課題名 草地型酪農地帯における低投入型経営の技術体系と収益性
予算区分 道 費
担 当  根釧農試経営科
研究期間 平成7〜9年度
協力分担 なし

1.目的
 草地型酪農地帯における低投入型経営を調査・分析して、収益性と技術体系が
経営全体として合理性を持つことを明らかにする。

2.方法
 低投入型経営の性格から経済合理性の指標として所得額ではなく所得率を、
「ゆとり」に関連して技術合理性として労働時間を取り上げ、調査データから経
営としての合理性を確認した。

3.結果の概要
 根釧管内で調査農家(大規模2戸、中小規模3戸)を選定した。低投入型経営は、
草地面積規模は120haから32ha、飼養頭数は総頭数で240頭から42頭、労働力2
名、夏期間は昼夜放牧飼養で、乳量水準は4,700〜7,500kg/年であった。なお、
全ての農家が乳検未加入であった。

1)技術合理性(表1)
 多くの農家で総労働時間は3,600〜4,200時間/年間と管内平均6,681時間の50%
から60%で、規模による差は明確ではなかった。飼養管理については放牧期の方
が放牧地の見回り時間が長い経営もあった。草地面積あたり成換頭数は、1.5と1
頭前後に分かれていた。繁殖については、分娩間隔が管内平均より短いなど、低
泌乳牛の昼夜放牧飼養に問題は見られなかった(表2)。

2)経済合理性(表3)
 所得率(減価償却費込み)の規定要因は飼料費で、酪農生産は費用面から見ると
規模の経済は働きにくい構造になっている。低投入農家の中には放牧のメリット
を生かし低コスト(36〜50円/kg)で生産している農家もおり、高い所得率(大規模
は29%、中小規模は55%)を実現していた。大規模ではフリーストールなど省力的
な群飼養の影響で労働の収益性が高く、中小規模では個体ごとの飼料給与等が可
能なので経産牛1頭当たり収益性が高い農家があるという特徴がみられたが、農
家間で格差が大きかった。

3)低投入経営の技術体系と収益性(表4)
 典型的な低投入型経営(B農家は育成牛なし、搾乳しない期間2カ月)の技術体系
と収益性は次のとおり。労働力はいずれも2名、1頭/1haであるが、大規模B(所得
1,160万円、所得率29%、乳飼比19.4、労働時間3,600時間、草地80ha、頭数90
頭、乳量5,200kg/年)は、フリーストール(D型を自分で改造)、ミルキングパーラ
ー。中小規模E(所得800万円、所得率55%、乳飼比13.3、労働時間4,100時間、草
地32ha、頭数42頭、乳量6,600kg/年)は、スタンチョン、パイプラインミルカ
ー、ロールベール収穫体系であった。

4)要約
 低投入経営は、放牧の有利性を生かした経営で、(1)労働時間が短い(2)所得率
が高い(3)牛乳生産費用が安い(4)乳飼比が低い。中小規模では高い所得率が特徴
で、大規模酪農の場合には季節繁殖で1,160万円の所得も可能で乳飼比が19.4%と
低い。

4.成果の活用面と留意点
 1)経営方針(目標所得額と目標労働時間)によって最適規模は変動するが、最大
所得追求型ではない低投入の経営方針を持つ労働2名の農家に参考になる。放牧
に適したほ場の確保が条件。また、放牧期に乳成分が不安定になるため飼料給与
に留意する。

 2)低投入型経営では、投資水準も極端に低く抑えられていることに留意が必要
である。とくに、中小規模では所得額は大きくないため、償還可能額も小さいの
で慎重な投資計画が必要。

 3)所得の拡大が必要となった場合、乳牛を増頭し、草地の拡大ができなければ
泌乳水準を上げるため購入飼料に依存せざるをえなくなるが、この場合には低投
入型経営の収益性が低下する。

5.残された問題とその対応
 1)低投入型経営への転換過程の解明。

 2)草地生産性については明らかではない。とくに、1頭/1haの経済面からの解
明。

 3)資源効率については、本来エネルギー効率が基本であるが、ここでは扱って
いない。