1997184

成績概要書     (作成 平成10年 1月)

課題の分類:北海道 総合研究 農業物理
        北海道 総合研究 農業経営
研究課題名:小麦穂収穫乾燥のシステム化
        (低アミロ小麦回避技術の確立 )
        -小麦穂収穫乾燥調製システムの実用化と成立条件-
予算区分:受 託
研究期間:平成7年〜9年度
担当:十勝農試 研究部 農業機械科、経 営 科
協力・分担関係:中央農試穀物利用科  

1.目 的

 既存のコンバインの改造を前提とした穂収穫特性と、バレイショ貯蔵施設を利用した穂の乾燥特性を明らかにし、これらの穂収穫乾燥システムを実用化するための条件を検討する。

2.方 法

 1)試験場所:中川郡幕別町 軍岡、西猿別
 2)供試品種:「チホクコムギ」、「ホクシン」
 3)収穫乾燥様式:汎用コンバイン+通気床トラック+投込み脱穀(体系Ⅰ)図1
           普通型コンバイン+通風床バレイショ貯蔵庫+コンバイン脱穀(体系Ⅱ-a)+排藁梱包(体系Ⅱ-b)
 4)調査項目:収穫特性、乾燥特性、作業性、関連費用

3.結果の概要・要約

1)穂収穫体系

①普通型コンバインのフィードコンベヤ底面部に25cm×1.3mの開口部を設けエゼクタを装備して、脱穀部へ送られる直前の穂をターボブロワー(65m/min)により直径25cmのフレキシブルダクト内を空気搬送し、伴走するダンプトラックに積み込んだ。

②穂収穫時の総損失は、子実水分38.5〜30.7%、稈水分70〜53.8%、作業速度0.44m/sで4%程度であった。トラック受けした穂の回収率は60%程度で、残り約36%の穂はコンバインの脱穀部に送られ脱粒された後グレーンタンクに回収された(表1)。

③穂収穫能率は、回行に時間を要するアンローダ装置をけん引の体系-Ⅰで0.56ha/h、ha当りの投下労働時間は7.2man・h/haであった。体系-Ⅱは開口部の詰まり除去時間割合が19%と多く0.36ha/hで、ha当りの投下労働時間は8.4man・h/haであった(表2)。

2)穂の乾燥脱穀体系

①穂の堆積かさ密度は 80〜120kg/mで、通風貯蔵庫床に有孔ビニールネット(開孔径2mm)を敷き堆積する。施設収容量は床面積1㎡当たり堆積高さ0.65mで面積1a、1.5m高さでは2.3a程度である。

②子実の乾燥速度は通気床付トラックを利用し外気温度プラス 3〜4℃の加温通風で0.7%/h、既設のバレイショ貯蔵施設を利用した無加温通風で0.10〜0.12%/hであった。麦稈の乾燥速度は0.25〜0.36%/hであり(表3)、小麦粉の品質は堆積位置・部位別間に大きな差は認められなかった(表4)。

③普通型コンバインを利用する投げ込み脱穀の投下労働時間は3人作業で2.1h/haであり、フォーク付きローダ、フロワーコンベヤ付ダンプボックス等を利用し、排わらを同時に梱包した場合の脱穀能率は、4人作業で9.52ha/h(2.83ton/h)であった(表5)。

3)穂収穫乾燥システムの評価

①穂収穫乾燥システムは開発途上の技術であり、個々の工程には改良の余地が残る。現段階の技術水準 (穂の回収率60%、穂収穫の圃場作業能率0.36ha/h)で穂収穫乾燥システムが完成された場合、慣行子実収穫に比較しha当り28千円弱の収益減が見込まれる(図2)。

②技術改良、導入想定地域、麦価水準等の条件変動による収益性変化のシミュレーションから、次が示される。穂収穫乾燥システム導入による効果は、単収水準が高く穂発芽発生危険率の低い麦作安定地帯より、単収水準が低く穂発芽発生危険率の高い麦作不安定地帯において見込まれる。麦作不安定地帯において、穂収穫乾燥システムが慣行子実収穫を上回る収益性を実現するための技術的前提は、穂の回収率90%への向上、2割以上のコスト低減、そのもとでの穂収穫の作業能率向上である。また、麦価低下による収益性の悪化は、慣行子実収穫より穂収穫乾燥システムが大きく、麦価低下が想定される中では、穂収穫乾燥システム導入のリスクはより大きい。

