成績概要書( 平成10年1月 )

課題の分類:農業工学 農用地 水利用 V-2
        北海道 総合研究 農業物理

研究課題名:寒地水田の水管理の実態と省力的な給水栓の試作調査
       (良質安定化のための省力的用排水管理システムの確立)

予算区分:道費

研究実施年度・研究期間:継 平6年(平成6〜9年)

担 当:中央農試農業土木部農村環境科

協力・分担関係:な  し

1.目   的

 本道における稲作の冷害回避の技術としては、間断かんがい、深水かんがい等の水管理は欠かせない。また現在では水利用の形態も変化して、水需要の集中・逼迫化・用水不足という問題も発生している。本研究の目的は、現地の水管理の実態と問題点を把握し、自動給水栓の新技術を取り入れた、用水の省力的かつ効率的な利用方法を検討するものである。

2.方法

 1)用水温・田水温・気温の変動傾向調査〜上川支庁管内近文、空知支庁管内北村・栗沢町
 2)開水路地区における水利用実態調査〜空知支庁管内北竜・長沼町
 3)開水路地区における自動止水栓の実用化試験〜空知支庁管内長沼町
 4)管水路地区における水利用実態調査〜空知支庁管内栗沢町
 5)管水路地区における全自動給水栓の実用化試験〜空知支庁管内栗沢町

3.結果の要約と概要

1)田水温に影響を与えない適切な取水時間帯は、用水と田水の温度差が最も少ないか、あるいはまた用水温の方が高い、おおむね20時から翌朝6時の夜間にかけてである。(図1,2)

2)低い用水温をかんがいする地区では、日照不足日を予測し、事前に圃場内を必要水位まで給水作業を完了しておくことが重要である。

3)早朝給水と深夜給水の水口付近の田水温を両者間で比較すると、前者に比べ後者の方が高い傾向が認められた。(図3)

4)早朝給水と夕方給水の、水口付近の田水温格差はほとんど認められなかった。(図4)

5)日中給水では、冷たい用水温の影響を受けて水口付近の田水温がかなり低下した。

6)開水路給水の場合は、深夜の用水利用が多いが、その際掛け流しかんがいのような用水ロスの事例が多く確認された。(図5)

7)自動止水栓の試作品を用いた実用化試験では、給水作業の省力化・労務節減効果が認められ、給水時間のローテーション化、並びに用水ロスの減少効果も期待出来る。

8)管水路給水の場合は早朝取水の例が多く、早朝に水需要が逼迫する場合が多かった。(図6)

9)改良型の自動給水栓を用いた実用化試験では、水管理作業の省力化・給水時間のローテーション化・設定水位の安定等の効果が得られた。(図6)


図1 石狩川上流部の田水温・用水温
図2 石狩川下流部の田水温・用水温

図3 早朝給水と深夜給水の比較

図4 早朝給水と夕方給水の比較

図5 開水路圃場での給水・排水状況

図6 管水路での時刻別給水状況

 

4.成果の活用点と留意点

 用水温と田水温の変動傾向は、各々の地域の気候・地形条件等によって異なるため、事前に該当する地域での、変動傾向の実態調査を行う必要がある。

 全自動給水栓、及び自動止水栓はまだ試作段階であり、今後改良を要する箇所もある。

 水田区画規模に対応した必要個数についてはその都度検討すべきである。

5.残された問題点とその対応

1)用水の絶対量が不足している地区や、また代かき期のような連続かんがいの行われている時期の用水不足については未検討であり、別な手法が必要と思われる。