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 成績概要書                (作成 平成10年1月) 

研究課題名:卵寄生蜂の増殖技術の確立とヨトウガの密度低減効果 
       (卵寄生蜂活用によるヨトウガの密度制御技術確立試験)
予算区分:道 費
研究期間:平成6〜9年
担当科:北見農試 研究部 病虫科 
     十勝農試研究部病虫科
協力・分担関係:北海道病害虫防除所予察課

1.目的

 昆虫の卵に寄生するタマゴバチの増殖技術を確立する。
 タマゴバチのてん菜ほ場への放飼によるヨトウガの密度制御技術を確立する。

2.方法

 1)てん菜ほ場におけるタマゴバチの発生状況調査
   無防除てん菜ほ、てん菜の一般栽培ほ場におけるタマゴバチの発生状況調査
 2)卵寄生蜂の大量増殖技術の確立
   ヨトウガの大量増殖、タマゴバチの増殖
 3)タマゴバチの放飼によるてん菜のヨトウガの密度抑制技術の確立
   放飼間隔の検討、タマゴバチの大量放飼による防除効果の検討

3.結果の概要・要約

 1)道内13ヶ所のてん菜ほ場20筆において、ヨトウガ卵塊へのタマゴバチの寄生状況を調査した。一般ほ場    全体での寄生卵塊率は約30%だった。
 2)ヨトウガ第2世代卵塊に寄生していたタマゴバチは、いずれもメアカタマゴバチ、キイロタマゴバチに近縁    な種であり、複数種が含まれていた。
 3)人工飼料を使用したヨトウガの大量増殖法を検討した。その結果、ヨトウガ卵から成虫までの生存率は    44%であった。
 4)ヨトウガ雌成虫1頭あたり約1000卵が得られた。卵から次世代卵までの増殖率は220倍だった。
 5)ヨトウガ卵を寄主としたタマゴバチの増殖法を検討した。タマゴバチの接種倍率7.2倍で、接種頭数の7.1    倍の次世代成虫が得られた。
 6)ヨトウガ卵1粒あたりのタマゴバチ羽化頭数は1.8頭で、羽化率は80%であった。性比を0.5とすると、寄生卵   100卵から羽化するタマゴバチ頭数は72頭と概算された。
 7)以上の結果をまとめて、タマゴバチの増殖計画を作成した(図1)。
 8)てん菜ほ場にタマゴバチを放飼する際の放飼地点間の距離は、5m程度であれば、高い寄生率が確認さ   れた(表1)。
 9)タマゴバチの放飼開始は、フェロモントラップによるヨトウガ雄成虫の誘殺が認められたら直ちに行うのが   最も効果的であると考えられた。
 10)バイオトップ社(フランス)製造のタマゴバチカプセルをヨトウガの産卵期間に1回・1haあたり600個(雌成    虫数33万8千頭/1ha)相当を2週間間隔で放飼することにより、ヨトウガ卵の寄生率を高め、てん菜の被    害を軽減することが可能であった(表2)。


ヨトウガ卵→1、2令幼虫→6令幼虫→ 蛹 → 成虫140頭  →卵70000卵←タマゴバチ
 277卵    236頭   184頭  165頭  雄70、雌70頭    ↓   寄生卵10000卵
    (85.4%)  (78%)   (90%)  (85%)    (1000卵/♀) ↓   (倍率7.1倍)
卵14000粒
タマゴバチ雌成虫
10000頭
×5回
 図1 タマゴバチ増殖計画[増殖目標:(雌成虫1万頭/10a)×5回放飼の場合]

 表1 卵トラップの放飼地点からの距離とタマゴバチによる寄生率(%)
距 離 卵トラップ
設置数
第1世代(6/22放飼) 第2世代(8/21放飼)
6/22-24 24-26 8/21-23 23-25
 2m
 5m
10m
15m
  8
  8
  8
  8
  100
  38
   0
   0
50
25
0
0
   75
   25
   25
   13
25
0
13
0
*:卵トラップの設置期間

 表2 ヨトウガによるてん菜の被害の推移とタマゴバチによる寄生状況(長沼町)
  産卵密度 被害程度指数(上段)・被害株率(下段) 寄生状況 6/30,7/8
7.14 7.23 7.28
放飼区
(6/13,27放飼)
7.7 13.4(44.5)
46.3
22.7(57.8)
67.7
27.5(56.6)
73.3
1: 82.6%
2: 13.0
3: 4.3
無放飼区 8.7 30.1
82.7
39.3
90.0
48.6
94.0
1: 72.2%
2: 27.8
3: 0
 (参考)
無防除無放飼
ほ場  
10.7   35.0
92.5
57.4
99.5
66.5
100
1: 36.0%
2: −
3: −  
放飼月日:6/13, 27
 a:卵塊/50株
 b:発生予察事業調査基準による
 c: 1:寄生卵塊、2:ふ化卵塊、3:未ふ化
 d:( ):対無放飼区比(%)
 e:放飼、無放飼区から50m隔たるほ場

4.成果の活用面と留意点                          

 1)本課題で示されたヨトウガ卵によるタマゴバチの増殖体系を活用することにより、放飼のためのタマゴバ    チの計画的な大量増殖やタマゴバチ系統の維持が可能である。
 2)2週間あたりタマゴバチ雌成虫を33万8千頭/1ha相当数放飼することによって、てん菜のヨトウガに対する   寄生率を高め、ヨトウガによる被害を軽減することが可能である。
 3)本成績で示された事項に留意して、ほ場におけるタマゴバチの放飼による防除効果を判定できる。
 4)バイオトップ社製造のタマゴバチは、農薬未登録である。

5.残された問題とその対応

 1)良質なタマゴバチ系統探索のための検定手法の確立
 2)北海道において、てん菜を始めとする各種作物の害虫に対して適したタマゴバチ
   系統の探索
 3)より効果的なタマゴバチの放飼方法、放飼回数の検討
 4)大量放飼に向けたタマゴバチの大量増殖体制の整備
 5)導入天敵放飼の土着天敵などに対する影響の評価