成績概要書  (作成)

課題の分類:

研究課題名:ほうれんそうのべと病に対する品種反応と化学的初期防除技術
       (ホウレンソウべと病の発生生態解明と防除対策)

予算区分:道費

研究期間:平成6〜9年

担当:道南農試 研究部 病虫科

協力・分担関係:

1.目的

 北海道におけるほうれんそうのべと病菌のレース、発生生態、新有効薬剤とその効果的使用法を明らかにすることにより防除対策を確立する。

2.方法

 ①べと病菌の採取およびレース検定
 ②べと病菌レース3および4に対する品種反応試験
 ③伝染環としての分生子の感染条件の検討
 ④新有効薬剤による防除試験

3.結果の概要

(1)北海道におけるほうれんそうのべと病菌のレース

 渡島管内5菌株、桧山管内2菌株、上川管内1菌株の計8菌株についてレース検定を行ったところ、桧山管内から採取した1菌株がレース3であったが、他の菌株はすべてレース4であった。

(2)べと病菌レース3および4に対する品種反応

 ほうれんそう84品種、系統についてべと病レース3および4に対する反応の検定を行ったところレース4に対して22品種が真性抵抗性、47品種が罹病性品種であった。また、中間的な発病を示した15品種には圃場抵抗性の品種が含まれると考えられた。

(3)発生生態 

 ①夜間の多湿条件はべと病の発病を助長した。
 ②分生子による土壌伝染は認められなかった。
 ③ハウス内におけるべと病の発生は接種後9日前後で初発し、初発葉に形成された大量の分生子が感染し た株が発病するころ(感染後18日前後)から急激に広がると推定される。

(4)薬剤防除 

①マンゼブ水和剤500倍、ポリカーバメート水和剤500倍、マンゼブ・メタラキシル水和剤500倍の茎葉散布は、既存の登録農薬に比較し、明らかに高い防除効果があった。その効果は20〜30日間続き、薬剤散布後に展開した葉にも高い効果が認められた。

②マンゼブ剤は薬剤の付着していない葉にも防除効果が認められることから、ほうれんそうに全身抵抗性を誘導していると考えられる。また、ポリカーバメート剤はマンゼブ剤に構造の似た剤であることから同様の作用があると思われる。

③子葉期、本葉2葉期の2回、マンゼブ剤あるいはポリカーバメート剤を散布することで収穫時まで高い防除効果が実証された。この方法は使用薬剤が浸透移行性の無い剤であり、収穫される葉には散布しないため、クリーンな防除法といえる。

 


 図1 べと病菌レース3、4に対するほうれんそうの品種反応

 表1 供試薬剤
供試薬剤 希釈倍数
 1 アゾキシストロビン水和剤(20%)

2000

 2 クレソキシムメチル水和剤(47%) 3000
 3 フルアジナム水和剤(50%) 2000
 4 TPN・シモキサニル水和剤F(32、12%) 1000
 5 マンゼブ・メタラキシル水和剤(55、10%) 1000
 6 マンゼブ水和剤(75%) 1000
 7 カスガマイシン・銅水和剤(5.0、45%) 1000
 8 オキサジキシル・TPN水和F(6.4、32%) 1000
 9

トリアジン水和剤(50%)

 500
10

ポリカーバメイト水和剤(75%)

 500
11 ホセチル水和剤(80%) 1500
                                        


図2 ハウス内でのべと病の発病推移(病株率)


 図3 べと病に対する薬剤の効果

表2 マンゼブ水和剤、ポリカーバメート水和剤を用いた実証試験
供試薬剤 希釈倍数 実証試験1(R3) 実証試験2(R4) 実証試験3(R4)
発病株率 発病度 発病株率 発病度 発病株率 発病度

マンゼブ水和剤(75%)

500倍 1.7% 0.4 7.2 1.8 5.0 1.3

ポリカーバメート水和剤(75%)

500倍 6.7% 1.7 8.3 2.1
無処理 91.7 18.8 84.4 21.1 100 29.2
 注.第1回薬散:子葉期、第2回薬散:本葉2葉期、接種:第1回薬散後の子葉期、調査:収穫期

 

4.成果の活用面と留意点

 1)ほうれんそうのべと病の防除対策には抵抗性品種の栽培を基本とする。
 2)罹病性品種を低温多湿下など多発環境で栽培せざるを得ない場合には、化学的防除技術を利用する。
 3)マンゼブ水和剤、ポリカーバメート水和剤、マンゼブ・メタラキシル水和剤はほうれんそうに対して未登録で  ある。

5.残された問題点

 べと病の卵胞子の生態の解明

 新レース発生機構の解明