抗酸化力
30日 35日 40日 30 35 40 30 35 40
カルマ-MR 6 257 280 366 - 4.7 5.6 58.4 52.3 51.4
カルマ-MR 12 274 294 386 - 4.4 5.7 60.1 59.1 54.7
カルマ-MR 18 281 329 403 - 4.3 4.8 70.9 65.9 54.4
オリンピア 12 232 353 605 - 3.8 3.9 57.9 61.7 74.6
極早生シスコ 12 235 304 379 - 4.3 5.1 52.4 58.2 67.3

表4 レタスの抗酸化力と貯蔵後の外観品質評点の関係
品種 窒素施肥量
(kg/10a)
貯蔵前
抗酸化力
貯蔵後
外観品質評点
カルマ-MR 6 53 2.5
カルマ-MR 12 58 2.3
カルマ-MR 18 66 2.2

表5 キャベツの抗酸化力の向上方法
球重 窒素施肥量 マルチ・トンネルの利用
1kg以下 施肥量の低減 順調な初期生育の確保

4.成果の活用面と留意点

 1)本成果は、道産野菜の機能性成分の優位性に基づく差別化販売を図る上で有効である。
 2)変動要因の解析結果は、機能性成分の向上を図るために留意すべき点である。

5. 残された問題点とその対応

 1)抗酸化力が高い作物の抗酸化力変動要因の解析
 2)抗酸化力を高めた野菜の疾病予防効果の確認