1997229
成績概要書 (作成 平成10年1月)
研究課題名:ハスカップのナガチャコガネの性フェロモンを利用した防除法の開発 (性フェロモンを利用した新防除技術の確立) 予算区分:道 費 研究期間:平成5〜8年 担当科:中央農試 病虫部 害虫科 協力・分担関係:農環研昆虫行動研 |
1.目 的
ナガチャコガネの性フェロモン物質を同定し、それを利用した性フェロモントラップ、およびハスカップにおける大量誘殺法による防除法を開発する。
2.方 法
(1)ナガチャコガネの生態及び被害実態(発生生態、有筋率、被害他)
(2)ナガチャコガネの性フェロモン物質の同定
(抽出、単離、生物検定、同定、化学合成、合成品の誘引性)
(3)合成性フェロモンを利用した防除法の開発
(a)性フェロモントラップの開発(量、セプタム、トラップ、発生消長、発生量)
(b)大量誘殺法の開発(大量誘殺法の適用性、トラップおよびテックス板による大量誘殺法)
3.結果の概要
(1)ナガチャコガネの生態及び被害実態
ナガチャコガネ成虫は6月下旬から7月下旬に出現する。被害は、秋期(9月〜11月)と春期(5月)に3齢幼虫が根を食害することにより、樹勢衰弱と大幅減収が発生する。全園的に激発した場合には1/5〜1/7の収量となり、回復には2〜3年間以上かかる。
発生は、定植後6年以上で成木園で発生が多く、列間の中耕は発生を助長する。火山性れき土や砂質土の地域では発生が少なかった。
北海道内では、雌成虫の間接飛翔筋の有筋率が、黒松内低地帯線を境にそれより北の個体群では100%、それ以南の個体群では10〜40%と異なっている。しかし、両個体群間で雌の飛翔行動には大差が無いが、被害の拡大は、チャの場合に比較して早いようである。
(2)ナガチャコガネの性フェロモン物質の同定
ナガチャコガネの性フェロモン物質を、雌成虫のヘキサン抽出物中から各種クロマトグラフィーにより単離した。生物活性は小型風洞と野外誘引試験によって検討した。その化学構造を、GC−MS、キラルカラムを用いたHPLCおよびNMR分析により、(R,Z)-7,15-hexadecadien-4-olideと同定した(図)。本物質合成品のS-異性体には誘引性および誘引阻害性はなく、ラセミ合成品で誘引活性がみられる。E-異性体は誘引阻害効果がみられた。
(3)合成性フェロモンを利用した防除法の開発
(a)性フェロモントラップの開発
合成性フェロモンの精製には、尿素・メタノール法が適する。担体として白色セプタムが適し、担体当りの合成性フェロモン量は10 mgの場合に最も誘引数が多かった。トラップ形状では、色は影響がなく、垂直板の有無が捕獲効率に影響が大きかった。既存トラップでは、垂直板・屋根の形状によって捕獲効率は異なる。性フェロモントラップは、雄成虫の発生時期を簡易的に捉えることができ、圃場での発生の有無の確認、おおまかな発生状況の把握に有効であった。
(b)大量誘殺法の開発
ナガチャコガネは、出現日の性比によって、雌の交尾率が大きく影響を受け、雄の比率が少ないと交尾率は大きく低下する。大量誘殺法による次世代密度低下の効果は、合成性フェロモン10mgを付けたトラップあるいはテックス板を100個/10a相当数設置した場合、前者の補正密度は33.7、後者では13.9〜21.2の効果を示した(表)。
M.W. 250.39
図 ナガチャコガネの性フェロモン(R,Z)-7,15-hexadecadien-4-olide
表 ナガチャコガネの性フェロモンによる大量誘殺の効果
処理区 | 処理前(10株) | 処理後(10株) | 補正密度 | モニタートラップ |
圃場C トラップ (コガネコール黄) 無処理 |
88.0 21.5 |
128.5 94.0 |
33.4 100 |
224.3 271 |
圃場A テックス板 無処理 |
18.7 9.3 |
3.7 8.7 |
21.2 100 |
39.0 74.0 |
圃場B テックス板 無処理 |
5.3 3.0 |
1.3 5.3 |
13.9 100 |
43.0 113.0 |
4.成果の活用面と留意点
(1)ナガチャコガネの性フェロモン(Z)-7,15-hexadecadien-4-olideの同定および利用方法については、特許 第2654514号「ナガチャコガネの誘引剤」を取得している。
(2)合成性フェロモン10mg・白色セプタム製剤のトラップは、現地圃場における発生の有無および雄成虫消 長の簡易的調査に活用する。
(3)合成性フェロモンを利用した大量誘殺法は、ナガチャコガネの防除に活用する。
5.残された問題とその対応
大量誘殺法については、農薬登録が必要である。