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成績概要書    (作成 平成10年1月)

課題の分類:北海道農業 総合農業 農業経営
研究課題名:天北地域における放牧導入割合別経営モデルの策定と経営経済的評価
       (ゆとりある酪農経営をめざした放牧による低コスト生乳生産の体系化)
研究期間:平7−9年度
予算区分:国費補助
担当科: 天北農試 研究部 草地飼料科
担当者: 坂東 健
協力・分担関係: 根釧農試 研究部 経営科

1.目的                                    

 天北地域において放牧の効率的な活用を図るために放牧導入割合別の経営モデルを策定するとともに、放牧導入割合が酪農経営に及ぼす経営経済的な効果について、策定した経営モデルを用いて明らかにする。

2.方法                                    

1)放牧導入割合別経営モデルの策定

 天北地域の12か市町村の酪農家131戸について放牧実施概況を調査するとともに、酪農家18戸について、放牧導入割合別に経営概況、労働時間、施設・機械の保有状況、経営収支を精査する。さらに、これらの調査、既往の成績および「道酪肉近計画」、「道農業・農村のめざす姿」などを基にして、経産牛の放牧依存率(全給与TDN量に占める放牧草で給与されるTDN量の割合)と繁殖方法を異にする5タイプ(0、小、中、大および大・季節繁殖)の経営モデルを策定する。1戸当たりの飼養頭数は経産牛50頭、育成牛40頭とし、経産牛1頭当たりの乳量は8,200kgと一定にして作成する。

2)放牧導入割合別経営モデルの経営経済的評価

 先に策定した放牧導入割合別経営モデルの経営経済的評価を行う。          

3.結果の概要

1)放牧導入割合別経営モデルの策定

(1)天北地域における酪農家1戸当たりの放牧地および兼用地の面積は、それぞれ9.4ha、3.6haであり、全草地面積の19%、7%を占めていた。放牧導入割合(放牧依存率)の高い酪農家(大区)は「放牧なし(0区)」の酪農家に比べて、夏期間の経産牛および育成牛の飼養管理労働時間が少なく、収益はやや少ないが費用(飼料費等)も少ないために、所得金額および所得率は高くなった(表1)。放牧依存率の違いが施設・機械の保有状況に及ぼす影響は明らかでなかった。また、同じ放牧依存率でも酪農家間の経営成果の差異は大きいことが認められた。

(2)策定した経営モデルにおいて、放牧依存率が高くなるにつれて牧草サイレ−ジおよび敷草の調製量、および処理を必要とする堆肥および尿の舎内産出量は著しく減少し、また放牧草は高栄養粗飼料であるために併給する配合飼料の粗蛋白質の含量を低下させ、ビ−トパルプの給与量を増加することができた。各モデルの放牧依存率は、0、小、中、大および大(季節繁殖)で、10、18、25、33および37%となり、飼料自給率は68%から71%の範囲にあった(表2)。

2)放牧導入割合別経営モデルの経営経済的評価

(1)策定した放牧導入割合別の経営モデル5タイプの経営経済的評価を行った。労働時間では乳牛飼養管理、飼料調製(草地管理を含む)および堆肥管理のいずれにおいても0区(経産牛の放牧なし)が最も多く、年間合計5,547時間となり、放牧依存率が高くなるにつれて減少し、大(季節繁殖)区が最も少なく、0区に比べて638時間減少した(表3)。

(2)各モデルの収益は同じであったが、放牧依存率が高くなるにつれて費用のうち、飼料費、機械の減価償却費と修理費、諸材料費(牧草サイレ−ジ調製用等)などが減少したために、所得金額および所得率は増加し、自家労働1時間当たりの所得金額は1,539円から2,257円へと増加した(表3)。

 以上、天北地域の酪農経営において放牧導入割合を高めることは、労働時間の短縮および経営経済的な見地からみて、有効であると考えられた。

表1調査酪農家の経営概況と経営成果 (1戸当たり、1頭当たり)
放牧依存率 農業従事者 草地面積 飼養頭数 出荷乳量 放牧時間 飼養管理労働時間 収益 費用 所得金額 所得率
経産牛育成牛合計
飼料給与合計
  (人) (ha) (経産牛) (t/年)   ─(時間/頭・日)─ (千円/経産牛頭・年) (%)
0 2.8 62 50 388 0 0.107 0.285 0.08 761 671 171 22.2
2.8 52 50 410 7 0.058 0.25 0.071 767 644 232 30
2.8 56 44 351 8 0.073 0.221 0.09 784 652 226 28.9
3 53 41 314 18 0.049 0.215 0.033 732 598 224 30.4
注1)放牧依存率0は「経産牛の放牧なし」、小、中および大は「経産牛の放牧あり」で、成牛換算1頭当たりの   補正放牧地の多少により区分した。
 2)調査戸数は、それぞれ4、5、4および5戸(労働時間調査については、それぞれ3、1、1および4戸)であっ    た。
 3)所得金額には、乳牛繰入れ評価額の増減などを含む。

表2策定した経営モデルの概要 (1戸当たり)
放牧依存率 草地面積 利用・調製量 濃飼給与量 舎内産出量 放牧依存率 飼料自給率 資産合計
放牧草牧草S敷草ビ-トP合計堆肥尿
  (ha) ─(乾物t/年)─ (乾物t/年) (原物t/年) (%) (%) (千円)
0 60.6 44 278 23 15 117 640 262 10 68 73,280
61.5 77 245 23 19 117 595 244 18 68 72,845
61.5 111 212 18 23 116 546 227 25 68 71,900
61.9 145 178 16 26 116 380 164 33 69 68,662
大(季節繁殖) 63.5 164 168 15 29 108 345 146 37 71 69,322
注1)経営モデルの放牧依存率は「(給与放牧草のTDN量/給与全TDN量)×100」を示す。
 2)牧草S:牧草サイレ−ジ、ビ-トP:ビ−トパルプ

表3策定した経営モデルの経営経済的評価 (1戸当たり、1時間当たり)
放牧依存率 労働時間 費用 所得
乳牛飼養 飼料調製 合計
飼料費 減価償却費 修理費 諸材料費 合計
金額 1時間
当たり
   (時間/年) (0区に対する差額、千円/年) (千円/年)(%) (千円)
0 4,811 680 5,547 6,875 3,971 1,919 399 27,320 8,390 23.5 1.5
4,687 654 5,393 -177 -37 -13 -44 -392 8,782 24.6 1.7
4,526 617 5,190 -341 -81 -28 -91 -875 9,265 25.9 1.8
4,413 578 5,024 -506 -469 -298 -137 -2,017 10,406 29.1 2.1
大(季節繁殖) 4,294 585 4,909 -957 -479 -303 -152 -2,472 10,862 30.4 2.3
注1)費用の0区の金額は実数を、その他の区は0区との差額(増減)を示す。
 2)1時間当たりの所得は「自家労働1時間当たりの所得」を示す。
 3)減価償却費および修理費は飼料部門(機械等)の費用を示す。

4.成果の活用面と留意点

  経営条件は酪農家間で大きく異なるので、放牧導入の効果については、経営体個々について検討が必要である。

5.残された問題点とその対応

  本試験における放牧導入の効果については、さらに実証的な検証が望まれる。