1997224

成績概要書 (平成10年1月)

課題の分類:
研究課題名:チリカブリダニを導入したきゅうり栽培におけるワタアブラムシの防除法
   (植物防疫高度防除技術推進特別対策事業)
   −(1)多角的防除技術の体系化および実用化−
予算区分:国費補助
研究期間:平成7〜9年
担当科:中央農試病虫部害虫科
担当者:橋本庸三,中尾弘志
協力分担関係:  

1.目的

 施設栽培のきゅうりに発生するナミハダニの防除手段として生物農薬であるチリカブリダニを導入する場合、同時に発生するワタアブラムシをどのように管理するかが問題となるが、チリカブリダニに対して影響の少ないワタアブラムシの防除手段が少なく、それがチリカブリダニ導入のネックになっている。そこで、ワタアブラムシに対して防除効果があり、かつチリカブリダニに対して影響の少ない防除手段をスクリーニングし、使用方法を検討した。

 

2.方法

 1)ワタアブラムシに対する防除効果の確認
 2)非標的生物に与える影響
 3)チリカブリダニを導入した場合のワタアブラムシの防除体系

 

3.結果の概要

 1)ワタアブラムシに対する防除効果の確認
   ①Verticillium lecanii 製剤の防除効果は不安定であり、防除効果の発現までに時間がかかることなどもあって実用性は低いと判断された。
   ②F2株培養液は、防除効果はすぐ現れたが、残効は短かった。
   ③オレイン酸ナトリウム液剤は、散布直後から防除効果は見られたが、直接かからなければ効果がないので残効は短かった。
   ④ピメトロジン水和剤は半翅目に特異的に殺虫活性を示す殺虫剤であるので、アブラムシに対しても防除効果は高かった。
   ⑤以上の結果からワタアブラムシに対する防除手段として、F2株培養液、オレイン酸ナトリウム液剤およびピメトロジン水和剤を選抜した。

 2)非標的生物に与える影響
   ①F2株培養液はナミハダニとチリカブリダニの両種に対して活性が認められたが、卵に対する影響は少ないと思われた。アブラムシの捕食性天敵類に対しても影響が見られた。
   ②オレイン酸ナトリウム液剤は物理的な殺虫特性を持つ殺虫剤なので、微小な昆虫類では直接散布液がかかると残効が短いものの活性を示し、ナミハダニとチリカブリダニの両種に対しても影響を示した。また、捕食性天敵類であっても微小昆虫類には影響があると考えられる。
   ③ピメトロジン水和剤は、殺虫スペクトラムがごく限られていて、ナミハダニやチリカブリダニ、アブラムシの捕食性天敵類にはほとんど影響なかった。
   ④以上の結果から、F2株培養液とオレイン酸ナトリウム液剤をワタアブラムシの防除手段として使用する場合は、チリカブリダニとの時間的、空間的隔離が必要である。

 3)チリカブリダニを導入した場合のワタアブラムシ防除体系
   ①ワタアブラムシに対する防除効果および非標的生物に及ぼす影響、また農薬登録などを含めて実用性が高いことなどから、チリカブリダニを導入した場合のワタアブラムシの防除手段としてオレイン酸ナトリウム液剤およびピメトロジン水和剤の利用が考えられた。また、実際場面では粒剤の株元施用も行われていることから、これらの技術を組み込んだ実証試験を実施した。
   ②オレイン酸ナトリウム液剤は、チリカブリダニとナミハダニに対して活性が認められるので、チリカブリダニを導入する場合は、直接散布液がかからないような時間的な隔離が必要である。ただし、隔離の時間はわずかで良いと思われる。ワタアブラムシに対しては防除効果が認められるものの、残効が短いという欠点があることから、発生初期の低密度時期に使用するのが良いと思われる。
   ③ピメトロジン水和剤は、ワタアブラムシに対して高い防除効果が認められ、また、チリカブリダニに対してはほとんど影響が認められないので、チリカブリダニを導入した場合でもアブラムシの防除手段として防除時期を意識せず使用できる。
   ④以上の結果から、イミダクロプリド粒剤やオレイン酸ナトリウム液剤などはワタアブラムシの発生初期の防除手段として使用し、チリカブリダニを導入してからはピメトロジン水和剤を使用するのが効率的な防除体系であると考えられる。

4.成果の活用面と留意点

 1)本成績は、チリカブリダニを導入する場合のワタアブラムシの防除法として活用する。
 2)ピメトロジン水和剤3000倍は、きゅうりのワタアブラムシに対して未登録である。
 3)同一薬剤の連用は薬剤抵抗性を招きやすいので避ける。
 4)殺虫細菌のF2株は、微生物農薬として未登録である。

 

5.残された問題と対応

 1)生物農薬(含む微生物農薬)の登録促進