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成績概要書 (作成平成10年1月)
課題の分類: 研究課題名:生態系に配慮した自然石護岸排水路の環境変化 (生態系に配慮した排水路の整備計画手法の開発) 予算区分:道単 研究期間:平成7〜9年度 担当科:中央農試 農業土木部農村環境科 協力・分担関係:なし |
1.目的
本試験では、生態系に配慮した排水路の整備計画手法の確立を図るための基礎的知見を得ることを目的として、①生物にとって重要な河畔林の水温抑制効果、②整備前の生物の生息と整備後1年経過した後の状況から生物の生息環境要因、③植生の比較による1年経過までの実態、④農業用としての排水路機能の経年変化を調査し、今後の河川改修工事に当たっての留意事項を検討した。
2.方法
1)試験地:道営畑地帯総合整備事業(富良野市)における第4号明渠排水路(図1)
2)試験項目:水温、魚の生息、カワシンジュガイの生息、底生生物、植生、排水路機能の調査
3.結果の概要
1)平成7年の水温測定調査から、施工区間(河畔林が疎)における上流と下流の水温差は未施工区間(河畔林が密)の2倍強あり、また平成7年の未施工区間における施工前後の水温差の格差が2.9℃であり、河畔林の水温抑制効果が明らかになった。(表1)
2)アメマスの生息において生息密度が淵が瀬の4〜6倍強になり、淵の生息数に与える影響が明らかになった。(図2)また、施工後においては淵の水深が大きくなり、アメマスの生息数及び個体形状にとって増大の方向に作用することが示唆された。
3)カワシンジュガイの生息環境としては、底質に特徴が見られ、D50(粒径加積曲線において50%通過に相当する粒径)が0.42〜2.0m(粗砂)の粒径に生息が多く見られた。(図3) また、生息が確認されたほとんどの底質の重量百分率においてO.42〜2,Omの割合が20%以上になり、貝が10個体以上確認された底質においては、0.42〜0.84㎜が15%以上になり、貝の生息における底質条件が示唆された。
4)植生においては草高で比較すると、施工後くH8年)のほうが施工前(H7年)より、調査時期が1ヶ月程遅いのにも関わらず小さかった。これは、施工の影響と考えられる。また、出現率の多い(10%以上)植物のうち帰化率を求めると、平成7年が8%、平成8年が40%になり、今後は帰化植物を中心として推移していくものと考えられた。
5)底生生物については施工後の湿重量に減少が見られ、施工の影響が考えられた。全体としてミミズ類などあまり水質条件の良好で無い河川に見られる生物が多かった。
6)排水路断面の経年変化(3年間)による断面狭窄は、今のところ計画洪水量流下に対しては支障が無い。(表2)また、河床の中心高の変動は!0cm以内に納まっており、経年変化により海砂等の影響で切り深の確保が難しい状況は今のところ無いと考えられた。
表2 H6年とH9年における断面積と流下能力の比較
断面積(m3) | 流下能力(m3) | |
H6年 | 2.02 | 1.46 |
H9年 | 1.90 | 1.37 |
4.成果の活用面と留意点
1)生態系に配慮した排水路の計画・整備における参考知見として、また受益農家に対する説明資料になる。
2)農村における水辺空間保全に関する環境教育や村づくりの参考になる。
5.残された問題とその対応
1)生物の生息調査及び排水路機能の調査とも施工後1年の経過でしかなく、その評価と計画手法の確立に向けては、今後さらなる継続調査が必要である。
2)本試験は富良野市の一排水路においての試験であるため、今後は他の工法や手法を用いた排水路の整備計画手法の確立を図ることが必要である。