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成績概要書 (作成 平成10年1月)
課題の分類: 研究課題名:乳牛舎用ゴムチップマットレスによる牛床改善効果 (廃タイヤチップを利用した牛床用マットレスの開発) 予算区分:受託 研究期間:平成7〜8年度 担当:根釧農試 研究部 酪農施設科 協力分担:な し |
1.目的
乳牛舎用ゴムチップマットレスには、自家施工が可能なゴムチップばら詰め方式と、表面をシートで被覆する筒状方式とがある。それぞれの方式で作られたマットレスの構造と耐久性、ゴムチップおよびシートの素材特性を明らかにするとともに、ゴムチップマットレス設置前後での乳牛行動解析によりマットレス設置による牛床改善効果を検討する。
2.方法
1)ゴムチップマットレスの構造と耐久性
①シートおよびゴムチップの素材特性(根釧農試)
②ばら詰め方式による牛床用マットレス(根釧農試育成牛試験牛舎)
③筒状方式による牛床用マットレス(根釧農試総合試験牛舎および現地農家)
2)ゴムチップマットレス設置牛舎における乳牛行動解析
①つなぎ牛舎における乳牛行動解析(根釧農試総合試験牛舎)
②フリーストール牛舎における乳牛行動解析(根釧農試総合試験牛舎)
③利用素材別の乳牛行動解析(根釧農試乾乳牛舎)
3.結果の概要
1)ゴムチップマットレス用被覆シートの強度は、10mm幅の引っ張り破断強度が50kgf(カタログ値で185×185kgf/3cm)以上で、かぎ裂きしにくく裁断面の糸がほつれないものが望ましい。
2)ゴムチップばら詰め方式マットレス(育成牛用)のゴムチップ充填量は平均71kg/頭であった。利用5か月後の牛床後部のゴムチップ水分は防水区で1.8%、防水がない区ではふん尿の混入により16.0%と高かった。このことからゴムチップマットレス用被覆シートは防水性が必要である。
3)被覆シートをしない試作筒状マットレスの単独設置では、谷部分の除糞ができずマットレスの下にふん尿、敷料が堆積すること、筒用シートの防水性がないためマットレスを乾燥状態に保てないこと等により連続使用は難しかった。現地農家において市販マットレスと「試作筒状マットレス+防水シート」、「ゴムチップばら詰め+標準シート」について検討した。試作筒状マットレスでも表面に防水性シートで被覆することにより内部の汚染が防止されるので十分利用が可能であった。
4)根釧農試つなぎ牛舎に筒状ゴムチップマットレスを設置して乳牛行動を検討した。乳牛の起立横臥パターンは管理作業に制約され、マットレス設置前後で大きな変化はみられなかった。しかし、牛床毎の横臥時間割合は平均で7%設置後が高くなり牛床改善効果はあると考えられる。
5)根釧農試フリーストール牛舎では、筒状ゴムチップマットレス設置により平均横臥頭数および横臥率が増加した。牛床毎の横臥時間割合は平均で10.3%向上した。連続横臥時間は設置前48分から設置後73分へ延長され、連続横臥時間も60〜180分の範囲の増加がみられた。フリーストール牛舎においてはマットレス設置により高い牛床改善効果がみられた。
6)乾乳牛舎において粒状と粉状のゴムチップ(約100kg/頭)を用いたばら詰めマットレスを設置した。設置直後の牛床利用状況は粒状の方が横臥時間割合が有意に高く(有意水準1%)、牛床改善効果が高かった。また、半年利用後におけるマットレス表面の高低差は粒状ゴムチップが大きく120mmで、粉状ゴムチップは83mmであった。いずれの区でも起立横臥動作に問題はなかったが、ゴムチップの均平作業が必要と考えられる。この時の平均横臥時間割合は設置直後の42.6%から46.0%に増加しており、粉状、粒状にかかわらずゴムチップマットレスによる牛床改善効果は維持されていた。
表1 マットレス用シート強度(破断部幅10mm、引っ張り速度10mm/分)
種類 | 引っ張り | かぎ裂き | ||
破断強度(kgf) | 破断時の伸び(mm) | 破断強度(kgf) | 破断時の伸び(mm) | |
標準シート | 98 | 19 | −(糸抜け) | − |
網状シート | 48 | 20 | 5.0 | 15 |
防水①シート | 46 | 17 | 9.5 | 29 |
市販① | 59 | 37 | 34 | 33 |
市販② | 175 | 22 | −(糸抜け) | − |
表2 5カ月使用後のゴムチップ水分(%)
採取位置 | 牛床前 | 牛床中央 | 牛床後部 | 未使用 |
防水なし | 2.0 | 10.5 | 16.0 | 1.1 |
防水あり | 1.3 | 1.6 | 1.8 | 1.1 |
表3 つなぎ牛舎での牛床位置別の横臥時間割合(%、筒状マットレス設置)
牛床位置 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 9 | 牛床全体 | 牛床2を除く | ||
平均 | 標準偏差 | 平均 | 標準偏差 | |||||||||
マットレス | 47.0 | 10.5 | 62.6 | 62.5 | 65.7 | 45.8 | 66.3 | 63.9 | 53.0 | 19.0 | 59.1 | 8.8 |
設置前 | 33.5 | 30.6 | 54.4 | 56.2 | 49.4 | 44.8 | 59.9 | 39.2 | 46.0 | 10.8 | 48.2 | 9.6 |
表4 フリーストール牛舎における平均横臥時間割合と連続横臥時間(筒状マットレス設置)
区分 | マットレス設置前 | マットレス設置後 | ||
全牛床平均 | 標準偏差 | 設置牛床平均 | 標準偏差 | |
横臥時間割合(%) | 31.0 | 10.29 | 41.3 | 7.67 |
平均連続横臥時間(分) | 47.7 | − | 73.3 | − |
表5 乾乳牛によるマットレス設置条件による横臥時間割合(%、ばら詰めマットレス設置)
区分 | 牛床全体 | 牛床1〜9(粒状ゴムチップ) | 牛床10〜15(粉状ゴムチップ) | |||
平均 | 標準偏差 | 平均 | 標準偏差 | 平均 | 標準偏差 | |
オガクズH6 | 40.0 | 12.1 | 37.0 | 13.9 | 44.5 | 8.0 |
マットレスH6 | 42.6 | 9.0 | 48.0 | 5.4 | 34.4 | 7.2 |
マットレスH9 | 46.0 | 18.0 | 52.5 | 11.9 | 36.3 | 22.2 |
4.成果の活用面と留意点
1)脚に付いたふん尿を除去するため、マットレス設置牛床でも少量の敷料が必要である。
2)つなぎ牛舎の場合にはカウトレーナ等によりふん尿が牛床上に落下しないように管理し、敷料の交換、ふ ん尿の除去等基本的な牛床管理を実施する。
3)既存牛舎にマットレスを設置する場合には、設置後の隔柵高さ、ネックレール位等の調整をしマットレス 設置により乳牛の横臥空間が制約されないようにする。
5.残された問題とその対応
1)被覆シートの具体的な耐用年数は不明である。
2)被覆シート種類と敷料使用量による擦過傷の発症度合いの検討。
3)不要となったゴムチップマットレスの処理方法。