4.成果の活用面と留意点

 ①成果の利活用場面
   穂発芽発生危険率の高い麦作不安定地帯
 ②普及上の留意点
   1)所有する機械・施設に応じた作業様式が組み立てられ、多様な機械化収穫体系となる。
   2)コンバインのグレーンタンクに回収した子実は、包皮粒や穂切れ、緑粒等を多く含むので、直ちにグリーンハウス内     に薄く広げるか、乾燥ビンに投入して常温通風を行う。
   3)バレイショ貯蔵施設を利用する場合は送風量をチェックする。
   4)想定する体系のもとで慣行子実収穫に比較してどの程度の収益差が生じるか試算を行う。

5.残された問題点とその対応

 ①コンバインを使用しない穂収穫法及び扱い容量の高密度化と高水分子実の収穫乾燥技術
 ②穂収穫乾燥システムの経営経済的諸条件を加味した実用性評価

表1  収穫作業精度
体系 速度
(m/s)
刈高
(cm)
刈残 落穂 落粒 飛散・未脱
 (%)  (%)  (%)    (%)
収量総損失
  (%)
未脱穂    脱粒
回収率(%)  回収率(%
Ⅰ  0.40 70.0  0.5  3.3  0.0    0.0 3.8(11〜2) 69(55〜84) 22(34〜14)
0.43 60.6  0.4  3.3  0.1    0.3 4.1(15〜2) 60(48〜90) 36(39〜 8)

表2  収穫作業能率
体系 作業速度
(m/s)
所要時間
(min)
作業人員
(人)
作業能率
(a/h)
投下労働時間
(h/ha)
   作 業 内 訳  (%)
直進 回行 待機 停止・調整
面 積
 (a)
0.40 32 4 55.9 7.2 44.6  45.9   4.4     5.1 29.8
0.44 102 3 35.6 8.4 56.1  13.9  11.3    18.7 60.2
注)Ⅰ圃場は三角地

表3  乾燥特性
体 系
堆積寸法  長さ(m)
        幅 (m)
4.00 3.75
2.00 1.94
30.0
2.7
堆積高さ    (m) 0.60 0.67 0.65
張り込み量  (kg) 380  570 5387
かさ密度  (kg/m) 79.2 116.9 102.3
通風時間    (h) 16  16 140
穀層通過風速 (m/s) 2.51 1.82 1.46→2.43
子実水分 乾燥前(%)
       乾燥後(%)
31.7 31.7
20.4 20.6
38.1
20.6
子実乾燥速度 (%/h) 0.71 0.69 0.13
備  考 通気床トラック バレイショ貯蔵

表4  小麦粉の品質
区分 蛋白%  製粉  アミログラム  α-アミラーゼ    粉   色     成  収
(全粒)   歩留り 粘度     活性                  熟  穫
13.5%wb  (%)   (B.U)             L*    a*    b*  期  日
A
B
C
 9.3    72.9   920     1.45     83.08 -1.24 13.44   H7
 9.7    70.9   817     1.36     82.87 -1.20 13.06 7/24 7/27
 9.3    70.6   905     1.40     81.71 -1.10 12.51 チホクコムギ
A
B
C
11.2    71.4   380     2.83     80.55 -0.92 13.48   H8
10.8    70.9   400     2.74     80.62 -0.93 13.16 8/1 8/7
11.1    72.1   360     2.92     80.55 -0.92 13.18 チホクコムギ
A
B
C
 9.8    63.8   1295     1.24     83.05 -1.57 13.97   H9
 9.4    62.8   1279     1.16     82.68 -1.61 13.49 7/24 7/28
 9.6    64.3   1270     1.51     81.10 -1.47 13.39  ホクシン 
注)A:はさ掛け,B:穂乾燥,C:生脱乾燥

表5  穂の脱穀能率
体系 総穂量
(kg)
脱穀時間
(min)
子実重量
(kg)
稈重量
(kg)
脱穀能率
(t/h) (ha/h)
人数
(人)
投下労働時間
(h/ha)
備考
950 9 420 530  6.3  1.4 3 2.1 投げ込み
3,624 77 2,784 840  2.8  0.4 4 9.5ダンプボック