1997230

成績概要書    (作成平成10年1月)

課題の分類:
研究課題名:サツマイモネコブセンチュウのトマト抵抗性品種打破系統の出現と新対抗植物の探索
       (サツマイモネコブセンチュウの抵抗性品種打破系統出現に対する緊急対応)
       (サツマイモネコブセンチュウに対する新対抗植物の効果査定)
予算区分:道費
研究期間:平成9年
担当:道南農試 研究部 病虫科
協力・分担関係:雪印種苗株式会社
          渡島北部地区農業改良普及センタ− 森町駐在所  

1 目 的

 サツマイモネコブセンチュウのトマト抵抗性品種打破系統の出現状況を調査し、発生要因を解析して打破系統の出現回避のための資料とする。また、ハウス内で利用しやすい新しい対抗植物を探索する。

2 方 法

 現地系統 1997年2月に抵抗性品種に激しいこぶがみられた現地ハウスから採取した系統。
 維持系統 1990年に現地から採取後、農試ハウスで感受性作物により維持してきた系統。

 打破系統出現要因試験 栽培温度によるねこぶ程度の変化、地域間差、抵抗性品種間差
 新対抗植物の効果査定 ネコブセンチュウ抑制効果をもつとされるソルガム「SS701」及びギニアグラス「ソイルクリ−ン」(雪印種苗)について、線虫抑制効果を検討した。

3 結果の概要

1 サツマイモネコブセンチュウのトマト抵抗性品種打破系統の出現

1)打破系統出現に関わる要因

(1)栽培温度(栽培管理)
  ① 維持系統では、感受性品種「ファ-ストカスタム502」で22℃から33℃までこぶが着生したのに対し、抵抗性品種「桃太郎」では28℃以下ではこぶがほとんど着生しなかったが、30℃以上でこぶが着生した。現地系統では「ファ-ストカスタム502」及び「桃太郎」とも22℃から33℃まで全ての温度でこぶが着生した。本結果から、維持系統(普通系統)に対して、現地系統は抵抗性品種打破系統であると判定された。
  ② 打破系統出現の確認は、トマト抵抗性品種を25℃程度で栽培することで判別できる。また、普通系統であっても30℃を超える高温では抵抗性品種の抵抗性程度は減衰する。(図1)

(2)栽培作物(道内における打破系統の分布)
  ① 道内の本種発生地域について、打破系統は森町濁川地区及び伊達市オロフレ地区で発生。静内町及び熊石町では未だ普通系統が発生。(図2)
  ② 各地域の栽培作物と発生する系統を対比した場合、打破系統出現地域ではトマト抵抗性品種が連続または高い頻度で栽培され、普通系統発生ハウスでは抵抗性品種の栽培頻度は低かった。

(3)打破系統に対する市販抵抗性品種の反応(有効な抵抗性品種の探索)
  市販のネコブセンチュウ抵抗性トマト29品種について、打破系統に対する抵抗性程度を検討した。(図3)
  ① 維持系統では対照とした感受性品種でねこぶ程度が低かったが、抵抗性品種にはこぶはほとんど認められなかった。現地系統では、全品種ともねこぶ程度が非常に高く、打破系統に有効な品種はなかった。

2 新対抗植物の探索

 ネコブセンチュウ抑制効果をもつとされるソルガム「SS701」及びギニアグラス「ソイルクリ−ン」(雪印種苗)について、線虫抑制効果を検討した。

(1)新対抗植物2種の発芽率及び生育量
  ① 「SS701」は発芽率が約100%と高く、播種作業も容易であった。「ソイルクリ−ン」は対照としたギニアグラス「ナツカゼ」の同22.3%に対して、試験によって27%から40%まで変動したが、やや高い結果であった。
  ②「SS701」の生草重は、ポット試験では5725㎏/10aであった。「ソイルクリ−ン」は同4750㎏で、対照の「ナツカゼ」の同4300㎏をやや上回った。

(2)新対抗植物2種のサツマイモネコブセンチュウ防除効果
  ① 農試温室内ポット試験:対抗植物の栽培によって2期幼虫密度及び後作トマトのねこぶ程度は低下した。しかし、対照区についても同じ傾向がみられたため、明確な防除効果の判定はできなかった。
  ② 現地農家ハウス試験:「SS701」及び「ソイルクリ−ン」では、対照のソルガムに比較して線虫密度抑制効果及びねこぶ抑制効果は認められた。(表1)
  ③ ポット試験:対抗植物跡地に栽培したトマトの茎長及び根重が対照区より有意に抑制されたが、農家ハウス試験ではこのような生育抑制は観察されなかった。


図1 維持系統及び現地系統生息土壌に栽培したトマト2品種の異なる温度におけるねこぶ程度


図2 実験室内で道内の線虫発生ハウス土壌に栽培したトマト3品種のねこぶ程度

     
図3 現地系統生息土壌に室内栽培したトマト31品種のねこぶ程度

  表1 現地線虫発生ハウスにおける対抗植物の線虫抑制効果
対抗植物の種類 ハウス No. 2期幼虫数/生土25g 被害程度
  対抗植物     トマト
播種時 鍬込前 定植前 収穫後
 3/19  6/18  7/24  12/ 4
  対抗植物後作トマト
     12/ 4
 調査株数 ねこぶ程度
「SS701」
「SS701」
「ソイルクリ−ン
対照ソルガム
No.3
No.2
No.4
No.2
 21.0   5.0    2.5   2.5
 33.5  25.5    5.0   25.0
 86.5  10.5    0.5   10.0
 33.5  46.5    7.0  141.0  
   23     10.9
   29     30.2
   30     15.8
   10     52.5  

4 成果の活用面と留意点

 1.本成果は果菜類に発生するサツマイモネコブセンチュウの防除対策に活用する。
 2.本種に対する防除対策は「平成6年指導参考事項」に準拠し、抵抗性品種の利用に偏らない。
 3.トマト抵抗性品種打破系統は、30℃を超える高温と抵抗性品種の連続的な栽培によって出現するので、打破系統出現回避のために、高温時は換気に努め、抵抗性品種の連作は行わない。
 4.本種の発生ハウスでは、これまでに指導した対抗植物に加え、「SS701」及び「ソイルクリ−ン」の利用が有効である。ただし、「SS701」はキタネグサレセンチュウに対する防除効果は低い。
 5.対抗植物の鍬込みは適期(約60日)に行い、腐熟期間は十分にとる。

5 残された問題点

 1.生物的防除法(天敵出芽細菌)の検討